つんと冷えた空気に身震いして、すっかり冬になったなあとしみじみする。
寒い冬の日に、家でぬくぬくしながらまんがを読むのは至福の時だ。
今回の“少女まんがの沼から”では、部屋であったまりながら冬気分に浸れる少女まんがをご紹介する。
冬気分、あれこれ

冬を感じさせるものって、いろいろある。
冬が舞台の少女まんがも、あれやこれや。
本棚の前に立って、どの作品がいいかな、と思案してみる。
冬らしいモチーフといえば…
12月から1月にかけてはクリスマスに年越し、初詣、餅つき、イルミネーションなどイベントがいっぱい。イベントがらみのおせち、お雑煮などに加え、鍋やおでんといった食べ物も冬の風物詩だ。
日常生活でも、大掃除や年賀状、コタツにファーコートと、冬を感じさせるものが目白押し。昭和の少女まんがでは、マフラーやセーターを編むシチュエーションも定番だ。
もちろん雪も欠かせないモチーフで、まんがの中で雪が降っているだけで「あ、今は冬なんだな」とすぐ分かるし、スキーやスノーボードなどウィンタースポーツも雪がなければ始まらない。
ありすぎて選び切れない!
正直、冬を描いている少女まんががありすぎて、とてもその全貌を紹介することはできないし、いくつか選ぶことも難しい。
どの冬のモチーフも魅力があるし、いくつかの要素が複合的に用いられている作品も多い。
苦慮の末、今回は“切ない物語”と“ほっとする物語”の2つのテーマで、冬らしい少女まんがをいくつか取り上げることにした。
「ひとつのモチーフに絞るのももったいないな…」と感じたので特にテーマは定めず、わたしが推したい作品を選んだ。
どれも短編なので、パッと読めて、それでいていつまでも心に残る素敵な作品ばかり。
気になったものがあればぜひお手に取ってみてほしい。
切なさに胸震わせて
雪がしんしんと降り積む冬のイメージは、どこか寂しさを感じさせる。
そんな寂しいムードに寄り添ってくれる、切なさが胸に沁みる少女まんがを3つセレクトしてみた。
旧友と恋バナに花を咲かせるクリスマス。桂むつみさんの『初恋 初雪』
中学3年生のときに、「5年後のはたちのイヴにまた集まって、お互いの恋の話を語り合おう」と約束した、やよい・すみ・あさぎの3人組。舞台はその約束のイヴの日だ。
読んでいると、5年の間に彼女たちが体験した恋を振り返る、素敵な女子会にこっそり同席しているような気分になる。
やよいとすみは紆余曲折を経て大切な彼氏ができた話を、照れながらも嬉しそうに語る。
それに続いてあさぎも恋の思い出を話し始めるけれど、初心でかわいらしかった彼女の物語はだんだんと切ない方向へ展開していく。
見た目も中身もメルヘンチックで少女趣味だけれど、センチメンタルで心震えるラストが待っている。
前情報なしで、あさぎの甘くてほろ苦い恋模様をドキドキしながら辿ってみてほしい。
重いテーマに正面から向き合う、大島弓子さんの『誕生!』
女子高生が妊娠し、その堕胎の是非を問う重く真剣なテーマを扱ったこちらは、当時の読者に衝撃を与えた作品で、今読んでも深く考えさせられる内容となっている。
愛する人と結ばれた結果として妊娠した少女、あさみ。
彼女は赤ちゃんを生みたいと願うが、彼女がまだ高校生であることを理由に、周囲がそれを許さない。
彼女の親友である主人公・玲も最初は、知らない間に一歩大人になっていたあさみに対して「不潔だ」と感じるものの、彼女の切なる思いを聞いて、大人たちが本人の意志を無視して堕胎させようとすることに反感を持つ。
さらにここで明らかになるのが、玲が捨て子だったという事実だ。
ショックを受けた玲は幾度となく、あさみが子どもを生もうとすることは正しいのか、両親や周囲の愛を受けて生まれることのできない赤ちゃんは不幸なのではないかと自問する。
吹きすさぶ雪を背景に、彼女が得た答えは何だったか。
善悪の二元論で語るのではなく、ひとりの人間が誕生することの重みと作者の人間賛歌を感じさせる名作だ。
ドジっ子の恋の行く末は…? 池田理代子さんの『白いエグモント』
『ベルサイユのばら』でおなじみの池田理代子さん。
以前『ベルばら』の記事で、池田さんの他の作品もぜひご紹介したいと書いた。
こちらは『ベルばら』とは全く趣の異なる、女子高生の平凡な恋愛物語でクリスマスがモチーフとなっている。
ドジっ子なみち子は、2つ年上で大人っぽい志村くんに片思い中。
