10月の一大イベントといえばハロウィンだけれど、実はハロウィンが日本で普及したのは1980年代後半から。それまでは多くの日本人にとって、ハロウィンは馴染みのない風習だった。
今回の“少女まんがの沼から”では、いち早くハロウィンを取り上げた昭和の少女まんがをご紹介する。
そもそもハロウィンって?
ハロウィンと聞いて思い浮かぶのは、かぼちゃで作るジャック・オー・ランタンや「trick or treat」の合言葉、魔女やおばけなどの仮装だろう。
まずは、そもそもハロウィンとは何なのかを軽く確認しておこう。
ハロウィンとは
ハロウィン(HalloweenまたはHallow’en)は10月31日に行われるお祭りだ。
子どもが魔女や吸血鬼など恐ろしいものに仮装して、近所の家を回ってお菓子をねだるスタイルはアメリカが発祥で、今や世界各地の人びとに親しまれている。悪い霊を追い払うためにかぼちゃで作るジャック・オー・ランタンもハロウィンのシンボルだ。
ハロウィンという名称は、カトリック教会の祝日である万聖節の前夜祭を意味する“ハロウ・イブ”からきているとされる。この日は元々、アイルランドや英国では精霊を祭る夜だった。
その習慣が19世紀に移民たちによってアメリカに伝えられた後、少しずつ形を変え、20世紀初頭には宗教や人種に関係なく一般に広く浸透したのだという。
万聖節について
ハロウィン誕生にも関係している万聖節とは、すべての聖人と殉教者を祝う、カトリック教会の祝日のひとつ。ハロウィンの翌日、11月1日に行われるお祝いで、現在は諸聖人の日と呼ぶ。
4世紀ごろには元となる習慣が東方正教会で始まり、7、8世紀にカトリック教会に導入されて日付も定められたとのことだ。
現在ではハロウィンの方がメジャーなイベントになっているが、今もカトリック信徒の多い国やイギリスでは諸聖人の日が祝われている。
ハロウィン×日本

19世紀にヨーロッパからアメリカへ伝わり、形を変えて広く普及していったハロウィン。日本で一般に知られるようになるのは、さらに100年後のことだった。
ハロウィンの歴史に続いて、国内のハロウィン事情も見てみよう。
日本におけるハロウィンの歴史
日本で初めてハロウィンの仮装パーティが開かれたのは、1937年、内閣総理大臣だった近衛文麿が催した集会でのことだったそうだ。
しかしその後すぐに日本社会に浸透したわけではなく、ハロウィンにちなんだイベントが多く開催されるようになるのは、1980年代後半になってから。
多くの企業によってハロウィンが商業利用されるようになり、21世紀に入って年中行事のひとつとして急速に定着していった。
近年では教育施設などの恒例行事として取り入れられているほか、仮装・コスプレ大会と化した日本式のハロウィンイベントが各地で開催されている。街中でもハロウィンの装飾やグッズを至る所で目にするので、ハロウィンを知らない人はほとんどいないのではないだろうか。
まんがの中のハロウィン
日本でもハロウィンが普及していくにつれ、作中でそれを取り上げるまんがが出て来た。初期のそうした作品では、そのまんがで初めてハロウィンを知った読者も多かった。
まんがで異文化を知る体験は、読み手の心に強い印象を残したことだろう。
何よりハロウィンは、仮装をしたりお菓子をもらったりと子どもにはとっておきのイベントだ。読んでいると、作中の子どもたちが10月31日を心待ちにしていて、とても楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
きっとわたしもハロウィンを知らずに読んだら、目を輝かせた子どもたちの姿にワクワクして、ハロウィンへの憧れを抱いたに違いないと思う。
ハロウィンが一般化した現在では、もはや当たり前の行事としてまんがに取り入れられている。学園ものや日常ものでしばしば連載中に、キャラクターたちが仮装したりパーティを開いたりするハロウィン回が挿入されているのを目にする。
ハロウィン少女まんが4選
日本でハロウィンが知られるようになった時期が遅いので、昭和の少女まんがでハロウィンを扱っているものは少ない。
それでもハロウィンが心に残る作品がいくつかある。今回はそんな4作品をご紹介しよう。
渡辺多恵子さんの『ファミリー!』
『ファミリー!』は、アメリカのロサンゼルスに住んでいる家族を描いた、あったかホーム・コメディだ。
物語の冒頭、アンダーソン一家の元に、パパの隠し子を名乗る少年・ジョナサンが訪ねてくる。最初は一波乱あるものの、善良でちょっと変わっている一家はすぐに、ジョナサンを家族の一員として優しく受け入れる。そしてジョナサンと男勝りでお節介な長女・フィーを中心に、一家がさまざまな出来事を経験する様子が語られていくことになる。
ハロウィンのシーンも、ジョナサンがすっかりアンダーソン家の一員になっていることを示す、温かくてかわいらしいエピソード。
ジョナサンがハロウィンで着るはずだった仮装の衣装が、だめになってしまった! 急遽ママが代わりにこしらえてくれたのは…?
