暑すぎる日には読書がいい|夏に読みたい小説5選

表紙を目にしただけで、真夏の熱気を感じる小説がある。

肌を焦がすような日差し、まとわりつく湿気。いつまでも止まない蝉の声。夕立のあとの、土の匂い。

私の中で夏の情景と固く結びついている小説を、今回は紹介していきたいと思う。どうしようもなく暑い日に、涼しい部屋の中で、キンと冷えた麦茶を片手にぜひお読みいただきたい。

『姑獲鳥の夏』京極 夏彦

「この世には不思議な事など何もないのだよ、関口君」

京極さんのミステリー小説には、臨場感がある。その分厚さから“レンガ本”とも呼ばれる彼の本を数ページめくるだけで、もう不可思議で幻想的な世界に引き込まれている。夏のシーンを読めば汗ばみ、冬のシーンを読めば凍える。読了するまで、その世界からは抜けられない。

『姑獲鳥の夏』は百鬼夜行シリーズの第1作目であり、京極さん作品を未体験の方には、まず読んでいただきたい本だ。

舞台は終戦から7年が経った、昭和27年。その頃の夏は、今ほどは暑くなかったのだろうか。いや、クーラーや冷蔵庫が普及していなかった頃だから、やはり暑かっただろう。

二十箇月も身籠り続ける女性がいる――。そんな奇妙な謎から始まる『姑獲鳥の夏』を読み進めていくと、じっとりとした暑さが身体にまとわりつき、くらくらと目眩がするような感覚に陥る。次々と現れる謎は、本当に目の前で起こっていることなのだろうか。それとも、すべて暑さが見せる幻なのか。

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『夏の朝の成層圏』池澤 夏樹

朝、まだ日射しがあまり強くならないうちに、ぼくは礁湖で泳ぎ、潜って貝を探し、時には魚を突く。釣は夕刻の方がいい。

物語は、主人公が海に落ちて漂流するところから始まる。彼の身体はじりじりと太陽に灼かれ、耐え難い喉の乾きを雨水でなんとか潤す。「池澤さんは、一度漂流したことがあるのだろうか?」と疑ってしまうほど、その過酷な暑さの描写は真に迫っている。

やがて、漂着した島での生活がスタートする。食べものを探し、雨水を蓄える。たったひとり、自然の中で生きることのスリル、絶望、そして喜び。主人公とともに、試行錯誤を楽しめる一幕だ。

そのあと、物語は想像もしていなかった方向に転がっていく。ぜひ実際に読んで、展開を確かめていただきたい。便利すぎる日々の暮らしに嫌気がさし、「常夏の島で冒険したいなあ」なんて考えている方には、絶対的な自信を持っておすすめできる小説だ。

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『本と鍵の季節』米澤 穂信

日を追って暑くなり、もうすぐ襲ってくる耐え難い熱気を予感させられていた季節、僕と松倉詩門はほとんど同時に、髪を切ろうと思い立った。

10代の頃、今よりも“夏”を色濃く感じていた気がする。

制服が夏服に替わり、水泳の授業が始まる。塩素の匂いを嗅ぐと、スイミングスクールの厳しかった先生を思い出して、胃がきゅっと縮む。今年の花火大会には、何色の浴衣を着ていこう。そんなことに頭を悩ませていた時間が、今となっては愛おしい。

『本と鍵の季節』は、夏が舞台の小説ではない。6つのストーリーが収録された連作短編集となっており、話が進むにつれて季節が移ろっていく。ふたりの男子高校生が活躍する、少しゾクッとさせられる青春ミステリーだ。

高校生の物語だからだろうか。移り変わる季節の描写が、非常に印象的だ。特に、暑さをやり過ごしながら謎を解く夏は、なんだかドラマチックでグッとくる。

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『夏休み』中村 航

ばしゅ、といういい音をたてながら、僕らは連続してプルタブを引いた。ビールの缶越しに目を合わせ、乾杯の仕草をした。

中村さんの小説は、いつも切なく優しい。台詞の一つひとつが素敵で、うっとりしてしまう。

『夏休み』は、マモルとユキ、その友達である舞子さんと吉田くん、という2組の夫婦をめぐる物語だ。梅雨が明け、夏になり、突然吉田くんが家出をするところからストーリーが大きく動き出す。「それなら、私たちも家出をしよう」と旅立つユキと舞子さん。仕事のせいで家出に参加しそびれてしまうマモル。

“離婚”といったキーワードが登場しながらも、展開は重くなく、むしろ軽快に進んでいく。舞台は、やがて草津の温泉街へ。この部分の情景が、私は一番好きだ。夏が終わってしまう前に、深夜の温泉街を歩いてみたい。

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『屍鬼』小野 不由美

この惨状は何かの始まりではなく、ひとつの終焉だった。夏以来、ひそかに進行してきた事態の、これが終結点だった。

夏は、ホラーにスポットが当たる季節だ。小さい頃は、夏休みにテレビで放映される心霊特集が楽しみだった。

『屍鬼』は、『十二国記シリーズ』等で有名な小野さんが世に放った、ホラーミステリーの超大作である。読み進めていけば、次第に暑さも忘れられる、かもしれない。

じっとりと蒸し暑い7月、物語は幕を開ける。舞台となる小さな村は、不自然な死が続いていることで不穏な空気に満ちている。土と草の濃厚な匂いが立ち込め、ひぐらしの声が響く。恐怖は、ひたひたと近づいてくる。

“屍鬼”とは、一体何なのか。小説は全5巻と長いが、読み始めれば展開が気になってやめられなくなるはずだ。夜更かししても問題のない、休日の一気読みをおすすめしたい。

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小説で夏を感じたい

街に住み、部屋の中にばかりいると、なかなか夏を感じられない。蝉の声も聞こえないし、夕立にも気づかない。むしろ、クーラーの風にさらされて寒いぐらいだ。

そんなときは、存分に夏を感じられる本を読みたい。ここで挙げた本はどれもおすすめなので、皆さんにも夏の一冊として楽しんでいただけたら嬉しく思う。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。