築年数が古い物件にあえて住む理由

今住んでいるのは、築50年ほどの一軒家。ダンゴムシが床を彷徨い、天井ではハエトリグモが闊歩している。床も壁も薄く、足音や扉の開け閉めの音がよく響く。
こう書くとオンボロ物件みたいだけれど、まるで祖父母の家のような懐かしさと心地よさがある。

新しくて綺麗な家に憧れつつも、引っ越すたびに築年数の古さを更新し続けてきた
そして、次また引っ越すとしても同じように古い家を選びたいと思う。
今回はその理由を深掘りしてみる。

わたしのこと

  • 年齢:20代後半
  • 性別:女
  • 職業:マンガ編集者、Webライター
  • ライフスタイル:彼と2人暮らし、散歩とごはんが好き、リモートワーク

引越しのきっかけはステイホーム

彼との2人暮らしで選んできたこれまでの物件は、築10年1LDKと築30年2DK。

今の家に引っ越す前の物件は、古いけれどリノベーションがされていて、3部屋が横一列に並んでいる間取り。1軒目からは家賃が少し上がったが、駅から徒歩5分、寝室からは富士山が見えるお気に入りの家だった。

しかし2年を少し過ぎた頃、コロナ禍になりステイホームを余儀なくされた

狭い家のなかで24時間、彼と2人きりの毎日。大きめのモニターが仕事道具の彼は、リビングの一角を定位置にし、ノートPCだけで作業ができる私はベッドやローテーブル、ソファなどあらゆるところで過ごした。

リビングのすぐそばにキッチンがあったので、仕事中の家事の音には気を遣った。食事時に突発的に会議が始まることもあり、そうなると料理をするのは難しい。
そして忙しくなってくると、我が家はまずキッチンが荒れ始める。2人とも料理は好きだが洗い物を後回しにしがちで、シンクには汚れた食器たちが積み上がっていた。
キッチンが家の中央にある造りだったので、全ての部屋からほぼ丸見え。荒れた様子が目に入ると、それだけで気持ちがカサついて、押し付けあいの喧嘩が増えていった。

そんな状態で1年半が過ぎ、半年後に2回目の契約更新を控えた頃、とにかく今より広い家に引っ越そう、そう決意して部屋探しをはじめた。

築50年物件との出会い

部屋の広さと数、家賃とのバランスを見ながら、内見を重ねる日々。築年数の条件を外して検索したところ、今の家と出会った。築50年とかなり古いけれど、部屋数も多く、これまでで最も家賃が安い
前のめりで内見を申し込んだ。

秋晴れの昼下がりに内見へ。
昭和のドラマに出てきそうな木造一軒家だけれど、全ての部屋に大きな窓があり、自然光がたっぷり入って風が抜ける。古い家が多い地域なので、隣の家の壁と庭がすぐ間近にあるけれど、窓からは金木犀や銀杏、紫陽花が見える。

「和室がやや渋めなんですが…」と不動産会社の人が申し訳なさそうに話す傍らで、鷹が羽を広げる欄間や味のある床の間を見て、こんな旅館みたいな和室、最高じゃないか!と鼻息を荒くしていた。

お風呂には謎の土偶タイルがはめ込まれているし、洗濯機を置くためのパンがなく床に直置き&排水ホースは床に開いた穴に直差しだけれど、そんなこと気にならないくらいに魅力に溢れた物件だった。

念願の仕事部屋

3DKということは、全部で4部屋。ダイニングキッチンと和室、洋室が2部屋あるため、役割別に部屋を確保できる。なかでも決め手は、やっぱり仕事部屋!

