長期休暇に一気読み!未完のベストセラー『ガラスの仮面』【少女まんがの沼から】

1975年の連載スタートから、その抜群の面白さで読者の心を掴み、大ベストセラーとなっている美内すずえさんの『ガラスの仮面』。

既刊49巻で最後の単行本が出たのが2012年と、10年以上話に進展がなく、ファンから続きが切望されている作品だ。

少女まんがとしてはかなり長い上に未完なので、読むのをためらっているという方もいらっしゃるのではないだろうか。今回は、結末が分からなくても楽しめる今作の魅力や、印象的なエピソードなどをご紹介しようと思う。

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未完のベストセラー『ガラスの仮面』

物語の概要

『ガラスの仮面』は、平凡な少女・北島マヤがその才能を見出され、演劇の世界で頭角を現していく、マヤの成長と闘いの物語だ。

キーワードとなるのが、梅の木の精の恋を描いた舞台『紅天女』。これはマヤの師匠となる月影先生が現役時代に主役を務めた伝説の名作で、マヤはライバル・姫川亜弓と競いながら、『紅天女』の主演女優の座を目指すことになる。

演劇に目覚め、ライバルと出会い、恋を知り…というマヤの成長に加え、月影先生が『紅天女』に寄せるなみなみならぬ思いや、上演権を巡る大人の争い、周囲の人びとの人間関係が複雑に絡み合い、濃厚なドラマを形作っている。

後半ではマヤが精神的に成長したこともあり、『紅天女』の稽古と重ねて描かれる彼女の恋愛模様がストーリーの主軸のひとつとなっている。

『ガラスの仮面』の特色

『ガラスの仮面』は王道少女まんがであり、尚且つスポ根の精神が基本にある。

この作品が“ザ・少女まんが”であることは、主人公のマヤがドジで天然で平凡な少女であるのに対し、彼女と犬猿の仲の速水真澄は頭脳明晰でお金持ち、モテモテなのになぜか何かとマヤにちょっかいを出してくるという設定だけでも納得できると思う。この他にも、ご都合主義的でお約束のパターンが怒涛で展開されていく。

そして演劇の才能を持って生まれながらも、演技はずぶの素人のマヤが、無謀とも思える稽古や特訓で演技を身につけていく姿や、何があってもへこたれない不屈の精神はまさしくスポ根ものである。

これらの要素が複合されることで、荒唐無稽でツッコミどころも満載だけれど目が離せない、むしろそこが面白いと思わせる力になっている。

演劇をモチーフとした作品なので、スポーツまんがの見せ場“試合”に当たるのは、『紅天女』(決勝戦)に辿り着くまでに演じられる数々の舞台である。ともすると『紅天女』のことを忘れそうになるほど丁寧に描かれる、これらの劇中劇も見どころだ。

『ガラスの仮面』を支える人間関係

長い分、登場人物が多く、それぞれの人物がさまざまな物語を織り成す『ガラスの仮面』だが、全体を通して作品を支えているのは以下の4人の人物と、北島マヤの関係性だろう。

北島マヤと姫川亜弓、宿命のライバル

北島マヤと姫川亜弓は、『紅天女』だけのライバルではなく、演劇人生においての宿命のライバルだ。

マヤは作中でたびたび“ドジで平凡な子”と説明され、親や周囲の人たちから何度もそう言われることで本人も「自分にはなんのとりえもない」「自分にできるのは芝居だけ」と思い込んでいる。だから自分の才能に気付けずに、亜弓には敵わないと劣等感に苛まれている。

一方の亜弓はマヤの才能に早くから気付き、恐れを抱いている。彼女は大女優と映画監督の娘で容姿にも恵まれている上、演技も抜群に上手いのだが、「親の七光りでもてはやされているだけで、自分自身の能力ではないのではないか」と悩んでいるのだ。

秀才で理論派の亜弓と、天才で感覚派のマヤ。対照的なふたりはお互いに対してコンプレックスを抱き、「彼女に勝つことはできないのでは…でも勝ちたい!」と常に葛藤している。

近刊では亜弓の悩みがクローズアップされ、彼女の人となりに深みが出てきており、それによってますますマヤと亜弓のどちらが『紅天女』を演じるのか予断を許さない状況になっている。

憎いはずの速水真澄への複雑な思い

ことあるごとにマヤの前に現れる人、速水真澄。

彼はビジネス最優先のやり手若社長で、目的のためには手段をいとわない冷酷さを持ち、女性には見向きもしないともっぱらの噂なのだが、なぜかマヤには何だかんだと絡んでくる。

マヤにとっては月影先生の劇団への嫌がらせをしていた黒幕だったり、婉曲的に母の死因を作っていたりと、憎い存在。けれど真澄がたまに優しくしてくれたり、寂しそうな顔を見せたりするので、憎み切れず「何を考えているのか分からない」と困惑している。

