“急ぎの予定がない日なら、各駅停車でゆっくり移動してもいいじゃない。”
30年ほど生きてきた中で、「移動時間は短ければ短いほどいい」という思い込みがあった。
各駅停車より早く着く電車があるなら立ってでも乗る。
混雑していてもきゅうくつなのがつらくても、いろいろな人の匂いが混じった空間が耐えがたくとも、我慢して満員の快速電車に乗る。
でも、よく考えたらそこまで頑張らなくてもいい日もあったのでは?
たまには各駅停車でゆっくり行こう。急がず帰ろう。
生き急ぐのを少しばかりやめて、各停を使うよさを掘り下げてみる。
あえて余白を選ぶという選択
「この電車に乗らないと間に合わない」
通勤や通学するとき、あるいは誰かと待ち合わせするとき、
何時までに目的の駅へ着いていればいいのか逆算して行動する。
準備がうまくいって1本早い電車に乗れるならそうするし、
目的地が遠くて乗車区間が長いときは、快速や急行など“1分でも早く到着する電車”に乗る。
自分の中では当たり前の選択だったから、別段スケジュールに追われていない日でも、
ふらっと買い物に行くときでも深く考えずそうしてきた。
同様に、用事が終わった後「あとは帰るだけ」のときにも、
行きと同じく“1分でも早く帰れる電車”を選んでいた。
でも、もしかしたらそんなにせかせかしなくていい日だってあるのかも。
考え直すきっかけはある日、突然訪れる。
数年前の冬。
いつものように通勤した後、職場で急激に体調が悪くなった。
多少なら休憩時間に横になって回復するのだけれど、どうにも治りそうになくて、急きょ近くの病院へ駆け込む。
点滴を受けて少しよくなったものの、仕事には集中できなさそう。仕方なく早退させてもらうことにした。
しかし、当時のわたしは長距離通勤者。最低でも2時間は電車に乗らないと家に帰れない。
それは結構しんどいけれど、ゆっくり休むためにはやっぱり帰ったほうがいいよね…。
幸いにも熱はなく感染症の類ではなかったから、残りの体力を振り絞って帰路に着くことにした。
念のため、いつでもすぐに降りられるよう、各駅停車に乗って。
各駅停車に乗ってみてわかったメリット
想定外の体調不良によって、初めて通勤路線の各停を利用した。
乗り換えで待つ間隔もいつもと違うし、降りたことのない駅に一つひとつ停まるのは新鮮な体験。
当時は景色を楽しむ余裕はさほどなかったけれど、
それでもひとつ気づいたのは、「なんだ、乗ってさえいれば着くなら思ったより楽じゃん」ということ。
それから何度か、疲れた日の帰り道にはあえて各停を選んでみた。
その体験から感じた“各停ならではのいいところ”をいくつか挙げてみると、
どれも“混雑度合いが少ないこと”に関係がある。
- 基本的に快速電車より空いている
- 乗客同士の距離を保てて密着を避けられることが多い
- 人の匂いや体温で電車酔いすることが減る
- 押されたり出られなかったりが少なく乗り降りがスムーズ
- 先へ行くほどどんどん席が空く(途中で座れる確率が高い)
- 乗った駅からいきなり座っていけることもある
- 乗車時間が長くなるのでまとまった時間寝られる
- 仮眠しないときはゆっくり景色を眺められる
そこそこ長距離を走る路線だと、“〇〇駅より先に行く人は快速の方が速く到着する”パターンが多いから、
終点に近づくほどどんどん人が降りるのが主な理由かな?
満員電車のように大勢が密着してすし詰め状態になる機会が少ないから、
匂いや香水に酔ったり、体温で蒸れて汗ばんだりすることも回避しやすい。
途中で座れることも多く、長距離移動する日にはありがたみを噛み締める。
規則的な振動に揺られながら“うとうと”する時間も増えて、これが思った以上に快適な“旅”だった。
たまには仮眠せずスマホも見ないで、じっと景色を眺めてみるのもいい。
車内が混んでいなければ、座ったときに向かい側の窓から外が見えるから。
駅前に広がる商店街や、住宅街の中に現れる小さなお店。
ひと駅ごとに“そこを生活圏としている人たち”の暮らしを垣間見られる瞬間が、確かにある。
満員電車が苦手な理由
そもそもわたしは、人が密集している空間が得意ではない。
パーソナルスペースも広めだし、土日や連休に混雑しがちな場所へ行くこともなるべく避ける。
有名観光地とか、ディズニーランドとか、もちろん楽しいけれどできるなら平日の閑散期を選んで行きたい。
満員電車が苦手なのも似た理由で、人混みや知らない人に身体が触れるのが嫌なのだと思う。
パーソナルスペースを容赦なく侵食され、座席に座れたときもひとりぶんの空間さえ十分にとれないこともある。
なぜか両側からはみ出してくる人の腕が当たるし、冬場はダウンでパンパンの乗客に挟まれて信じられないくらいきゅうくつな状況になった。
今でこそリモートワークを実現できたものの、
通勤していたころは毎日しんどさが積み重なっていたように感じる。
朝早く起きるのも得意じゃないから、時間効率を考えて仕方なく満員の快速に乗っていたけれど、
もし余裕があったらきっと、移動時間を短くすることよりも“快適な時間を手に入れられるかどうか”を優先するだろう。
あえて各駅停車を選ぶのは、日々の暮らしに“ゆとり”や“余白”がほしいから。
わたしの場合は、これが大きな動機。
心や時間に“余白”をもつこと
無理してまで快速や急行に乗らなくてもいい。
“急がば回れ”じゃないけれど、わたしは「1分でも早く」と謎に焦るのをやめたら、
心にも体力にもゆとりが生まれた気がした。
どうせ早く家に着いてもダラダラとスマホを見てしまうなら、
いっそ帰り道でゆっくりスマホタイムを過ごすのもありだよね。
新生活で満員電車に疲れ切っているあなたがいるなら、
そして通勤路線に各駅停車があるなら、一度乗って楽になるかどうか試してみるのはどうだろう。
なにかと“タイパ(=タイムパフォーマンス)”が重視される時代だからこそ、
自分の心が本当に求めている“時間の使い方、過ごし方”とはどんなものなのか、
この記事が改めて考えてみるきっかけになればうれしい。