本がくれた居場所を次の世代へ「一箱本棚サポーター」という寄付のかたち

たねとしずくライブラリー

人見知りかつ転勤族の家庭に育ったわたしは、ときどき居場所を求めて図書室に足を運んでいた。本を開いて静かに過ごす時間は、わたしにとって安心できる時間。誰とも話さなくていい、でも、ひとりじゃない。ページをめくるたび、物語の世界がわたしを包んでくれた。

今、わたし自身が親として小学生の子どもを見守るなか、同じように心の拠りどころが必要だと強く感じる。

だからこそ兵庫県西宮市にある、たねとしずくライブラリーの活動を知ったとき心を動かされた。今回は、本と寄付という関わりで子どもたちの居場所をつくる『一箱本棚サポーター』をご紹介したい。

寄付と本で応援する『一箱本棚サポーター』とは

1階フリースペースの本棚
出典:NPO法人こどもサポートステーション・たねとしずく

兵庫県西宮市にある、たねとしずくライブラリーは、0歳から10代までの子ども達のための図書館と自習室があるフリースペース。NPO法人こどもサポートステーション・たねとしずくが運営している。

たねとしずくライブラリーは、水・木・金曜の10時から20時まで開館しており、未就学児の親子(15時まで)を除いて、子ども専用のスペースとして使われている。利用料は無料である。

ここでは読書はもちろん、勉強をしてもいい。友だちと話してもいいし、ひとりでいてもいい。たねとしずくライブラリーは、学校でも家庭でもない“第3の居場所”。子どもたちの居場所を継続的に運営していくには、安定した支援が必要だ。

その取り組みを、本と寄付で応援する仕組みが『一箱本棚サポーター』

サポーターになると、たねとしずくライブラリーに自分の“ひと箱”の本棚を持つことができる。そこには、子どもたちに読んでほしいと思う本を置けるのだ。

新品である必要はなく、これまで自身が読んだ本でもOK。漫画、クイズ本、CD、DVDなども置ける。読書の楽しさや言葉の力を、自分なりのセレクトで届けてみてほしい。

現在、80箱のうち48箱が『一箱本棚サポーター』によって運営されており、多様な本が並んでいる。子どもたちはその本棚から自由に本を読んだり、借りて帰ったりしている。

一箱本棚サポーターとして参加するには

  1. “寄付のお申し込み”ページから、月額3,000円以上の継続寄付を行う。
  2. “一箱本棚サポーター申し込みフォーム”から登録を行う

支援した寄付は、たねとしずくライブラリーの運営費として活用され、家賃光熱費や週3回開館する際のインターン1人分の人件費など、子どもたちを長期的に迎え入れるための体制整備につながっていく。

2025年春には、実際の一箱本棚を見て、たねとしずくライブラリーの様子を質問できる『一箱本棚サポーター』のオープンデイも実施された。

本棚を通して子どもたちと繋がる。置いた本は、子どもたちが必要なときに手に取って、何かを感じ取ってもらえるかもしれない。本棚の数だけ温かい大人の見守りがあり、支援を“手渡しできないけれど、手放しでもない”関わり方ができる。

“見えにくい困難”と向き合う、こどもサポートステーション・たねとしずくの取り組み

2階自習室
出典:NPO法人こどもサポートステーション・たねとしずく

子どもたちの困りごとは、常に表面に現れるものではない。ときに、本人ですら気づいていないこともあり、大人の目には届きにくい。

NPO法人こどもサポートステーション・たねとしずくが支援しているのは、経済的に困難な状況にある子どもたちである。だがその背景には、さらに複雑で個別性の高い事情が重なっている場合も多い。

たとえば、親が病気や障がいなどで心身ともに余裕がなく、甘えたい時期に甘えられない子ども。学校や地域で孤立し、学びや体験の機会が極端に少ない子ども。困っていることにすら気づかれないまま、声をあげる術も知らず日々を過ごしている子どもたち。

そうした子どもたちに寄り添い、必要な支援制度や社会資源へとつなげていくことが、たねとしずくの果たす重要な役割である。

情報格差や孤立のなかにある家庭ほど、制度や専門機関との接点を持ちにくい。せっかくの支援も、つながる前に途切れてしまうという現実がある。

そのような状況に陥らないよう、たねとしずくは家庭と継続的な関係性を築き、日常的に伴走しながら必要な支援先とつなぎ続けている。支援の内容は、家事代行や食糧支援、児童相談所との連携など多岐にわたる。

たねとしずくライブラリーはその支援の一環。家庭での体験が少ない子どもたちの読書機会を増やし、子どもたちが親から離れて過ごせる第3の居場所を作った。

すべての子どもが、家庭環境に左右されずに自らの人生を選び取れるように。そのために、たねとしずくは今日も困難を抱える家庭と向き合い続けている。

応援は、「本が好き」の気持ちから始めていい

“支援”や“寄付”と聞くと、身構えてしまうこともある。でも『一箱本棚サポーター』 は、「自分が好きな本を、子どもたちにも読んでもらいたい」という気持ちも出発点にできるだろう。

本は価値観を押し付けることなく、自身が必要なときに手に取ってもらって、心地よさや感情を表現するきっかけを与えてくれる。わたしがかつて図書館で感じた本の楽しさを子どもたちに届けられたら、そんな未来を想像した。

『一箱本棚サポーター』は現在も募集中だ。あなたの本棚の1冊が、誰かの未来を照らすかもしれない。まずは、NPO法人こどもサポートステーション・たねとしずくの公式サイトで活動をのぞいてみてほしい。

杉浦百香

ライター。女性向けや企業メディアのSEO・コラム・レビュー記事を執筆。なかでも、日用品を中心としたモノ系記事を多く担当している。左利きの文具好き。