自身の気持ちを自覚せず、つかず離れずの距離感を保っていたふたりだが、速水に紫織という婚約者ができたことをきっかけに、その仲が急速に変化していく。一進一退のふたりの関係性は『ガラスの仮面』のメインストーリーのひとつである。

謎の紫のバラの人への思慕

マヤが演劇を始めてすぐの頃からずっと紫のバラの花を贈り続けてくれているファン1号・紫のバラの人も、マヤにとって欠かすことのできない存在だ。

正体不明の“あしながおじさん”的存在は、花だけでなく、マヤの学費を支援してくれたり、時にはボロボロの劇場を改修してくれたりと、マヤの演劇活動を支えている。

何があっても紫のバラの人が見守ってくれている安心感は、マヤの精神的な強さの源でもあり、彼女は紫のバラの人に対して次第に特別な気持ちを募らせていく。

その正体は読者には最初から明かされているけれど、マヤが勘付くのは33巻と大分後になってから。それからも本人は直接正体を明かしてくれず、もどかしい日々が続いている。

月影先生への絶対的な信頼

最初は、公園で子ども相手に映画の説明をしていたマヤに急に話しかけてきた不気味な人として登場した月影先生だが、最も早くマヤの才能を見抜いた人物でもある。

演技に悩むマヤの相談に乗り、女優への道を開き、厳しい態度ながら的確な指導でマヤを導いていく先生に対し、マヤは絶対的な信頼を寄せている。 「先生についていけば間違いない」という気持ちはともすると依存になってしまうが、先生はそうならないよう何度もマヤを突き放す。

深い愛ゆえに時には非情なまでに厳しく接する月影先生の存在なくして、マヤは女優になることはできなかっただろう。

既刊49巻のざっくりした流れ

「面白そうだけど49巻はちょっと手を出しにくい…」という方に向けて、最新刊49巻までの大まかな流れもご紹介。昔読んだけれどあまり覚えていない方も、読み返す際の参考にしてみて。

1~3巻 これから始まる物語の土台

冒頭3巻は、物語の主要な登場人物の紹介や、設定を説明してこれから始まる物語の土台を整えている段階だ。

  • 姫川亜弓がマヤをライバル視する
  • 同年代の俳優・桜小路優がマヤに思いを寄せる
  • 月影先生がマヤに並々ならぬ思い入れを示す
  • 速水真澄が一生懸命なマヤの生き方に知らず知らず惹かれていく

『ガラスの仮面』の基本となるこれらの設定が示され、今後語られる物語へのわくわく感を高めている。まだ演劇要素よりスポ根的な演出の方が印象的で、周りの限られた人がマヤの才能に気付き特別視している状態だ。

3巻の終わり~15巻 見応えある演劇まんがに

序盤は物語の荒唐無稽さが目立っていたのが、マヤが俳優として成長してきたおかげで、演劇まんがとしても見応えが出てくる。ただの人真似ではない演技の楽しさを知ったマヤは、『紅天女』を意識するようになり、さまざまな役を演じることで実力をつけようとする。

まだ『紅天女』がどんな舞台なのかは明らかにされていないものの、13巻では亜弓もマヤと共に『紅天女』の候補者となり、マヤVS亜弓の構図が明確に打ち出される。とはいえマヤは亜弓に対する劣等感が強く、まだまだ対等なライバルとは言えない。

この頃マヤには

  • 紫のバラの人を意識する
  • 月影先生に信頼を寄せる
  • 初恋を体験

といった重要な心境の変化も訪れている。

16~33巻 母との死別がもたらしたもの

16巻でお母さんが亡くなり、深い悲しみに沈んだマヤは、それを利用されて歩み始めていたスターへの道から一気に転落していく。一般の劇場から閉め出され、苦境に立たされたマヤだったが、そのことが彼女が芝居と向き合い、能力を磨く機会を与えてくれた

より一層の実力をつけ、プロの演劇界にカムバックしたマヤは、亜弓とダブル主人公で、月影先生も共演の芝居『ふたりの王女』に臨む。その後もう一作、『忘れられた荒野』で狼少女を好演し、『紅天女』の上演資格者に返り咲く。

ところでマヤの母の死の遠因を作った真澄はずっと罪悪感を引きずっており、それがのちのち本筋にも響いてくる彼の「マヤには嫌われている」という固定観念の原因となる。

34~41巻 『紅天女』の内容が明らかに

『紅天女』の上演に向けて、演劇界が本格的に動き出す。試演を経てマヤと亜弓のどちらが主演するか決めることになり、ふたりは『紅天女』が生まれた梅の谷へと、月影先生の指導を受けに行く。