大きめの窓が2つあり、採光もばっちり。日中はできるだけ自然光で過ごしたいので、嬉しいポイントだった。
また玄関から一番近い部屋のため、仕事中の来客にも応じやすい。エアコンはついていなかったけれど、秋冬の昼間でもだいぶ暖かく、夏頃まで検討する時間があり助かった。
1人用デスクであれば3人分は置けそうなほどの広さがあり、ちょうど私の仕事もリモートメインになってきていたので、専用のデスクやチェアを導入して、環境を整えようと意気込んだ。

その日のうちに契約を決め、内見から約1ヶ月後に引っ越した。

古さと広さで増える楽しみ

家全体が広くなったおかげで、増えたさまざまな楽しみたち

仕事部屋

それぞれのデスクに加えて、ワーキングチェアや本棚、洋服ラックを導入。机も広く、収納も増えたことで、仕事の快適さが格段に上がった。そして仕事の合間の癒やしのために、ポストカードで壁をにぎやかに彩り、お気に入りのキャラクターグッズをあちこちに飾って楽しんでいる。

ダイニングキッチン

キッチンが広くなり、料理と食事がとにかく楽しくなった。横幅2.5mほどある磨りガラスの出窓から、日光がたっぷり入り、朝昼の料理がとても美味しそうに映える。作業台と収納を兼ねた大きめの棚を導入し、これまで我慢してきた気持ちを発散するように、新しい食器たちをお迎えした。

和室

古さは自由で寛大だ。和な家具で統一する必要はなく、テイストが混ざっていてもしっかり馴染んでくれる。我が家はナチュラルな色や素材の家具をメインに、好きな柄や色物を気分で置いているけれど、ゴチャっとならずちょうどいい生活感としてまとまっている。

テレビやソファを置いてもスペースが余るので、憧れのキッズテントを追加した。座椅子やブランケットを持ち込んで、昼寝をしたり読書をしたり。ちょっとした秘密基地のようで、お気に入りの一角である。

広い家と心の平穏

今の家に引っ越して、おうち時間がより好きになった。家の広さが心に余裕と平穏をもたらしてくれた。狭い家だと、使ったものはすぐ片さないと邪魔になるし、気になってしょうがなかったが、今は少しくらい出しっぱなしにしても気にならない。

あれだけ喧嘩のきっかけになっていた洗い物問題も、キッチンが広くなったことで、“ちょっとくらい大丈夫”と思えるようになった。また家の一番奥に位置しているので、1日のうちで目にする機会も減って、そうすると不思議と気にならないものだと気がついた。

私と彼、お互いのスペースが増えたおかげで、同じ家の中にいながらひとり時間を過ごしやすくなった。なにか作業をするときも、相手の状態を気にしなくて済むので、気が楽だ。

自分たちに合った広さを手にしたことで、快適で穏やかな生活が叶った

古い家という選択肢

古いが故のデメリットもあるけれど、キッチンやお風呂など水周りはそこそこ新しく、不便さはない。少しのボロさが気にならなければ、築年数が古い物件は魅力に溢れていると思う。

  • メリット
    ・部屋数や広さの割に家賃が安い
    ・アンバランスさや雑多さが味になる
    ・田舎の家のような懐かしさと心地よさ
    ・新築物件にはない自由な間取りやデザイン
  • デメリット
    ・壁や床が薄く、隣近所の音が聞こえやすい
    ・床や壁に傷が多く、掃除をしても新品のようにはならない
    ・小さい虫が迷い込んだり棲みついたりしている

将来は、新築戸建てではなくあえて中古物件という選択肢もいい。昨今話題になっている空き家問題にも興味を向けて、年を重ねた自分たちが心地よく暮らせる家を見つけていきたい。

家探しで悩んでいる方は、試しに一度、築年数を条件から外してみては。
グッと心を掴まれる、自由で面白い物件に出会えるかも。

くにさわめい

清流・四万十川のある高知県生まれ。 前職は旅行メディアの編集・ライター。現在はマンガ編集者として働きながら、複業ライターとしても日々奮闘中。好きなジャンルは、フードエッセイと街歩き記事。とにかく外へ出て、おいしいものやきれいな風景、その場所の匂いや音に触れるのが好き。