自由を手に入れたくて、ひとり暮らしを始めた。社会人1年目のことだ。
これからは、何もかも自分で決められる。そう考えると胸が高鳴った。インテリアも、食事も、何時に寝て何時に起きるのか、も。
もうすぐ春がやってくる。きっとあちこちで、思いきり自由な新生活が始まることだろう。あのときの高揚を、私も今一度思い出してみたい。
新居を整える
高円寺駅から15分ほど歩いたところにあるマンションの、1Kの一室。そこが、初めて手に入れた“自分の家”だった(もちろん賃貸だけれど)。
料理をたくさんしたい、というのがひとり暮らしを始める動機のひとつだったので、間取りや設備にはこだわった。調理の匂いがベッドなどにつかないように、1Rではなく1K。火が使えた方が調理の幅も広がるだろうと思い、IHコンロの物件は候補から外した。
新居に置くものを購入するときも、まずはキッチン周りを充実させることばかりが頭にあった。当時は「可愛らしいキッチンにしたい!」と思っていて、白とピンクで統一することに決めた。
社会人1年目なので、大してお金はかけられない。あちこちの100円ショップを覗き、イメージに合うものを少しずつ揃えていった。まな板も、菜箸も、お玉や茶こしの取っ手もショッキングピンク(この茶こしは今も家にあり、プリンを作るときに活躍している)。ピンクが見つからないアイテムは、できるだけ白で。
当時、Francfrancへの強い憧れがあり、食器は新宿の店舗で揃えた。あれもこれも、と欲しくなる気持ちをこらえるのが大変だった。
リビングはシンプルで明るい空間にしたかったので、大物家具を白で統一した。と言っても、部屋に置いたものはそれほど多くない。ベッド、スライド式の大きな本棚、ローテーブル。すべて、ニトリで揃えた。
インテリアのアクセントとして、ピンクのクッションと、真っ赤なシーツも購入した。ガーリーなチョイスで、思い出すと少しくすぐったい。
家具を選びに、家族でニトリへ行った日のことは今でも記憶に残っている。私はワクワクする気持ちの方が勝っていたけれど、両親はきっと寂しい思いだったに違いない。
暮らしを楽しむ

「ひとり暮らしを始めたら、いろいろなものを家で作ってみたい」と思っていた。漬け込み酒を作ったり、ハーブを育てたり。もちろん、実家でもできることなのだけれど、物の置き場をごちゃごちゃした家の中に確保するのが億劫で、なかなか始められなかったのだ。
まず作ってみたのは、コーヒー酒。焼酎にコーヒー豆を漬けるだけなので、簡単にできる。保存瓶を消毒するのだけが、いささか面倒だった。
せっかく作ったコーヒー酒の味は、残念ながらまったく覚えていない。10年以上前のことだから忘れているだけかもしれないけれど、もしかすると飲んでいない可能性がある。作っただけで満足してしまうのは、私の悪い癖だ。白いローテーブルの下、床の上にぽつんと置かれていた瓶。その光景だけ、よく覚えている。
作っただけ、というと、自家製の味噌も思い出深い。夫と付き合い立ての頃に、大豆を炊いて味噌を仕込んだ。発酵が急速に進まないように、ジップロックに入れて冷蔵庫に保管。気づけば、そのまま10年以上の月日が経っていた。
冷蔵庫内のそれなりのスペースを占領し、2度の引っ越しにもついてきてくれた熟成味噌。先日の大掃除の際にようやく出してみた。味見をするか悩んだものの、ChatGPTに「廃棄すべき」と言われ、ついに一度も食べないままお別れをした。無念。ふたりで味噌を作ったことに意味があるのだと、自分に言い聞かせている。
ハーブ類の栽培も、同じような運命を辿り、うまくいかなかった。ホームセンターで買ってくるところまではいいのだけれど、なんとなくベランダに出るのが億劫になり、何年もそのままになっていたプランターたち。引っ越しのとき、久しぶりにベランダに出たら、10年前に買った唐辛子が干からびた状態で枝にくっついていた。
今も活躍している家具・家電たち

高円寺の家には2年住んだ。それから三軒茶屋のマンションで今の夫と同棲を始め、妊娠を機に現在の家に引っ越しをした。
ひとり暮らしをスタートするときに買った家具や家電の中には、2度の引っ越しに耐え、今もしぶとく生き残っているものがいくつかある。三軒茶屋の家には10年住んだので、相当長い年月を共に過ごしていることになる。
夫もひとり暮らしをしていたので、同棲を始めるときには、「どちらの家具・家電を残すか」というバトルがあった。このバトルは、私の圧勝。「いつか好きな人とふたり暮らしをするときにも使えるように」という基準で、大きめの家具や、スペックの高い家電を購入していたからだ。たとえば、夫のベッドはシングルだったけれど、私はセミダブルだったし、冷蔵庫も洗濯機も容量が大きかった。
そんな冷蔵庫は、今でも現役で活躍している。三菱のもので、2ドア、168L。ファミリーで使うには小さく、野菜室もないけれど、電子レンジを冷蔵庫の上に無理なく置ける高さなのが便利だ。スーパーにはほぼ毎日行き、買いだめをしないので、食材が入り切らずに困ることはあまりない。むしろ、冷蔵庫の中のものを把握しやすいため、食品ロスが起きにくいという利点もある。
電子レンジ(HITACHIのヘルシーシェフ)も、ひとり暮らしを始めたときに買ったものだ。これまで使う機会があまり多くなかったからか、今も不調なく動いている。子どもが生まれてからは、離乳食をレンジで温めたり、オーブン調理をしたりと大活躍中なのでそろそろガタが来るかもしれない。すでに液晶の一部が表示されなくなっている。少しでも長く生き延びてほしい。
東芝のテレビも、まだ壊れず頑張ってくれている。小さめではあるけれど、それがいい。存在感があまりないので、テレビをつけていても、子どもが画面に釘付けにならずに済む。
長年使ったセミダブルのベッドは、先日ついに粗大ごみに出した。まだ小さな息子と添い寝をするのに、高さのあるベッドでは不安だったからだ。夫と私と犬と、長年ぴったり寄り添って眠ったベッド。少し寂しいけれど、敷布団で川の字になって眠るこれからの日々も、きっと忘れられない思い出になることだろう。