梅の谷ではふたりの演習の後、月影先生による最後の『紅天女』が演じられ、ようやく『紅天女』のストーリーの大部分が明らかになる。

また、真澄の紅天女への思い入れや月影先生の過去が明かされ、亜弓のマヤへの憎しみが露になるなど、主人公以外のキャラクターに焦点を当てた話が増え、各キャラクターの内面がより理解できるように。ここにきて話が更に深化していく。

36巻以降は、マヤの恋愛面でも大きな動きがある。

真澄への恋を自覚したマヤは彼を追い求めるものの、ふたりの間にはしがらみが多く、両思いなのにすれ違ったまま互いに切なさを募らせていく。

演劇におけるマヤの成長がメインだったのが、どんどん恋愛が占める割合が大きくなっていくのがこの辺りの特徴だ。

42巻~49巻 ハプニング続出、一体これからどうなっちゃうの!?

都会に戻ってきたマヤたちは、立て続けにハプニングに見舞われることになる。

  • マヤは恋心に振り回されて精神不安定に。なかなか演劇モードになれない
  • 稽古中の事故で亜弓の目の奥に血腫ができて、失明の恐れがあると診断される
  • 『紅天女』のマヤの相手役、桜小路優が交通事故で足を骨折
  • 真澄の婚約者・紫織が、精神的に追い詰められて自殺未遂

多くの苦しみは、真澄が自分の心を偽って深窓の令嬢・紫織と婚約したことに端を発しているように思うが、マヤと真澄の恋愛とは関係のないハプニングも起こっている。

マヤの恋愛は『紅天女』の内容とオーバーラップさせながら描かれ、“魂のかたわれ”というキーワードが強調されている。

だんだんスピリチュアルな方向に寄りつつ、これからどんな展開になっていくのかまったく予想できないところで中断しているのが現状だ。

『ガラスの仮面』仰天エピソード3選

印象的なエピソードが沢山あるので、ファンそれぞれに思い入れのあるエピソードがあることと思う。
ここではわたしが個人的に衝撃を受けたエピソードを3つ挙げる。

ちなみに仰天はしなかったが、16巻の“母に見せるため亡骸の傍でマヤが演技をするシーン”も胸に迫るエピソードだった。

1巻 舞台のチケットのためなら冬の海にもダイブ!

映画やドラマを見始めると、他のことはすべて忘れてしまうほど芝居好きのマヤ。

大晦日、年越しそばの出前120軒をひとりで捌けたら、椿姫の舞台のチケットをあげると言われた彼女は、疲れで倒れそうになりながらも出前を完遂する。

さらに、チケットが飛ばされて海に落ちてしまうと、それを手に入れるために冬の海へと飛び込むのだ。

芝居を観るためには我が身を省みないその姿は異様で、思わず「おそろしい子…!」と呟いてしまうほど。このエピソードで読者の心を完璧に掴んでいる。

5巻 劇団の命運をかけて、一世一代のひとり芝居

演劇コンクールでいい結果を残せないと、マヤの所属する劇団つきかげを潰されてしまうピンチの中、迎えた公演日。

なんとライバル劇団の嫌がらせで舞台の道具が壊され、急遽道具を借りに行った劇団員たちも誰ひとり帰って来ない。このまま棄権するよりはと、マヤは一人で舞台に立つことに…!

そうして彼女が機転を利かせて演じた『ジーナと5つの青いつぼ』は、観客の一般投票で一位に輝いたのだった。マヤの度胸と才能を知らしめたこの舞台のことは、作中でも何度も語られる伝説的なエピソードとなっている。

45巻 目がかすむ中、亜弓が選択した道とは…!

目の奥に血腫ができ、症状がどんどん悪化している中、亜弓は失明の恐れがあっても『紅天女』を演じようとする。試演に出られずに『紅天女』を諦めるぐらいなら、失明して女優生命を絶たれても構わないと言うのだ。

亜弓の母も最初は考え直させようとするものの、彼女の悲痛な思いを聞き、見えなくても演技ができるように特訓を手伝うことに。

少し前から彼女の精神的な不安定さが目立ってきていたが、マヤに負けず劣らず彼女も内に異常なほどの執念を燃やしていることが明らかになり、尻込みしてしまうような気迫に満ちたエピソードである。

紅天女を演るのは誰!?

果たして新しい『紅天女』は誰が主演で、どのように上演されるのか?
亜弓の目はどうなるの?
錯乱した紫織の運命は?
月影先生は『紅天女』の上演まで生きられるのだろうか?


今後の展開で気になることは山盛りだけれど、波瀾万丈で未完ながら充分楽しめる作品だ。読んだことがない方も、読み返したくなった方も、長期休暇のこの時期にぜひ一気読みしてみて。

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逆盥水尾

さかたらいみおと読みます。昭和の少女漫画が好きで、最近はもっぱら漫画を読みふけりながら普及活動をする日々です。