冬のソウルは、とにかく寒い。気温が氷点下になることも多く、旅行で街をぶらつくには少々過酷な季節に思えるかもしれない。
私がソウルを訪れた2024年の1月6日から8日は最低気温が-9℃にもなり、外を歩けば吹き付ける寒風によって顔中が刺すように痛んだ。普段は東京でぬくぬくと過ごしているので、これは想像を絶する寒さだった。
ただ、極寒ならではの楽しみ方がソウルにはある。「絶対にまた冬に来たい」と思わせてくれる魅力が。
この記事では、真冬のソウルを堪能する方法を紹介したい。
鍋料理で温まる
韓国グルメの代表格といえば、多種多様な鍋料理。熱々の鍋を堪能するベストシーズンは間違いなく冬である。冷気にさらされて凍りつく寸前の身体が、暖かな店内に、温かなスープに、ゆっくりと溶かされていく。
「元祖ウォンハルメ・ソムンナン・タッカンマリ」のタッカンマリ
冬のソウルで絶対に食べようと思っていたのは、タッカンマリ。鶏一羽を丸ごと煮込んだ鍋料理だ。韓国で食べるタッカンマリは、これでもかというほどにニンニクが効いている。この味には、日本の韓国料理屋さんではなかなか巡り会えない。
細い路地にタッカンマリを出す飲食店がひしめき合っている、東大門の「タッカンマリ横丁」。ここに来ると「陳玉華ハルメ元祖タッカンマリ」を選ぶことが多いが、大人気店のため、待ち時間が相当に長い。冬場に外で並ぶのはなかなか厳しいと思い、今回は同じ横町内にある「元祖ウォンハルメ・ソムンナン・タッカンマリ」を訪れた。
席に着くと、注文せずともタッカンマリが提供される。鶏の旨みがぎゅっと詰まったスープの温かさが、冷え切った身体の隅々までじんわり広がっていく。そう、これが食べたかった。
鍋の具材には、醤油、からし、そして「タデギ」と呼ばれるコチュジャンベースの調味料を混ぜ合わせたソースをつけて食べる。同じ鶏の鍋でも、日本の水炊きとは違ってパンチのある味わいを楽しめる。韓国焼酎にもマッコリにもよく合う。
「ウンジュジョン」のキムチチゲ
「チゲ」は韓国語で鍋という意味なので、つまり「キムチ鍋」だ。日本でも食べられる場所は比較的多いメニューだが、「ウンジュジョン」のキムチチゲは一風変わっている。鍋と一緒に、様々な葉物野菜が提供されるのである。
この葉物野菜は煮込まずに、キムチチゲに入っている豚肉などをサムギョプサルのように巻いて食べる。具に汁気があるので、手がべちゃべちゃになるが、そこはご愛嬌。
使われているキムチは酸味が強く効いており、さっぱりとした味わいだ。スープにごはんをほぐし入れてクッパにするのもたまらない。
隣の席のご夫婦がマッコリを飲んでいたので、真似して頼んでみた。キムチチゲにはマッコリ、間違いない。唐辛子とアルコールで身体が温まり、店を出る頃にはもう、腕まくりまでしている。
「イギョンムンスンデコプチャン」のスンデコプチャン鍋
今回の旅行でいちばん気に入ったお店は、「イギョンムンスンデコプチャン」だ。ここのスンデコプチャン鍋は、絶対にまた食べたい一品。日本に帰ってきてからも、時々あの味を思い出しては身悶えするほどである。
スンデは、豚の腸に春雨やもち米、豚の血などを詰めた食材で、香りともちもちした食感が癖になる。コプチャンは小腸だ。それらをぐつぐつ煮込んだ鍋は見た目以上に辛く、身体が次第にぽかぽかしてくる。
どっさり入ったコプチャンは、やわらかく癖がない。どっさりというのは決して誇張ではなく、平たい鍋のどこにこの量の具材が入っているのか、と驚くほど。「コプチャンとスンデが無限に湧いてくる魔法の泉かな?」とひとしきり盛り上がった。くったりと煮込まれたエゴマの葉の香りもいい。
〆はチャーハンで。本来はセルフで作るのだが、初心者らしくもたもたしていたら、お店の方が見かねて手早く作ってくれた。缶に入った大量のごま油と、これまた大量の韓国海苔をごはんに混ぜ込む。スープの香りをぎゅっと蓄えたチャーハンは、5回ぐらいおかわりしたいほどのご馳走だ。
美術館を巡る
温かい鍋料理でお腹が満たされたら、次は屋内でゆっくり過ごせる美術館巡りをおすすめしたい。ソウルには大型の美術館がいくつもあり、どれだけ時間があっても回りきれないほどだ。
「国立現代美術館 ソウル館」
安国駅近くの「国立現代美術館 ソウル館」は、国立だけあって企画展の数も多く、見ごたえ充分だ。私が訪れた時は5つの企画展が開催されており、早足で見て回っても3時間以上かかった。5,000ウォン(約550円)ですべての展示が観られるのも嬉しい。
ミュージアムショップも充実している。グッズの販売店とは別にアートブックの専門店があり、本を眺めているだけで1日中過ごせそうだ。アート・デザイン関連雑誌の品揃えがとてもよく、ハングルが読めないにも関わらず何冊も買い込んでしまった。
「ソウル市立美術館」
こちらも、複数の企画展が開催されている大型の美術館だ。今回の訪問時は、展示がすべて無料で驚いた。アートに触れるハードルが下がるという点で、素晴らしいと思う。
「国立現代美術館 ソウル館」もそうだったが、解説の分量が多く、アーティストや作品への理解を深めやすかった。大抵英語が併記されているが、ハングルしかない箇所では「Google翻訳」アプリのカメラ機能が役立ってくれる。企画展の解説資料も紙やPDFで持ち帰れるのがいい。
「リウム美術館」
梨泰院の「リウム美術館」は、サムスングループのサムスン文化財団により設立された美術館である。建物入り口には宮島達男さんの作品が、展示室の出口にはオラファー・エリアソンの作品が常置されている。
館内は賑わっていて、若者のデートスポットとしても活用されているようだ。雰囲気のある空間で韓国の古美術に触れ、心が整うような時間を過ごせた。
雪景色を楽しむ
これは運次第ではあるが、雪景色との邂逅も冬のソウルの醍醐味である。
白銀の雪をかぶったソウルは美しく、いつもとは違う表情を見せる。カメラを持って歩き回れば、興奮に寒さも忘れてしまう。
気温が低いので、雪が降った後の道路の凍結には注意が必要。冬のソウルには、滑りにくい靴を履いて行くと安心だ。
ホテルでゆっくり過ごす
どこか開放的な気持ちになる夏とは打って変わって、冬は引きこもってまったりと過ごしたくなるのは私だけではないだろう。夜、鍋料理で満腹になった後、「バーにでも行く?」なんて言いながら、ついホテルの方に足が向いてしまう。
近くのコンビニでマッコリを買って部屋に戻り、テレビをつけると、韓国の音楽授賞式「2023 MAMA AWARDS」を放映していた。最近のアイドルグループをキャッチアップしながら、誰それがかっこいいなどときゃっきゃ騒いでいるうちに、あっという間に夜が更けていく。
セレクト書店で手に入れた韓国の雑誌をめくったり、買い集めたパックを使ったりしながらのんびり過ごし、充分に眠って朝を迎える旅もいいものだ。
魅力たっぷりの真冬のソウル。ぜひ訪れて、冬ならではの楽しみを見つけてほしい。