「犬との暮らし」をはじめた理由

気づけば、我が家のトイプードルは7歳になっていた。身体が小さいので「子犬ちゃん」と呼んでしまうこともあるが、もう立派なおじさんだ。

夜、私たち夫婦を両脇に押しのけて、ベッドの真ん中ですやすやと眠る犬。そのふてぶてしい顔つきを見ていると、愛おしさがこみ上げてくる。

いつか、この子を見送らなければいけない日が来るとしても、我が家に迎える選択をしたことに後悔はない。今回は、そんな「犬との暮らし」をはじめた理由について書きたいと思う。

わたしのこと

  • 年齢:30代
  • 性別:女
  • 職業:PR
  • ライフスタイル:夫と同居、インドア派時々アウトドア派、リモートワーク、夜型、自炊派

「犬を飼おう」と思ったきっかけ

元々、動物は大して好きではなかった。

実家では、一度だけゴールデンハムスターを飼った。見ている分には可愛かったが、噛まれるのが怖くてあまりスキンシップがとれなかった。一度、彼が食事に気を取られている隙にそっと撫でようとしたら、突然鋭い痛みが走り、見ると指先から出血していた。自分に非があるとはいえ、かなりショックな出来事として記憶に残っている。言葉が通じない相手との意思疎通なんて不可能だ、と感じた。

そんなこともあり、9年前に当時の彼(であり今の夫)と同棲を始めた時、たまたまペット飼育可のマンションに入居したものの、自分たちがペットを飼うなんて想像もしていなかった。夫も犬を飼ったことはなく、「動物がすごく好き」というタイプでもなかった。

ところが、それから2年ほど経った頃にきっかけが訪れた。お互いが社会人4〜5年目になり、仕事がぐっと忙しくなったのだ。日々のストレスが増えて、気づけばInstagramにアップされる動物の投稿に癒やしを求めるようになっていた。

当時、私たちがよく見ていたのはハムスターの投稿で、どちらからともなく「こんなにずっと見てるんだったら、自分たちで飼わない?」という話になった。ハムスターであれば、金額的にもすぐに迎えることができる。

ただ、寿命の短さが気にかかってしまい、お迎えの踏ん切りがつかなかった。ハムスターの寿命は2〜3年と言われている。「せっかくペットを飼うのなら、できるだけ長く過ごしたい」という気持ちはふたりとも同じだ。また、私たちはキャンプが趣味なので、一緒に外で遊べる動物を迎えた方がいいのではないか、という考えもあった。

ここで初めて、「犬を飼う?」という話が持ち上がる。

私たちに「犬との暮らし」ができるのか

犬について何も知らないに等しい私たちは、まず調べることから始めた。

どんな犬種が存在していて、それぞれどのような特徴があるのか。飼育にあたっては何を購入しなければいけなくて、必要な予算はどのぐらいなのか。犬の世話とは、具体的にどのようなことをするのか。

飼いたい犬種は、それほど議論することなくトイプードルに決まった。比較的長生きする犬種だと言われていること、毛が抜けにくいこと、小型犬なので車や公共交通機関での移動がしやすそうであること、何より見た目の愛らしさが決め手だった(犬好きとなった今、どんな犬種も愛らしいのだが)。

犬の迎え方にもいろいろある。ブリーダーさんから迎える、ペットショップで迎える、保護犬の里親になる、などだ。私たちはできるだけ犬が小さな頃から一緒に過ごしたかったこともあり、ブリーダーさんかペットショップで迷っていた。ただ、ブリーダーさんは犬舎が遠方にある場合が多く、当時は車もなかったので見て回るのが難しそうだ、と断念。近隣のペットショップを回ることにした。

休日、1日かけて5️軒ほどのペットショップに足を運んだ。「赤リボンくん」と出会ったのは、その日の夜のこと。最後に訪れたペットショップが閉店する10分前だった。

「赤リボンくん」は、その日見たどんな犬とも違う感じがした。身体が小さく、でも目には力があって、じっとこちらを見ていた。首につけられた赤いリボンが品よく、とても似合っていた。

