イベントに新作ZINEを作っていった
先日知人に誘われて、創作物の展示即売会イベントに参加することになった。
小規模ながら、画家やドール作家、ハンドメイド作家など、さまざまな作家が集まる、ジャンルレスなイベントだ。
わたしは小説や詩の創作をしているので、以前作った小説冊子に加えて、新作のZINEを作って持っていくことにした。
ZINEの制作中は生みの苦しみに苛まれつつもとても楽しい時間だったので、今回はその話をしようと思う。
初参加の創作イベント
声を掛けてくれた知人が主催したこの展示即売会。
わたし自身が初参加だったのみならず、イベント自体も今回が第1回だった。
そのためどんな作家さんが参加して、どんなお客さんが来るのか、会場の雰囲気はどんな感じか、すべてが未知数で、手探りの出展準備となった。
イベントのテーマは“異形”
出展にあたって決められていたのは、“異形”というテーマだけだ。
人と異なる姿形をした者達=異形の自作のアイテムであれば、特に制限はなかった。
ただこのテーマが意外と厄介だったのだ。
「面白そう!」と参加を表明してからすぐに、頭を悩ませることになった。
異形とは何か。人魚や妖精といった“人外”とは違うのか。
調べてみると、さまざまな創作分野のファンが文化芸術にまつわる事象を解説しているピクシブ百科事典では、このように定義されていた。
異形
普通とは違う怪しい形・姿をしていること。
現在のPixivでは、既存の生物とはかけ離れた形態をした生物・怪物や、実際に存在するがすぐ死んでしまうような形態を指す。人間(貧民、エミシ、乞食、サンカ)も指す。
妖怪や異形で無い、中央やそれぞれの地方の基本文化と異なる風体をした人々も「異形」と呼ばれた。
人外
人でないけれど人に近いもの。かつ、人との意思疎通がある程度可能であると思われるもの。
主流なものでは、亜人、ロボット、創作による合成など人間ではないが人間に近いキャラクターを指す。人と同等程度の知能を有する例が多い。
(引用:ピクシブ百科事典 人外とは)
どうやら異形とは、わたしが想定していたよりもグロテスクで暗い雰囲気をまとったもののようなのだ。
異形と検索して出てくる画像も、モンスターのようなものばかり。
それらのイメージは、わたしの作風と相性がよいとは全く思えなかった。
ただ今回のイベント概要には「この世の理とは異なる姿形をした者達がいつか自分達の存在が誰かの希望になる事を夢見ながら今日も楽しく仲間達と戯れる。」とあった。
この文面からは、あまりおどろおどろしくなくてもよさそうなポジティブさが伝わってくる。
既存の異形の定義にとらわれなくてもいいのかもしれない。
そう思い直し、わたしの表現で可能な異形を模索することになった。
出品物を考える
幸い、以前書いて冊子にした短編集が人ならざる者の登場する話だったので、それは持っていける。
あとは新作をどうするか。
せっかくの機会なので、やっぱり新作も持っていきたい。
イベント参加が決まったのは11月で、開催は3月。
遅筆な自分ではこれからそこそこの長さの新作を書いて、同人誌印刷所に入稿して1冊を仕上げるのは難しい。
となると、ごく短い小品を自宅でできるやり方でまとめる、いわゆるZINEと呼ばれる小冊子の形式がよさそうだ。という大体の方向性まではすんなり決まった。
ZINEとは?
個人または少人数の有志が、非営利で発行する自主的な出版物のこと
作者自身の個人的な思いや考え、主張を色濃く反映した小冊子が多いが、内容も形式も自由
主にコピー機やリソグラフ、家庭用のインクジェットプリンターなどで印刷し、ホチキスやクリップ等で簡素に製本された冊子の形態をとるものが多い。
分業化された商業出版に対し、ジンでは印刷・製本から流通まで、作品が読者に届くまでのあらゆる作業に作者自身が関与する。(引用:wikipedia ZINE)
問題はどういう形に仕上げるかと、中身の執筆だ。こればかりは、アイディアが浮かぶのを待つしかない。
クリスマスを迎え、年末が過ぎていき、新しい年になり…。
少しずつイベント当日が近づいてくる中、新作をどうしようか頭の片隅でふわふわ考え続けていた。
締め切りに追われる準備期間
手作りのZINEを作ることに決めたまではいいが、具体的な構想を全く練ることができないまま空しく日々が過ぎていった。
そして気が付くと、なんとイベントまでもうあと一か月もなかった!
アイディアがまとまらない!
