世界を旅する家ごはん

世界各国の文化を形作っている、“食”。異国ならではの料理をひとくち食べれば、家にいながらでも非日常感を味わうことができる。

子どもが生まれ、気軽には海外へ行けなくなった。そんな我が家では、旅をする代わりに、世界各国の料理を作って楽しんでいる。

新しい味との出会い

世界各国の料理やお酒を試すのが好きだ。「知らない味に出会う」という体験はエキサイティングだし、手軽に旅の気分を味わうこともできる。

思い返すと、そんな探求心が生まれたのは、社会人になりたてのタイミングだったと思う。

よく覚えている夜がある。その日は、有給を取ってひとりで後楽園のラクーアに行き、高野秀行さんの『イスラム飲酒紀行』を読んでいた。飲酒が禁じられているイスラム圏で、著者が密造酒や密輸酒を飲み歩くという、なかなか刺激的な旅行記だ。

本書には、“アラック”という蒸留酒が登場する。初めて知ったそのお酒の味がどうしても気になって調べると、どうやら中野にアラックを出す飲食店があるらしい。私は急いでラクーアを飛び出し、中野に向かった。

お店の名前は忘れてしまったが、異国情緒あふれる店内で早速アラックを煽る。ぶどうから作られ、アニスシードで香りづけがされているというそのお酒は、ほんのりと甘く、強かった。

“未知の味”と言えば、エチオピアの主食である“インジェラ”を食べたことも思い出深い。きっかけは、インジェラが「雑巾のようだ」と言われているのをネット上で見かけたこと。他国の主食を雑巾と形容するなんて甚だ失礼な話だが、それによって興味が湧いたのも事実だ。

インジェラを出すお店は都内にいくつかあり、早速ひとりで食べに行った。テフという穀物から作られるインジェラは、灰色がかった見た目で、クレープ生地のように薄く柔らかい。ほのかな酸味があり、確かに馴染みのない味だけれど、癖になるようなおいしさだった。

インジェラ。雑巾は言い過ぎだけど、布には見えるかも?(出典:PIXTA)

未知の味に不安を覚えることはほとんどない。むしろ、“ゲテモノ”と言われるものほど食べてみたい。

そんな私が大好きな番組がある。Netflixで配信されている腹ぺこフィルのグルメ旅だ。フィルがおいしいものを求めて世界中を旅する、という番組で、現在シーズン8まで観ることができる。ファインダイニングからローカルグルメまで。貪欲に未知の味を求める彼の旅は、まさに私の理想だ。

家ごはんで旅をする

とはいっても、子どもが生まれたばかりの今、海外を自由に旅するということはなかなか難しい。代わりに、「今日は、この国の料理を作ろう」とテーマを決めて家で料理をすることが多くなった。飲み物や、食事中のBGMにもこだわり、旅気分を盛り上げる。すると、毎日の料理が一層楽しくなった。

よく作るのは、中華料理、韓国料理、イタリアン。日本の食文化にも溶け込んでおり、もはや馴染みの味である。現地を訪れたときに知った料理を再現しようと頑張ってみることもあれば、食べたことがない料理をレシピ片手に作ってみることもある。

なるべく現地の味に近づけるためには、その国で作られた調味料を使うことが大事だ。たとえば、韓国料理に使う唐辛子粉を、日本の一味唐辛子で代用してしまうと辛味が強くなりすぎる。韓国食材店で手に入る唐辛子粉は韓国唐辛子が原料で、使うと料理に辛さだけではなく甘みも加わる。

時間に余裕がある日は、インド料理に挑戦する。インドの炊き込みご飯であるビリヤニがお気に入りだ。工程が多く、やや大変ではあるが、異国情緒をたっぷりと感じられて満足度が高い。現地の味わいに近づけるコツは、日本米ではなくバスマティライスを使うこと。食事を終えても、まだ部屋に残っているスパイスの香りが心地よい。

これから作ってみたいのは、魚介類のマリネ“セビーチェ”などが有名なペルー料理や、オランダでよく食べられているというスリナム料理だ。

世界の料理に挑戦したい場合は、まずは図書館に行ってみるといい。あらゆる国のレシピ本が並んでいて、どのレシピにも美しい写真が載っているのでイメージがつきやすい。パラパラとめくり、食欲に導かれるままに作りたいものを決める。

気に入って、購入したレシピ本もいくつかある。

『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』には、餃子や焼売、さまざまな麺など、小麦粉で作れる料理のレシピが40種類以上載っている。日本では見慣れないものもあり、端から試してみたくなる。

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野菜や魚を多用する南インド料理を作るなら、『南インド料理とミールス』がおすすめだ。材料は多いけれど、揃えられさえすれば、家で本格的な南インドの味を楽しむことができる。

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食材の仕入れ方

各国の食材や調味料を仕入れる店も、お気に入りが見つかりつつある。

よく訪れるのは、新大久保だ。新大久保は韓国料理で有名だけれど、中国を始めとしたアジア食材が揃う“華僑服務社”や、タイ食材を中心に扱う“アジアスーパーストアー”、スパイスが豊富な“グリーン・ナスコ”など、さまざまな国の食材を手に入れられる店があちこちにある。もちろん韓国食材を扱う店もいくつかあり、私は“韓国広場”に行くことが多い。

インド料理を作るためのスパイスは、目黒の“マヤバザール”で購入することも多い。ここに来れば、基本的なスパイスは一通り仕入れることができる。値段もお手頃で、おすすめだ。

イタリア料理を作るときは、銀座や日本橋などに店舗を置く“EATALY”を訪れるとイタリア気分が高まる。お気に入りのパスタ、“マンチーニ”は必ず買って帰る。

終わりに

忙しいときほどマンネリ化しがちな日々の料理。休日など、時間が取れたときには、異国情緒漂う料理に挑戦してみたい。食材の買い出しも含めて、きっと世界を旅をしているような気分になれるはずだ。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。