新しく始まった、昭和の少女まんがを主にご紹介するシリーズ、少女まんがの沼から。
今回は“スポーツ少女まんが”にスポットを当てる。
スポーツの秋、とはいうものの、9月はまだまだ暑さが厳しい。実際に体を動かすのはちょっと…という方も、まんがでスポーツの秋を満喫してみては?
スポーツまんがの世界
スポーツものと言うと、パッと“スポ根”のワードが頭に浮かぶ方も多いのではないだろうか。
ハードな特訓や身辺問題を根性で乗り越え、成長していく。そんないわゆるスポ根ものには著名な作品も多い。
けれどスポ根以外に、モチーフとして描かれるスポーツが作品の幅を広げているケースも多数存在する。
まずはそれぞれのスポーツまんがの特徴を軽く確認しておこう。
熱血!スポ根もの
主人公がスポーツに打ち込み、ひたむきに努力して成長していく姿を描く、スポーツ根性もの。
もともとは1960~70年代の高度経済成長期に人気の出たジャンルで、熱く闘志を燃やし、勝負に命すら賭けるような怖いほどの真剣さが特徴だ。
- 過激な特訓
- 現実にはありえないようなカッコいい必殺技
- 努力型の主人公と天才型のライバル
これらの要素もスポ根には欠かせない。
技術面だけでなく、家庭や友情などあらゆる問題を乗り越え、精神的にもひと回りもふた回りも成長していくドラマを見ていると、自然とまんがの登場人物たちを応援したくなる。
日常に華を添えるスポーツ
苦しいスポーツとも言えるスポ根が一大ジャンルとして屹立する一方で、スポーツが重要なモチーフであっても、必ずしも競技に取り組む姿がストーリーの軸ではない作品もある。
そういった作品の主軸は恋愛やコメディなどさまざまで、スポーツを媒介にして深まる絆や生まれる縁がストーリーの肝となっている。
いわばスポーツは主人公たちの日常に華を添える一要素なのだ。
もちろん、だからといって勝敗にこだわらない楽しいだけのスポーツばかりではないけれど、勝敗よりもスポーツをする過程で登場人物たちの心に起こる変化が重視される。
少女まんがで読むスポーツ4選
ここからは、古典的名作から変わり種まで取り混ぜて、種目別にいくつかのスポーツ少女まんがを紹介する。
どれもそのスポーツに詳しくなくても楽しめるものばかりなので、少女まんがで描かれるスポーツの世界に気軽に飛び込んでみてほしい。
よきライバルと切磋琢磨して、高みを目指すテニス
山本鈴美香さんの『エースをねらえ!』は、言わずと知れたスポーツ少女まんがの名作だ。テレビアニメ化もされ、1970年代に少年少女たちの間にテニスブームを巻き起こした。
主人公・岡ひろみがコーチにその才能を見出され、猛特訓によって一流のプレイヤーへと育っていく物語は、王道のスポ根ものに思われる。
しかし後半では鬼コーチ・宗方仁や、ひろみの先輩でよきライバルでもあるお蝶夫人の内面も深く描かれ、作品の雰囲気が少し変化している。
スポ根の枠に留まらない、複雑なドラマが『エースをねらえ!』が時代を越えて読み継がれる理由ではないだろうか。
個人的には宗方コーチの古くさい女性観などにモヤモヤすることも多かったが、ストーリーのおもしろさやキャラクターたちの魅力につられて、ぐいぐい読み進めてしまった。
本作に限らず、スポーツ少女まんがにおいて、テニスが出てくる作品の割合が高い気がする。
パワーも頭脳も必要とされ、複雑なドラマを展開しやすいから?
試合形式が個人戦かダブルスのため、主人公の成長に焦点を当てやすいから?