いい加減制作に取り掛からねば、と無理やりにでも案を出してみるのだが、どれもしっくり来ない。
残念ながらわたしはあまり手先が器用ではない。
だからあまり手の込んだものを作ろうとしても、出来上がったものが理想像からかけ離れていてがっかりしてしまうパターンが多い。
“手の込んだ素晴らしいもの”は時間に余裕があって、他の人に頼ることもできる別の機会にトライしたらいい。
今は、わたしの実力と残された時間で実現可能で、且つ魅力的で納得いくものを作りたい。
悩んだ末、本の形にするのではなくて、ほんの短いお話をいくつか用意して1枚ずつポストカードにするのはどうだろうかと思い付いた。
そこからまた、「カードにするならちゃんとした印刷の方がかっこいいしな」とか、「絵を添えるなり箔押しにするなり、デザインもこだわった方が…」とか迷った挙句
- 異形をテーマにした8本の童話を書く
- 1枚ずつ切り離すのではなく、紙を蛇腹に折って4枚をひとまとまりにする
- 文章を印刷しない面は、指をモチーフにしたデザインで飾る
というところに、一週間前になってようやく落ち着いた。
その後も、指のデザインには写真を使うか、絵を描くか、写真に手で彩色するか。
蛇腹のカードの他に用意する表紙のデザインはどうするか。
決めるべきことは山程あった。
イベントに間に合うのか!?
文章自体は全部合わせて2500文字程度で、ストーリーもすんなり浮かんできたので、遅筆とは言えそこまで大変ではなかった。
問題は、指のデザインの方である。
最終的に紙で指の形を作ることにしたわたしは、イベント2日前、64本の指をひたすら切り、そこに色とりどりの64枚の爪を貼った。
これが予想以上に時間も労力もかかる作業だったのだ。
切っても切っても、貼っても貼っても終わらない膨大な作業量。
この作品のこと以外にも、出展のための準備だってあるのに、果たしてイベントに間に合うんだろうか!?

戦々恐々としながらも、少しずつ制作は進み、翌日夕方16時頃に作品が完成した。
気が付けば日が昇って、徹夜明けの一日ももう日暮れ間近だったわけである。
全力を出し切った新作
作業に没頭して楽しくて時間を忘れるなんて、いつぶりだろうか。
準備中は、迫る締め切りに向かってがむしゃらにZINE作りに取り組み、まるで文化祭前夜のような心境だった。
自分を追い込み、過酷な状態で頑張るのは大変だったけれど、自分の手を動かして段々作品が形になってくるのはとても楽しかった。
また、限られた条件の中で自分の最善を尽くすことで、普段はなかなか味わえない充実感を得ることができた。
肝心の作品の出来も、手作りならではのほっこりとしたかわいらしさを感じられる仕上がりで、なかなか気に入っている。
直前まで大わらわだったが、全力を尽くして取り組んで本当によかった。
完成直後は、出来立てほやほやのZINEを前に、しばし達成感に浸っていた。
とうとう迎えたイベント当日
ZINEが完成した後、大急ぎで出展準備をして、いよいよ迎えたイベント当日。
会場はビルの2階の貸しスペースで、ちょっとした隠れ家のような雰囲気だ。
大きなテーブルを8人の出展者で分けて、それぞれのブースに思い思いに作品を並べた。

絵に人形にアクセサリーと、並べられているものはブースによってさまざま。
普段は文芸同人誌やZINE中心のイベントに出ることが多いので、これほど多様な作品が揃う会場は珍しい。
出展作家も初めて会う方が何人かいらっしゃったので新鮮で、創作に対する思いなどを聞いて刺激を受けた。
客層も普段とは違っており、小規模なイベントだからこそすべての出展物をじっくり観てくれる方が多かった。
直に作品に対するコメントを頂けたり、応援して頂けたりして嬉しい。
ありがたいことに、新作も旧作も好評を頂いた。
準備期間の大変さなどすっかり忘れて、あちこちで話に花を咲かせ、楽しい時間を過ごすことができた。
そうして初開催ながら多くのお客さんにご来場いただき、盛況のうちにイベントは終了したのだった。
何度でも味わいたい充実感
刻一刻と迫って来る締め切りに追われるのはキツい。
だが、夢中になって何かに打ち込む充実感や、やるべきことを成し遂げられたときの達成感は、その苦労を上回るものがある。
特に今回のように、最後に待ち受けているのが楽しいイベントであれば、準備中もまるでお祭り前夜の気分だ。
さすがに毎月のようにこんな状況に直面したら困るけれど、たまにだったら悪くない。
やりきったときの満足感は、これからも何度でも味わいたいものである。