けれどあまりのドジぶりに彼女はいつも自己嫌悪に苛まれ、美人で才気あるクラス委員長にも煙たがられている。
何かドジを踏んでは志村くんにも笑われてしまい、ますます傷つくみち子だが、クリスマスに彼の好きなエグモント序曲のレコードを渡そうと勇気を奮い起こす。
主人公のドジっぷりは笑いを誘うものの、全体に地味で、主人公がずっとうじうじしている暗いムードの話である。
だが、だからこそ、作中に出てくる唯一の華やかなアイテム“雪の女王のようなコート”が眩くて、そのページばかり何度も見返した、わたしにとって思い出深い作品だ。
ほっと温かな気分に
こちらには心温まるささやかな作品を3つ集めた。
寒い中でもほっと一息つけるような、かわいい物語を楽しんで。
雪だるまの行列に導かれ…坂田靖子さんの『星月夜』
坂田靖子さんはナンセンスでユーモアあふれるコメディから、シリアスタッチのボーイズラブものまで幅広い作風が持ち味であると同時に、「クリスマスが大好き」と公言している作家でもある。
クリスマスの話ばかりを集めた『坂田靖子のクリスマス★マニア!』という本も出ている。
クリスマス話もオススメなのだが、今回ご紹介するのはクリスマスではない寒い冬の日の話。
友だちの家に望遠鏡を見せてもらいに向かった少年・デニーは、その道中で雪だるまの行列を目にする。
好奇心にそそられてついていってみると、雪だるまやイエティなどが集まっている。
どうやら今夜は、空と地上がつながり、星や月と地上の雪が一緒にパーティーをする“星月夜”だと言うのだ!
星月夜に紛れ込んだデニーの、束の間の不思議な体験が楽しく綴られている。
思わずくすりと笑ってしまう、坂田さんらしいほんわかファンタジーだ。
人形劇で楽しい時間を届けたい! 佐藤真樹さんの『星の子守歌』
全編に主人公の温かな気持ちが溢れていて、かわいい絵柄にも癒されること請け合いなのがこの『星の子守歌』。
小さい頃に離婚して出て行った父を恨みながらも、父がくれた犬のぬいぐるみをずっと大事にしてきた正美。
大学生になった彼女はひょんなことから人形劇団に参加することになり、人形を自分で動かして子どもたちが喜んでくれる人形劇にやりがいを感じて夢中になる。
そして子どもたちの姿や、好きな人との対話を通して、次第に父への複雑な思いと素直に向き合えるように。
そんな冬のある日、正美は父との和解と子どもたちとの約束という二択を迫られて…。
人形劇を通じて、父との大切な思い出や劇団の仲間との恋愛を描いた、優しく繊細な作品だ。
ちなみに佐藤真樹さんの作品には、正美と同じように出て行ったお父さんへのわだかまりを乗り越えようとする少年を描いた冬の話『冬色かれんだあ』もある。
電車好きにもオススメな塩森恵子さんの『雪…雪…雪』
ちょっと変わり種で面白いのがこちら。
田端から品川までの区間列車が並走する、山手線と京浜東北線を舞台に、少女のささやかな恋心を描いた通学ラブストーリーだ。
山手線で通学している主人公は、高校の3年間、並走する京浜東北線の窓際に立っている青年にときめいてきた。恋以外にも、同じ車両で仲良くなった人たちも何人かいる。
でも今日は卒業式。明日からはもうこの電車に乗ることはない。
彼女が切なさを噛みしめつつ、偶然の出会いに感謝しながら電車に揺られていると…。
いつも同じ車両になる人に淡い恋心を抱く話はしばしば見掛けるけれど、別の電車の相手と窓越しに恋する話はこれが初めてで、その発想が面白い。
横浜出身のわたしとしては、京浜東北線も山手線も馴染みのある路線だから余計に惹きつけられた。
ただし作中に、痴漢してきた男性と何となく顔なじみになるエピソードがあって、その部分は正直嫌だなと思いながら読んだ。
確かにその男性自体は悪い人ではなかったのだけれど、だからといって痴漢が許されていいわけではないので、読む際はそういうエピソードが出てくることを念頭に置いておいた方がいいかも。
寒い冬のお伴に少女まんがはいかが?
今回は6本の短編を取り上げたが、真面目な話からお気楽な話まで、一口に冬の少女まんがと言ってもそのバリエーションはさまざまだと感じていただけたのではないだろうか。
いよいよ今年も今月でおしまい。
残り少ない今年、家で過ごす時間のお伴にあなたの冬気分に合ったまんがに手を伸ばしてみて。




