季節を愛でる器で始める、新しい暮らし。信楽四季彩陶が紡ぐ二十四節気の物語

新卒のころ、焼き物のまち多治見で初めて器を揃えたとき、毎日の食事が特別なものに変わった。そして今、結婚を控えて再び器選びに向き合うわたし。

出会ったのは、信楽の土と炎が織りなす「信楽四季彩陶」という美しいコレクション。二十四節気をテーマにした器たちは、ひとつひとつ表情が異なり、季節の移ろいを暮らしに運んでくれる。新しい生活を前に、時間をかけて暮らしを育てていく豊かさを教えてくれる器との出会いを綴ります。

新卒の春に揃えた器が教えてくれた、「暮らしを彩る」ということ

20代前半のころ、新卒で初めて一人暮らしを始めたわたし。あれこれ家具や家電を揃える中で、「食器ってどこで買えばいいんだろう?」と思っていたら、学生時代の友人から「一緒に陶器市に行かない?」と誘われた。

彼女が就職したのは、岐阜県多治見市のタイルメーカー。多治見市は焼き物のまちとして有名で、定期的に陶器市が開かれている。電車に揺られて彼女の暮らすまちを訪れ、新生活に胸を躍らせながら、自分用の器をいくつも買った。

撮影:風音

丁寧に梱包した器たちを持って帰り、わたしの新生活が始まった。ありあわせの食材で作ったおかずや、スーパーで買ってきた割引のお惣菜だって、お気に入りの器に盛り付けるだけで気分が華やいだ。それから2度の引っ越しを経験したけれど、当時買った器たちも一緒に住まいを移し、今でもわたしの食卓を支えてくれている。

そして現在。パートナーとの同居を控えているわたしは、引っ越しの準備を進めながらまた「器をどうしよう?」と立ち止まった。これまで使ってきた食器はどれも自分ひとり用。30代を迎え、20代前半の頃からは好みも変わってきた。彼もあまり食器は持っておらず、ふたりでの新生活に向けて、また器を買い揃える必要がありそうだ。

せっかくなら、あのときと同じように、作られた土地の風土や歴史を感じられるような物語のある器で新しい生活を彩りたい。

季節と共に表情を変える、信楽の「二十四節気」

出典:株式会社HESTA

そんなふうに考えていたとき、まさに今のわたしにぴったりな器のコレクションに出会った。

それが、信楽焼コレクション〈信楽四季彩陶(しがらきしきさいとう)〉

信楽の土と炎が織りなす季節の表情を二十四節気にのせて、名に季語を冠し、季節を表現しているのだという。春夏秋冬、同じ場所、同じ空間でも、流れる季節は異なる彩りを与えてくれる。それぞれが季語を冠する信楽四季彩陶は、季節と同じように暮らしを彩ってほしいという想いから生まれた。

出典:株式会社HESTA

古くから日本人が大切にしてきた二十四節気という季節の暦に、信楽焼の豊かな表情を重ね合わせることで、信楽の歴史やその土地の空気感、そこに流れる時間や景色が表現されている。

「個体差」から生まれた美しいコンセプト

出典:株式会社HESTA

作り手である1937年創業の窯元『丸十製陶』は、滋賀県の伝統工芸品にして日本六古窯のひとつにも数えられる”信楽焼”を作り続けている窯元。

そんな窯元が、恵比寿で大人気のテーブルウェアセレクトショップ『THE HARVEST』、さらに、地方と都会を結び、ローカルの魅力を掘り起こし、全国各地の”素敵”な情報や商品を提案するWEBメディア&オンラインストア『HESTA LIFE store(ヘスタライフストア)』とコラボレーションし、このコレクションが実現した。

出典:株式会社HESTA

HESTA LIFEの「自分たちだけの信楽焼商品が作りたい」という想いから動き出した信楽四季彩陶。2023年に丸十製陶とTHE HARVESTとの3社対面で行われた話し合いでは、丸十製陶の商品企画本部長・山野さんが、練りに練った15パターン(各中深皿&平皿)のサンプルを持参。色味や模様、ゆがみ方にも一つひとつ違いがあり、その唯一無二の個性と存在感こそが最大の魅力になるとチーム全員が確信したそう。

工業製品では「個体差」は欠点とされがちだけれど、手作りの器にとってそれは魅力そのもの。ひとつとして同じものがないからこそ、「自分だけの器」として愛着が湧くはずだ。

土地を訪れ、感じることから始まった器づくり

出典:株式会社HESTA

開発の過程で、商品企画部とメディア編集部は何度も信楽を訪れ、丸十製陶さんの取材を起点にその歴史や制作現場を深掘りしてきたそう。信楽エリアの食や観光、文化など様々なモノ、コトに触れながら、この地域の魅力や価値を生かした商品アイデアを模索してきたという。

器をつくるために、まずその土地を知る。歴史を感じ、文化に触れる。そうしてできあがったからこそ、信楽の歴史やその土地の空気感、そこに流れる時間や景色を表現する器が生まれたのだろう。

信楽四季彩陶は、伝統工芸や地場産業と現代の感性の融合を目指す〈BLEND IT TRADITION〉というプロジェクトの一環でもある。80年以上の歴史を持つ窯元の確かな技術と、現代のライフスタイルに寄り添うデザインセンスが出会い、個性豊かな器たちが生まれた。

新しい暮らしに、季節を愛でる豊かさを

出典:株式会社HESTA

毎日使う器だからこそ、使うたびに季節を感じ、一緒に思い出を重ねていけるような器を選びたいと思う。

あのとき多治見で買った器は、一人暮らしの心細さを和らげ、毎日の食事を特別なものに変えてくれた。今度は二人で使う器として、信楽四季彩陶とともに新しい季節を迎えたい。

春夏秋冬、それぞれの季節に合わせて少しずつ集めていくのも素敵かもしれない。ふたりの暮らしが深まっていくように、器への愛着も深まっていく。そんなふうに、時間をかけて暮らしを育てていくことの豊かさを、この器たちが教えてくれそうだ。

信楽四季彩陶(しがらきしきさいとう)
販売:HESTA LIFE store
特設ページ:https://store.omusu-bee.jp/feature/shikisaitou/
製作:丸十製陶(滋賀県・信楽焼)
企画協力:THE HARVEST(東京・恵比寿)

風音

1995年生まれ。長野市在住のフリーライター。インタビュー記事、エッセイを主に執筆。水辺を眺めること、お散歩、読書と喫茶店が好き。