公共交通機関で行くにはケーブルカーとロープウェイを乗り継いでいくか、ひたすらバスに揺られていくしかない比叡山。
京都に住んでいるとはいえ気軽に行ける場所でもなく、これまで行ったことがなかった。それが先日人に誘われ、初めて訪れる機会を得たのだった。
行ってみると、自然に心を洗われ、綿々と受け継がれてきた人の営みの歴史を感じる、思いの外楽しい時間となった。
今回はそんなプチ旅の話をしようと思う。
比叡山に興味はなかったけれど…

なぜ比叡山に行くことになったのか?
比叡山自体よく知らない場所だし、じつはそれほど興味もなかった。
なぜ興味のない山に行くことにしたかと言えば、懇意にしているお店の店主さんから、毎年恒例で開催しているというバスツアーに誘ってもらったから。
お店のお客さん十数人が乗り合わせていく団体旅行で、主催者の店主さんが旅程からバスの運転からチケットの手配からすべてしてくれるというもの。参加者はおんぶにだっこでのんびりバスに揺られていれば、あちこち連れて行ってもらえるという、何とも楽ちんなツアーだった。
それに参加者は皆、面識はないにしろ同じお店に通っている人たちなので、緩やかな連帯感があるようなないような、不思議な集まりに面白さも感じていた。
つまり、わたしにとってどこに行くかは問題ではなく、バスツアーへの参加そのものが目的だったわけである。
何にもしなかった事前準備
バスツアーに参加するに当たって、自分で下準備したことなんてほとんどない。せいぜい前もって配られていた“旅のしおり”に目を通し、寒いかもしれないと聞いたので厚手の上着を準備したくらい。比叡山や延暦寺について自分で調べるようなことは一切しなかった。
有名な場所だし、行ったら何かしら面白いことのひとつも見つかるだろう。そんな程度の考えで当日を迎えた。
行ってみたら思いの外楽しかった

そんなこんなで、大して期待せずに行った比叡山。
それが景色もいいし、巡っているうちに山内にある延暦寺のことが少しずつ分かってきて、予想以上に楽しい一日になった。
興味深い延暦寺の文化財
比叡山の山内にある延暦寺は、ひとつの大寺院の名称ではなく、いくつものお堂の総称だ。お堂の数はなんと100にのぼるという。
境内は東塔、西塔、横川の3つの区域(三塔)に分かれており、その中でも特に重要な建物が集まっているのが“東塔”だ。
東塔の本堂で、国宝に指定されている根本中堂は現在改修中なのだが、その改修の様子が興味深かった。建物自体をすっぽりプレハブ小屋で覆ってしまって、その中で屋根を葺き直したり、建築装飾を美しく彩色し直したりしているのだ。
わたしが訪れた際は作業自体は行われていなかったようだったが、お堂の屋根の高さまで登ることのできる見学用のステージから屋根の基礎部分をじっくり見ることができた。

それから西塔の浄土院も、白砂の庭が美しく心惹かれた。ここには日本に天台宗を広め延暦寺を開いた最澄上人の御廟があるのだそう。中から読経の声が漏れ聞こえ、厳かな空気漂う場所だった。
清々しい山内
お堂を巡るのも楽しいけれど、主要な観光ルートを外れて気ままに散策するのもまた楽しかった。
山道でひとりになって、聞こえるのは鳥の声ばかり。行った日はお天気だったので、緑と土と木漏れ日のコントラストが眩しく、自然の美しさにしみじみと感じ入った。
比叡山の自然や諸堂を参拝して歩く修行もあるのだそうで、本当にそこにいるだけで深い山と涼やかな空気に自然と心が洗われるような気分になる。
自然の中に身を置き、気持ちの良い時間を過ごすことができた。
琵琶湖を望む美しい景色

比叡山は、京都と滋賀の県境にある山。延暦寺を訪れる道中に、琵琶湖も京都の町並も一望することができる。
ツアーでも山腹に点在する展望スポットに何ヶ所か立ち寄ってくれ、その美しい眺望を堪能した。
何と言っても、琵琶湖の大きさには改めて驚かされた。琵琶湖自体は以前にも見たことがあるけれど、高い場所から俯瞰したのは今回が初めて。大きい、大きいとはよく聞くものの、やっぱり海としか思えない広大さに、ちょっと呆然としてしまった。
何にしろ、山の緑の向こうに水面がきらきら輝いている様子はとても綺麗だったし、 普段からここの水にお世話になっているのだなあと感慨深かった。
期待値が低いほど、楽しさは増大する
山やお寺にそこまで夢中になることはないだろうと思っていたが大間違いで、ツアーで決められた時間内にあちこち見て回るのが大変だった。
予備知識0、思い入れもなかったからこそ、出会う事象のどれもが新鮮で、素直に楽しむことができたように思う。
プチ旅の振り返り
延暦寺は修行僧たちの修行の場でもあるので、観光地として整備されきっている感じではない。境内に案内や説明が少なく、自分が見ているこの建物が何なのかよく分からなかったり、道に迷いかけたりすることも多かった。
そんなこともあってか、果たして自分が行った場所はどんなところだったのか、帰ってから無性に気になって調べた。延暦寺がユネスコ世界文化遺産に登録されていることすら、それで初めて知ったのだった。
また現在も登山客が多いのだと分かり、元来比叡山を訪れた人々は険しい山道を歩いて登っていったのだなあと改めて意識した。今回は車で一気に登っていって見て回ったけれど、「もし麓から自力で歩くことになったら」と思うと眩暈がする。以前最澄上人が主人公のまんがを読んだことがあったので、そのことなども思い出して感慨深い気持ちになっている。
帰ってきてからも比叡山に思いを巡らす機会が多く、プチ旅の楽しみが継続しているかのようだ。
再訪に向けて
振り返ってみるとこれまでも、神社仏閣でぼうっとしたり、自然を眺めたりするのはわりと好きだった。単に“比叡山延暦寺”の名に思い入れがなかっただけで、今回のツアーのような内容はわたしの性に合っていたのだろう。
ツアーでは三塔を各1時間で見て回ったのだが、時間が足りずかなり駆け足になってしまったシーンもあった。初回は何も知らないからこそ楽しめたけれど、今度はもう少し勉強した上で、またゆっくり行ってみたい。
それに比叡山は10月から11月中旬にかけての紅葉も素晴らしいそう。今回は9月末に訪れたので、時期的にも惜しかった。 再訪はきっと紅葉の時期にしよう、と今から次の秋に思いを馳せている。
「とりあえずやってみる」の大切さ
あまり興味がないと思い込んでいたけれど、実際に行ってみるとワクワクや感動があり、ひとり静かに山野を散策するのが好きなことを再発見できた。
何かをやったその先で、どんな出会いや発見があるかは、やってみなければ分からない。どんなことも機会があったらまずはやってみるの精神を大切にしていこうと思う。