犬を飼うならこの子だ、と思った。1週間後の休日に、もしまだこの子がいたら。そう思いながら帰宅した。

大抵の課題はクリアできそうに思えたが、ひとつ、どうしても気がかりなことがあって、犬を飼う決心がついていなかった。それは、夫とふたりで海外旅行に行けなくなってしまうのではないか、ということ。インターネット上には「犬の命を引き受けるのだから、海外旅行なんてもってのほか」という声もあり、「犬」か「海外旅行」かという選択を迫られたような気になって落ち込んだ。

愛犬を迎えた今となっては、たとえ海外に行けなくなったとしても犬と過ごせるのであれば十分なのだが、当時の私にとっては大問題だったらしい。「赤リボンくん」と出会ってからの1週間は、そのことを考え続けていたように思う。

結局、お金をかけてペットホテルに預けることでこの問題は解決しそうだ、ということがわかり、ようやく犬を迎える決心がついた(結果的に、とても信頼できるペットホテルに出会い、年に1度ぐらいは海外に出かけている)。

週末、朝一でペットショップに駆け込んだ。「赤リボンくん」は、まだそこにいた。店員さんのところにすっ飛んでいき、「この子を飼いたいです」と伝えると、「まず抱っこしてみます?」と椅子に案内してくれた。

初めて、自分の手で犬を抱いた。「赤リボンくん」はとても臭かった。臭くて、重くて、温かかった。

▲ 「赤リボンくん」に初めて触れた日

犬は、家族である

飼い始めてからしばらくは、とにかく大変だった。そもそも「忙しくて疲れているのでペットを飼おう」が始まりだった上に、ふたりとも犬との暮らしが初めてなので、仕事に飼育に、てんやわんやだった。

愛犬の咳が続いて、1年目はほぼ毎月獣医さんの診察を受けた。子犬にはよくあることらしい。深夜に血を吐いてタクシーで救急動物病院に向かったこともあれば、誤飲でレントゲンを撮ったこともある。

私も夫も仕事終わりが遅かったので、帰るとケージも犬もフンまみれで泣きそうになった。目を離した隙に空気清浄機のコードが食いちぎられ、ソファの木の肘掛けはだいぶ削り取られた。

そんなやんちゃだった子犬も、気づけば7歳だ。彼の名前は「アポ」と言う。漫画『宇宙兄弟』に登場する犬のあだ名である。

人の言葉を操ることのできない生き物との意思疎通なんて不可能だ、と思っていたが、次第にアポが何を求めているのかわかるようになった。おなかが空いたとか、膝の上に乗りたいとか。子犬の頃は警戒心が強かった彼も、今では完全に油断しきってくつろいでいる。アポが私を信頼していることが伝わってくるし、私が向ける愛情を彼も実感していると思う。それって、なんだか奇跡みたいだ。

アポとはもう、100泊以上キャンプをしているだろう。一緒にどこにでも行けるように、車を買った。ゴールデンウィークには、3年続けてアポと車で北海道に行っている。北海道のあちこちを、毎晩キャンプをしながら巡る旅だ。出かけるときに入るバッグがお気に入りのようで、キャンプの準備をしていると、いつもバッグに駆け込んで出発を待っている。

この7年の間に、恋人同士だった私と夫は結婚した。子どもはいないが、アポとの3人家族だと思っている。夜、ベッドサイドの電気を消すと、必ずアポが私たちの間に割り込んでくる。「ここ、ここ」という顔をして幸せそうに眠る。その時間が、空間が、何よりも愛おしく、あの時「赤リボンくん」に出会えたことに、ただただ感謝する。

はじめての犬

犬の一生は短い。きっと彼は私たちよりも先に旅立ってしまうだろうし、私たちはいつかその悲しみを受け入れなくてはいけない。

もしかしたら、また別の犬を迎えるかもしれない。それでも、私たちの「はじめての犬」はアポだけなのだ。そんな特別な存在と、試行錯誤をしながら過ごしたひとときは、かけがえのない記憶としてずっと残り続けるはずだ。

アポが幸せな一生を送れるように、今は少しでも長く、家族で時間を過ごしたい。これからも、あちこちで一緒にキャンプをしよう。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。