水族館を、もっと楽しむためにできること

数年ぶりに、水族館を訪れた。きっかけは、子どもが生まれたこと。

以前の私は、水族館をデートスポットの代名詞のように思っていた。ムーディーな空間で、好きな人と一緒にきれいな魚たちを眺め、癒やされる場所。

でも、今は違う。「子どもと楽しみたい」と思うと、魚たちの生態にも興味が湧いてきた。水族館に行って、魚たちのことを知る。さらに魚たちのことを勉強して、また水族館に行く。これを繰り返し、生き物の世界の面白さ、奥深さにずぶずぶと引き込まれていく場所。それが、水族館なのだと思っている。

そうだ、水族館へ行こう

ずいぶん昔、夫とすみだ水族館でデートをした。薄暗い空間で頭を空っぽにして魚を眺める時間は心地よくて、あれから何度も夫を誘っていたのだけれど、「混んでるから嫌だ」と断られ続けてきた。

そんな私たちが、久しぶりに水族館を訪れた。生まれたばかりの子どもと一緒に。今年の夏は暑すぎて、0歳の息子とお出かけができる場所は限られていた。空調の効いた水族館は、最適な目的地だった。

夫の実家で最近飼い始めた金魚に、息子が心奪われていたことも、水族館を訪れるきっかけになった。赤い尾びれが美しくうねり、ひらひらと舞うように泳ぎ回る金魚たちを、生後5ヶ月になったばかりの息子は食い入るように見つめていた。

久しぶりに訪れた“シーパラ”

「都内の水族館は混んでいそうだから、広々としたところに行きたい」と言う夫。そこで思いついたのが、横浜・八景島シーパラダイス、通称“シーパラ”だった。

八景島は、横浜市にある人工島だ。水族館だけでなく、遊園地やホテル、レストランなどもあり、1日中遊べる場所になっている。

島の外の駐車場に車を停め、橋を渡ってシーパラへ。海を見るのもなんだか久しぶりで、「息子のため」なんて言いながらも、私が一番心を躍らせていた。

このとき見た生き物の中で、特に印象に残っているのはホッキョクグマだ。巨大な身体が、ターンを繰り返しながら、水槽のガラスすれすれのところを悠々と泳いでいる。水の中でゆったりと揺れる、白いふさふさの毛。北極圏にしかいないはずのこの生き物が、手を伸ばせば触れられるぐらいの距離にいることが、なんだか不思議だった。

“スーパーイワシイリュージョン”も圧巻だった。国内最多飼育数だという5万匹のイワシの群れが、魚体をきらめかせながら、音楽に合わせて踊るショーだ。息子は、同じ水槽にいるマンタが近づいてくるのを見て大興奮。「ほら、マンタだよ」と夫が教えている様が、なんだか微笑ましかった。

イルカを間近で見られる施設、“ドルフィン ファンタジー”では、衝撃的なシーンを目にした。アーチ型の水槽の中を泳ぎ回るイルカをぼんやりと見上げていたら、隣で「あっ!」と夫の大きな声。「イルカが交尾してる!」。よく見ると、お腹のスリットからにょっきりと生殖器が出ている(必要がなくなると、スリットの中にしまわれる)。華やかなショーの印象しかなかったのでなんだか面白く、戯れる2頭をしばらく眺めていた。

シーパラには他にもたくさんの生き物がいたが、特に魚に対しては、「きれいだね」程度の感想しか持てなかったのが残念だった。魚に関する知識がないため、どこを見てどのように楽しめばいいのかが、よくわからなかったのだ。

魚のことを勉強する

魚のこと、水の生き物のことを、もっと勉強したい。そうすれば、息子が今後興味を持ったときに、詳しく教えてあげられるはずだ。物知りなお母さんがいれば、水族館へのお出かけもより楽しめるだろう。何より、私自身が水族館を楽しみつくしたいと思っている。

そこで、魚に関する本を何冊か読んでみることにした。

北里大学名誉教授である井田齊さんの『魚はすごい』は、状況に応じて性別が変わる魚、ユニークな方法で餌を取る魚、身を守るために擬態する魚など、その驚くべき生態を易しく解説している。魚たちが進化の過程で身につけた、生き延びる術の巧みさは想像を超えていた。

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さかなクンの『このお魚はここでウォッチ さかなクンの水族館ガイド』は、生き物ごとに、生態と、見られる水族館が紹介されている。カラー写真が豊富なのが嬉しい。

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海藻にそっくりなリーフィーシードラゴン。葉っぱの上の昆虫を、口から発射した水で撃ち落とすテッポウウオ。生き物って本当に面白い。早く水族館に行き、この目で見てみたい。

豪雨の葛西臨海水族園へ

本を読み終わったその日に、葛西臨海水族園へ向かった。外は豪雨だったが、水族館はどんな天候でも楽しめるからいい(葛西臨海水族園はペンギンゾーンだけ屋外にあり、ずぶ濡れになりながら見た)。

本を読んで魚たちの名前や生態を覚えたおかげで、どの水槽にも親しみを持てた。会いたかったアイドルとようやく対面できたような興奮まであった。「カレイは右側、ヒラメは左側に目が寄ってるんだよ」なんていう魚ウンチクを、ひたすら夫に語り続ける私。

葛西臨海水族園では、見てみたかったリーフィーシードラゴンにも会えた。海の中にいたら、絶対に海藻と間違えてしまうだろう。一見、ゆったりと泳いでいるようだが、近くでよく見ると、薄く小さな胸ビレや背ビレが素早く動いている。

また、少し前にクマノミが産卵したそうで、孵化寸前の卵も見られた。クマノミは、オスが卵を世話するという。小さな卵の周りを行ったり来たりしながら、パタパタと新鮮な水を送っている様子が愛らしい。夫に「クマノミはイクメンなんだよ」なんて説明しながら、キラキラと銀色に輝く卵を眺める。銀色の部分は子どもたちの目で、これが見られると孵化が近い。

もし本を読んでいなければ、「へえ、卵か、可愛いなあ」ぐらいの感想しか持てなかっただろう。やっぱり、“知ってから見る”と本当に面白い。

水族館大国、日本

大小含めて100を超える水族館があるとされる日本は、水族館大国とも言われている。淡水魚を中心に展示するカワスイ 川崎水族館や、深海に特化した沼津港深海水族館のようなユニークな水族館もある。

水族館は、美しい魚たちをただ展示しているだけではない。日本動物園水族館協会によると、「種の保存」「教育・環境教育」「調査・研究」「レクリエーション」の役割を担っているという。

たとえば、葛西臨海水族園は、クロマグロを水槽内で産卵させることに、世界で初めて成功している。難しいと言われる長期飼育にも挑戦し、そのおかげで私たちは、マグロの迫力ある回遊を間近で観察することができる。

きっとそれぞれの水族館に、あくなき挑戦の物語があるはず。そこまで掘り下げていくと、もう水族館沼から抜けられなくなってしまいそうだ。さて、次はどこを訪れてみようか。

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執筆:織詠 夏葉さん

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。