まさかの衣装に大笑いしつつ、ほっこりした気分になれること請け合いだ。
筒井百々子さんの『たんぽぽクレーター』
月面に建造された医療都市を舞台にした『たんぽぽクレーター』は、放射能汚染やコールドスリープを扱った、本格SF少女まんがだ。
研修中のインターン・ジョイや、口は悪いが頼りになるマック院長が勤めるたんぽぽクレーターでは、さまざまな病気を抱える子どもたちが闘病しながらも楽しく過ごしていた。しかし2007年のハロウィンの夜に起こった悲しい事故を契機に、物語は暗くシリアスな方へ動き始める。
倫理や政治的な問題に切り込んだ真面目な内容だが、ディストピアではなく、ハートフルなヒューマンドラマにまとめられている感動作だ。
また、夜には悲劇に見舞われてしまうジョイたちだけれど、ハロウィンのシーンは本当に楽しそうで、みんなの姿が輝いて見える。たんぽぽクレーターの理念と温かさを象徴する場面だと思う。ハロウィンが登場するのは、ジョイもマック院長もアメリカ出身だからだろう。
1980年代の作品だが現代にも通用する名作なので、ぜひ読んでみてほしい。
内田善美さんの『万聖節に黄金の雨がふる』
単行本『かすみ草にゆれる汽車』に収録されている『万聖節に黄金の雨がふる』は、タイトルの通り万聖節に因んだストーリー。
万聖節前夜(ハロウィン)に妖精たちは子どもをさらい、黄金の館で夜通しダンスをする。万聖節がやってくると妖精たちは闇に帰り、館は金の雨になって砕け散る。
そんな伝説のある街で出会った、孤独な少年リオンと、天使のような少女アリスの交流が描かれる。
キーになるのは、ふたりの邪魔をする自称妖精のパック。不思議な雰囲気をまとうパックに翻弄され、妖しく幻想的なハロウィンが過ぎていく。
緻密に描き込んだ美麗な絵が特徴の、内田善美さんの絵画のようなまんがは必見。ハロウィンと万聖節がモチーフになっているというのも、アメリカ好きの内田さんらしい題材だ。
萩尾望都さんの『集会』
『集会』はアメリカ人作家のレイ・ブラッドベリの同名小説をまんが化したもの。
万聖節前夜(ハロウィン)を翌日に控え、パーティの準備に忙しい魔物の一族の中で、病弱で半人前のティモシーは肩身の狭い思いをしている。
そして迎えたハロウィン当日。パーティにやって来た客人たちに馬鹿にされたティモシーは「闇を怖がらず、ちゃんと空も飛べるようになってみんなの仲間に入りたい」と妹シシィに相談する。
そんなティモシーに対してシシィがしてくれたこととは…。
繊細な少年の心模様や、妹シシィの残酷な無邪気さ、ティモシーの理解者であるエナー叔父さんの人生哲学などが描かれる。 ハロウィンに浮かれる魔物たちと、異質なティモシーの対比が切ない一作だ。
ハロウィン少女まんがのススメ
あなたにとって、ハロウィンはあるのが当たり前の年中行事のひとつかもしれない。けれどほんの半世紀前には、遠い異国の風を感じさせる、夢と憧れ溢れる未知のイベントだった。
ハロウィンが一般的ではなかった時代に思いを馳せながら、今回ご紹介した作品を読んでみるのはいかが?