理由はよくわからないが、偉大なテニスプレーヤーだった父の威光から逃れられない姉妹を堅実に描いた志賀公江さんの『スマッシュをきめろ!』、1990年代の『なかよし』を代表する作家・あゆみゆいさんの『太陽にスマッシュ!』、最近わたしが読んだところではまさき輝さんの『おはよう空!』など、枚挙に暇がない。
スポ根少女まんがの元祖・バレーボール
少女まんがにおけるスポ根ものの草分けと言えるのが、バレーボールもの。
浦野千賀子さんの『アタックNo.1』と望月あきらさんの『サインはV!』(原作は神保史郎さん)だ。
これらの作品は、1964年の東京オリンピックで活躍した女子バレーボールの“東洋の魔女”によるバレーボールブームを受けて発表された。
『アタックNo.1』はバレーボールが得意だがやる気を失っていた鮎原こずえが、『サインはV!』はバレーボールの才能はあるけれど、練習中に亡くなった姉のことがトラウマで一時はバレーボールから離れていた朝丘ユミが、それぞれもういちどバレーボールに打ち込むようになる話。
スポ根はいきすぎた特訓や魔球など、しばしば荒唐無稽な話になりがちだ。
これらの作品もツッコミどころが多いが、熱量に圧倒されて、読んでいるうちに全然気にならなくなってくる。
チーム戦ならではの、仲間との関係性も見どころだ。
スポ根の真逆を行く野球
『巨人の星』『ドカベン』『野球狂の詩』など少年まんがには数多の有名な野球まんががあるが、野球少女まんがの名作、川原泉さんの『甲子園の空に笑え!』も忘れてはいけない。
これは、スポ根とはまったく方向性が違う、根性とは無縁の物語だ。
舞台は豆の木高校の弱小野球部。
野球の知識0なのに、若いからと野球部の監督役を押しつけられてしまった新米教師・広岡真理子が、彼女独自の野球理論で生徒たちを指揮し、県予選1回戦突破を目指すことに。
野球部のメンバーは能力がないわけではないのだが、勝ち負けにこだわらず名誉欲もないこともあって、これまでなかなか勝てずにいたのだった。
それが広岡の独特な戦法と、運に味方され、県予選1回戦どころか、甲子園の決勝戦まで勝ち進んでいく。
スポ根まんが的な熱い描写をおちょくるようなブラックユーモアも交えつつ、ゆるくて不思議なテンポ感で語られるシュールな川原節は、一度読んだら癖になる味わいだ。
選手たちが野球を純粋に楽しんでいる姿も印象的。
自分が何を望んでいるかが大切で、必ずしも勝利を目指さなくてもいいんだと、肩の力を抜かせてくれる。
ちなみに『甲子園の空に笑え!』の続編と呼べる、プロ野球が舞台の作品『メイプル戦記』もある。
少女まんが界では珍しいアメフト
秋里和国さんの『THE B.B.B.』は一風変わったラブストーリーで、重要なモチーフとしてアメフトが登場する。
アメフトはフットボールの一種で、アメリカでは国技と言われるほど人気の高いスポーツだが、日本ではまだまだマイナーな存在だ。
アメフトが取り上げられている少女まんがを、わたしはこれしか知らない。
主人公はアメフト好きの女子大生、須王友実。
彼女がディスコで義兄である獅子丸と再会するところから、物語は始まる。
獅子丸は逞しいアメフトの選手に憧れて渡米したものの、とある事情で夢を諦めひっそりと帰国していたのだった。しかも彼は現在、人気モデルの刑部GUYと同居中だと言う。
友実は義理の兄だけれど獅子丸が好き。
GUYも男同士だが獅子丸が好き。
そして獅子丸が好きなのは…?
ストーリーの主軸は友実と獅子丸とGUYの三角関係だが、物語の展開にアメフトの存在も欠かせない。
アメフトのルールもしっかり説明してくれるから、読んでいて困らないし、実際のアメフトの試合も観てみたくなる。
そうしてアメフト、同性愛、家族関係といったテーマを織り交ぜ、先進的な感覚で描かれる予想外の結末には、思わず「えっ!?」と声を上げてしまった。
バブリーなファッションも可愛く、ストーリーの奇抜さと共に、洗練された雰囲気も楽しめる一作だ。
スポーツまんがの醍醐味
スポ根でも、そうでなくても、スポーツまんがの醍醐味とは何だろうか。
あえてふたつに絞るとしたら、どうなるかわからない勝敗のドキドキ感と、迷い悩みながら成熟していく精神なのではないかと思う。
試合の緊迫感
選手たちが厳しい練習に耐え、日々己を鍛えているのは、試合で成果を発揮し、勝利を掴むためだ。
それゆえ、血のにじむ努力をしてきた選手が、持てる力のすべてを注ぐ試合のシーンには、張りつめた空気が漂う。読んでいる側もついつい息を殺して試合の行方を見守るような、真剣な空気だ。
戦況とともに変わっていく選手の心理も細やかに描写され、生のスポーツ観戦とはまた違った緊迫感を味わえる。
大抵、試合の場面は勢いのあるタッチで描かれており、その疾走感も心地よい。
勝ち負けだけではない、豊かな精神性
スポーツまんがの登場人物たちはスポーツに取り組むことで、スポーツマンシップを育んでいく。つまり、相手への敬意や思いやり、マナーや公正さを重んじることといった姿勢だ。
勝敗だけにこだわるのではなく、スポーツ自体を楽しみ、仲間とともにさらなる飛躍を目指す。
その精神をプレイ中に限らず、日常生活でも家族や周囲の人たちとの関わり方に活かすことで、人間性を磨いていく。
そうした様子は感動的だし、自らの実生活と照らし合わせて学ぶところも多い。
スポーツ少女まんがで健康的な気分に!
今回紹介した作品以外にも、少女まんがで描かれるスポーツには水泳、スキー、フィギュアスケート、バスケットボールなどいろいろな種目がある。
実際に体を動かすわけではないけれど、まるでまんがの登場人物たちと一緒にプレイしているような、清々しい気持ちになれるはず。まんがをきっかけに、実際の競技に興味を持つことも。
体を動かすことが好きな方も、運動嫌いな方も、スポーツ少女まんがで健康的な気分を盛り上げてみて。