大人も魅了する積み木、ネフスピール

小さい頃の私は、よく積み木で遊んでいたらしい。正直、記憶にはほとんど残ってない。ただ、うっすらと覚えている光景はある。古びた畳の上に散らばる、緑、赤、青。円柱に、直方体。

久しぶりに積み木という存在と再会したのは、息子が生まれてからのことだ。SNSで子育て関連の投稿を眺めていると、色とりどりの積み木と戯れる子どもたちの姿がよく現れる。どうやら、“積み木沼”という言葉もあるらしい。

息子はまだ0歳で、一般的な積み木の対象年齢には達していない。そんな我が家に、積み木メーカー界の最高峰とも呼ばれるネフ社の代表作、“ネフスピール”を迎えた。

もちろん息子は積み木を積むことはできず、もっぱら舐めたり振り回したりしている。むしろ、夢中になって遊んでいるのは親の方かもしれない。

わたしのこと

  • 年齢:30代
  • 性別:女
  • 職業:PRプランナー
  • ライフスタイル:一児の母、インドア派時々アウトドア派、朝型、木のおもちゃ好き

ネフ社との出会い

「目黒区美術館で子どもも楽しめる展覧会が開催されているらしい」と聞き、内容もよくわからないまま美術館に向かった、展示最終日。『○△□えほんのせかい+目黒区美術館トイコレクション 同時開催 クルト・ネフ生誕99年』展を訪れるまで、ネフ社の名前は知らなかった。

ネフ社とは、1954年に創業されたスイスのトイメーカーだ。創業者は、展覧会名にもなっているクルト・ネフ氏。

展示スペースの一角では、ネフ社の積み木で子どもが遊べるようになっていた。ただ、最終日ということもあり混雑していたのと、0歳の息子にはまだ早そうだったので、展示を見るだけに留めた。

ネフ社のおもちゃには木が使われていて、あたたかみがある。鮮やかで美しい色彩も特徴的だ。おもちゃと言えども、美術館に並べられている様を見ると、その造形や色合いはまるで芸術品のようだ。

展示室の壁には、ネフ氏の言葉が貼られていた。それらの言葉がとても素敵で、私はあっという間にネフ社のファンになってしまった。少し長いが、最も印象に残ったものを引用したい。

大人の世界を真似することも子どもの遊びの一部であると言えるでしょう。しかしその真似が、――例えばバービー人形に代表されるように――子どもたちにトイを通して贅沢な消費生活を教えてゆくところまでいってもよいのでしょうか。確かに父親の自動車や母親の化粧台の小型版を持つことは魅力的でしょう。しかしながら、私たちは子どもたちを商業主義に操られるような人間に育てたいとは思っていないはず。責任感のあるトイメーカーなら、こういった点についても熟慮すべきなのです。

子どもにおもちゃを買い与えようとすると、ついマーケティングに翻弄されてしまいがちだ。これもよさそう、あれもよさそう。もっと違う刺激を、と。

でも、本当にそれほどたくさんのおもちゃが必要なのだろうか? おもちゃ箱の中身を充実させるよりも、共感できる思想を持つトイメーカーのおもちゃを厳選し、長く大切に使いたい。子どもはきっと、ひとつのおもちゃから無数の楽しみ方を発見してくれるはずだから。

少し早くたっていい

美術館を出る頃には、ネフ社の積み木を買おうと心に決めていた。種類はたくさんあるけれど、まずは代表作とも言えるネフスピールを家に迎えたい。

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ただ、ネフスピールの対象年齢を調べてみると、どうやら1歳からのようだった。息子に与えても、まだ積み上げることはできないだろう。

そこで、まずはいただきものの別の積み木を出してみることにした。まだ早いだろうと思い、しまっておいたのだ。

そろそろと手を伸ばす息子。握って、舐めて、マットに叩きつけて。もちろん積むことはできないけれど、色とりどりの積み木に囲まれて楽しそうだ。これなら、ネフスピールも、今の息子なりの遊び方で楽しめるだろう。積むだけが、積み木の遊び方ではないのだから。

ぬくもりを感じられる木のおもちゃに、早くから触れてもらいたい。芸術品のような美しい積み木に囲まれて、思う存分遊んでほしい。親のエゴかもしれないけれど、構わない。とにかく、ネフスピールと戯れている息子を見てみたい。

無心で積み木を積む

届いたネフスピールの箱を開けると、思わずため息が漏れた。黄、赤、緑、青。鮮やかだけれど、優しい色合い。

早速、息子の前に積み木を広げる。少し重みのあるそれを、息子はおそるおそる握る。口元に持っていき、舐めながら形を確かめる。腕をぶんぶんと振り回して、マットに叩きつける。手に持った積み木を、別の積み木に打ち付ける。ガリガリと音を立てながら、生えてきたばかりの歯でかじる。

傷をつけたくないほどきれいな積み木だけれど、汚れることも削れることも気にしないことにした。たくさん遊んで、何年もかけて塗装がはげていったネフスピールも、きっと美しく愛おしいだろう。

私や夫が積み上げる度に、息子がずり這いで突進し、勢いよく崩す。その音が面白いのか、ケラケラ笑っている。夫は、息子に崩される前に複雑な形を作りあげることに躍起になっている。「そんな形にも積めるの?」と私はいちいち驚いてしまう。

ネフスピールは、大きなカットが入った特徴的な形をしていて、積み方のバリエーションも幅広い。「この角度でも積めるかも」と試行錯誤していると、つい熱中してしまい、息子そっちのけになってしまう。4色あるので、色と色の組み合わせを考えるのも楽しい。

崩れないように、そろそろと積み木を重ねていると、いつの間にか頭の中が空っぽになっている。これが「夢中になる」ということか、と思う。その感覚はなんだか懐かしく、かつて畳の上で積み木と戯れていた少女が、今の自分に重なっているようでもあった。

おわりに

家族全員が夢中になれるおもちゃとして、すでに我が家になじんでいるネフスピール。今は大人が気分転換に遊ぶことの方が多く、息子が本格的に楽しめるようになるのはこれからだろう。

この先、息子はネフスピールとどのように関わっていくのだろうか。その変化が楽しみだ。

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東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。