数年ぶりに、かぎ針編みを再開した。
頭を空っぽにして、淡々と同じ動きを繰り返す編み物の時間は、まるで瞑想のように心を整えてくれる。そうやって手間をかけて生み出した小物は、たとえ不格好でも愛おしく思える。
編み物の思い出
初めて編み物に挑戦したのは中学生のときだ。経緯は覚えていないが、友人の母に導かれるまま友人と同じ黒い毛糸を買い、マフラーを作ることになった。
私の母も昔はよく編み物をしていたそうで、母からアドバイスをもらいながら、毎日少しずつマフラーを編み進めた。編み目を数えるのが難しく、ほどいてはやり直す日々。昔、母が父にプレゼントしたという手編みのセーターも見せてもらったが、マフラーですら苦戦している私には到底作れそうもないな、と思った。
編み目がきれいに揃った友人のマフラーと比べて、私のマフラーはずいぶん不格好な仕上がりだった。友人のものにはアクセントに白いラインが3本入っていて、それが羨ましかったこともよく覚えている。
なんだかんだで、私は初めて編んだ不格好なマフラーが気に入り、冬の間中ずっと首に巻いていた。
かぎ針編みとの出会い
私にとって、“編み物”といえば棒針編みだった。暖炉の前で揺り椅子に座って編み物をするおばあさんの手には、棒針が握られているのが鉄板だ。
そんな私が、ある日かぎ針編みの存在を知った。5年ほど前のことだ。かぎ針は棒針よりもコンパクトで、1本の針で編み進められるので簡単そうに思えた。「久しぶりに編み物をしてみよう」と、早速かぎ針編みの道具を買いに行くことにした。
かぎ針は、ネット上で評判がよかった、クロバーというメーカーの「アミュレ」セットを購入した。
また、段の編み始めがわからなくなることを防げる目数・段数リングと、とじ針も用意した。毛糸は100円ショップで購入した。これだけあれば、かぎ針編みは始められる。
まずは、かぎ針編みに慣れたかったので、編み物の本を参照しながらアクリルたわしを何個か作ってみることにした。黙々とかぎ針を動かしていると、心が落ち着いた。編み物特有の時間の流れが、なんだか懐かしかった。そして、不格好ながらも作りたかったものが完成したときの達成感といったら!
たわし、といっても汚してしまうのがなんだか惜しくて、編んだものたちはキッチンの片隅で用途不明のオブジェと化した。他にも作りたいものはいろいろあったが、時間を見つけられないまま、やがて編み物への熱はおさまってしまった。
クリスマスツリーを作る
それから数年が経ち、冬が訪れ、私は突然編み物を再開したくなった。Instagramでかわいいニット小物を見かけたのがきっかけだ。自分にも作れるだろうか。
久しぶりに握るかぎ針。編み方はとうに忘れてしまっている。ただ、YouTubeを開くと編み方を丁寧に解説している動画が多数あり、それらを参考にすれば編み図が読めなくてもいろいろな小物が作れそうだった。なんていい時代だろう。
作ってみたいものは次々に浮かんだが、まずは季節ものの小さなオブジェを作ることにした。我が家にはクリスマスツリーがないので、クリスマス気分を高めるためにもツリーを編んでみよう、と。
毛糸は、今回も100円ショップで購入した。ダイソーにはさまざまな色の毛糸が売られていて、ツリーを作るのに必要な色もすぐに揃った。
YouTubeを見ながら、深い緑の毛糸で円を編んでいく。途中で編み目の数がわからなくなったが、「家に飾るだけだから」と気にせず編み進めた。挫けずに、勢いで作りきることの方が大切だ。
5時間ほど集中して取り組み、なんとか完成させたのがこちら。飾りがほぼないので、少し寂しい。夫からは「(ポケモンの)ベトベターみたい」という、ありがたくない感想をもらった。

その後、他のYouTube動画を参考にしながら、トップに星を加えた。さらに、100円ショップでビーズを買い、毛糸を使って縫いつけてみた。イメージどおりの仕上がりだ。
クリスマスケーキの隣に置いてみたところ、クリスマス感がぐんと高まった。作ってよかった。

鏡餅を作る
季節もののオブジェを作ることの楽しさに目覚めた私は、次にお正月用の鏡餅を編むことにした。クリスマスツリーや鏡餅は飾れる期間が短いため、わざわざお金を出して買うことにためらいがあったが、編み物であれば安価に用意できるのでいい。
ツリー作りを通して慣れたおかげで、編むスピードは少し上がった。今回は綿も購入し、中に詰めてお餅の形を作っていく。綿も100円ショップで買える。
ツリーを編んだときに編み目のカウントが適当になってしまった反省から、目数・段数リングを使って丁寧に進めた。それでも形はやや歪になってしまったが、少し上達したと思う。
できあがった鏡餅を早速テレビ台の上に飾り、夫の帰宅を待った。帰ってきた夫は、ちらりと見て「え、これ買ったの?」と。売り物に見えたのであれば、それほど嬉しいことはない。

クリスマスツリーや鏡餅などのオブジェは、小さくても置いてあるだけで季節感が出る。毛糸で作るとあたたかみがあり、冬にぴったりだ。飾れる期間はあっという間に終わってしまったが、埃がつかないようにジップロックに入れて棚にしまって、次の冬にも飾ろうと思っている。
編み物の魅力
編み物は、瞑想に似ている。編み目を数えながら同じ動きを延々と繰り返していると、雑念が消え、目の前のことだけに集中する時間が生まれる。普段忙しくしている人ほど、編み物の時間を持つと心が整うはずだ。
そうやってゆったりと時間を過ごしながら編み進めた結果、自分のイメージしていたかわいい小物ができあがる。過程と結果、両方に楽しみがあるのが、編み物のいいところだ。
まだ部屋に飾るオブジェしか作れていないが、身につけられるイヤーマフやバブーシュカなどにも挑戦したい。太い毛糸でざくざくとカバンを編むのも楽しそうだ。そして、またいつか、マフラーにも挑戦してみたいな、なんて思う。きっと、あの頃よりは上手く編めるだろう。