冬にしかできないキャンプがあってね

街を吹き抜ける風が冷たくなってくると、「ああ、キャンプの季節だ」と思う。

キャンプ地の雪景色を思い出す。冬の陽光が降り注ぎ、ぼすっと足を踏み出す度に地表はギラギラと銀色に輝く。派手なオレンジのレインブーツを履いた犬が跳ね回る。鼻先が、尻尾の先が、あっという間に白くなる。

抜けるような青空。満天の星。テントの中でもうもうと湯気を立てる鍋。眠る前、石油ストーブを消した直後の強烈な匂い。それらの記憶は、私の心をふわりと浮き立たせる。

だから、冬キャンプが好き

真冬にテントを張って寝泊まりするなんて、さぞ過酷だろうと思う方がいるかもしれない。私も、キャンプを始めた頃はそう思っていた。

ところが、冬の方がかえって快適に過ごせることに気づいてしまったのだ。

夏は、暑さをどうすることもできない。うちわやポータブル扇風機でなんとか涼もうと試みるものの、焼け石に水であり、全身が汗でびちゃびちゃになる。ひどい時には、熱中症寸前までいくこともあった。短時間だけ冷房をつけた車内に避難したが、温度を18℃に設定しても体内に熱がこもったままで焦った。

夏キャンプは、虫との戦いの場でもある。油断していると、飲み物にすぐ虫が入る。夜は、ランタンの周りの羽音がうるさくて落ち着かない。毎回ブヨに刺され続けた結果、ブヨアレルギーのようなものを発症し、刺されると全身のあちこちに水ぶくれができるようになった。自然の中にお邪魔している身なので、戦うというよりは共存したいものだが、そんな甘いことは言っていられないのである。

もちろん、夏には夏の楽しさがたくさんある。だが、「快適かどうか」を考えると冬キャンプに軍配があがる。

冬は、しっかりと防寒対策さえすれば、心地よくキャンプをすることができる。暑さはどうにもならないが、寒さは克服しやすいのだ。薪ストーブや石油ストーブを使用すれば、テント内で半袖で過ごすことも可能である。私はまだ試したことがないが、豆炭を使えばテントにこたつも置けるらしい。

夏季と比べるとキャンプ場が比較的空いていて、ゆったりと過ごせるのも利点だ。虫がいなくなり、自然界の音もごくわずかになる。しん、と静まり返った空間で、こぽこぽとお湯を沸かし、コーヒーを飲む。時折、焚き火にくべた薪がぱちんと弾けて、火の粉が舞い上がる。暖を取りながら、本を読んだり、文章を書いたりする。

携帯も、腕時計すらもいらない。日が落ちて空気が一段と冷たくなったら、のっそりと立ち上がって夕食の支度を始める。そんな冬のひとときがたまらなく愛おしい。

冬キャンプで食べたいのものは

夏のキャンプではBBQやピザ作りをすることが多いが、冬は鍋ばかりだ。テントにひきこもって、身体を芯から温めてくれる料理をぬくぬくと楽しむのがいい。

最近手に入れたtrangiaの「ストームクッカー」は、2人で鍋料理をするのにちょうどいい大きさだ。アルコールバーナーで温める方式なので、ガスコンロのようにテーブルの上で場所を取りすぎないところも気に入っている。これで、すき焼きやカレーも作った。

冬は大きなクーラーボックスを用意する必要もなく、地面に無造作に置いていたビールはキンキンに冷えている。鍋料理をする時は、同じくしっかり冷えたスパークリングワインを開けることも多い。RIEDELの「O TO GO」は、チューブ缶に入った脚なしのワイングラスで、持ち運びに最適だ。家と変わらないクオリティでワインを楽しむことができる。

この季節にだけ存在する美しさ

積もった雪の表面が、あんなにキラキラと光を放つなんて知らなかった。まるで、ラメを大量にぶちまけたかのようだ。朝、テントの外に出ると、地表のその美しさに目を奪われる。夜には、懐中電灯の光を当てた場所が、はっと目を覚ましたかのようにきらめく。あまりに幻想的で、寒さを忘れる。

上を向けば、冬の澄んだ空に驚くほどの数の星が瞬いている。立ち止まって、懐中電灯をオフにする。風はなく、なんの音もせず、ただ自分と星だけが存在する。

冬は、あまり長く焚き火をしない。火にあたっていない背中が寒すぎるからだ。その代わり、石油ストーブや薪ストーブを使って暖を取るのが楽しみのひとつになる。

石油ストーブは、準備も片付けも手軽なところがいい。淹れたコーヒーはすぐに冷めてしまうが、マグカップをストーブの上に乗せれば熱々のまま楽しめる。

時間に余裕がある時は、薪ストーブを使う。石油ストーブとは段違いの暖かさである。窓から炉内の炎をぼーっと眺めているだけで、非常に充実した時間を過ごせている気分になるから不思議だ。焚き火もそうだけれど、炎というのはどれだけ見ていても見飽きない。

気をつけたいこと

利点ばかりの冬キャンプだが、冬ならではの注意点もある。我が家の数々の失敗を踏まえて、意識しておいた方がいいことについても記しておく。

1つ目は、寒さを甘く見ずに、やりすぎなほど防寒対策をすること。たとえば、テントや寝袋は「春・夏・秋」の3シーズンだけの使用に適したものも多く存在している。特に寝袋は、設定された快適温度と下限温度を参照しながら、十分に暖かいものを選んだ方がいい。

我が家の寝袋は極寒の環境に耐えられないので、Jackeryのポータブル電源と電気毛布を必ず持っていくようにしている。このセットがあれば、マイナス10℃を下回るような日でも快適に眠れる。困るのは4、5泊する時だ。2晩も使えばバッテリー残量が尽きてしまうのでJackeryのソーラーパネルも買った。ただ、天候が悪いとパネルは意味をなさず、車で近隣を無駄にぐるぐる走りながら走行充電をする羽目になる。

手袋、耳当て付きの帽子、ダウンパンツ、防寒ブーツ、ヒートテックなど、もこもこと身体を温めてくれるものはいくらあってもいい。ホッカイロや湯たんぽも、持っていれば安心だ。

2つ目は、「あらゆるものが凍りつく」ということを頭に入れておくこと。氷点下を下回る場所でキャンプをする場合は、ものが凍らないような対策を取っておくことも大事である。

私は何度か、ケースに入れたコンタクトレンズを洗浄液ごと凍らせてしまった。溶かして使ったが、レンズの形がふにゃふにゃになってしまった。対策として、ケースをタオルで巻いてテント内のカバンに入れたところ凍らなくなった。

朝起きると、他にもいろいろなものが凍っている。お茶や油、犬の飲み水など。それらを溶かしたり入れ直したりするところから一日が始まる。

大抵のものは凍ったところで問題ないのだが、PCは冬の車内に一晩置いておいたら、次の日電源がつかなくなったので要注意。卵を孵す親鳥のように必死に温めたら、半日後になんとか息を吹き返した。

3つ目は、一酸化炭素中毒を十分に警戒すること。薪ストーブや石油ストーブは冬季の心強い味方だが、換気が甘いと中毒の危険がある。そもそも、テント内でのストーブの使用は、一部のテントを除いて推奨されていない。あくまでも自己責任で使用しているが、一酸化炭素チェッカーは必ず置くようにしている。

薪ストーブは、煙突に布が触れたり火の粉が降り掛かってくることで、テントが燃え上がる危険性もある。周囲に迷惑をかけないためにも、しっかり調べて対策することが大切だ。

さまざまな魅力を見せる冬キャンプ。ぜひ、冬ならではの特別な時間を過ごしてほしい。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。