そういえば銀婚式じゃない?
と、夫が言うので、アニバーサリーを理由に夫婦旅に出かけてみた。行き先はスリランカ(Sri Lanka)。
インド洋の真珠とも言われる緑豊かな熱帯の島には、歴史と文化、リゾート、そして“おいしい”がたくさんつまっていた。
スリランカってどんな国?
スリランカの基本情報
正式名称:スリランカ民主社会主義共和国(Democratic Socialist Republic of Sri Lanka)
首都:スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ(Sri Jayawardenepura Kotte)
人口:約2,218万人
面積:約6.5万km²
人種・民族:シンハラ人、タミル人、スリランカ・ムーア人
宗教:仏教、ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教
公用語:シンハラ語、タミル語、英語
通貨:スリランカ・ルピー(1スリランカ・ルピー=0.50円/2024年7月31日現在)
時差:−3時間半
インド洋に浮かぶ小さな島国、スリランカ。
日本ではそれほどメジャーではないこの国はかつて、「セイロン」と呼ばれていた。そのため、セイロンティー=紅茶の産地というイメージを持つ人は多いことだろう。
でも、スリランカで魅力的なのは紅茶だけではない。
キラキラと輝く太陽、濃い緑、アーユルヴェーダにビーチリゾート、新旧の建築群、奥深い食文化と、謙虚でやさしい人々。
スリランカに降り立ってからたった数時間で、わたしたち夫婦はこの国が大好きになった。
“旅は能動的であれ”が信条のわたしだが、今回は夫プレゼンツの結婚25周年記念旅行。
すべて夫まかせである。
小学生のときにスリランカのやたらと長い首都を暗記して以来、いつかは行きたいと思っていたそうだ。
首都の名前は「スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ」
実は国民ですら言いにくく、現地では「コッテ」と呼んでいることは、夫には黙っておくことにした。
そんな夫がプランニングしたスリランカ旅行のうち、ビーチリゾート、文化三角地帯(※)、世界的建築家・ジェフリー・バワをピックアップし、スリランカの魅力を紹介しよう。
(※)文化三角地帯:スリランカのほぼ中央に位置する古代遺跡が集中するエリア。スリランカで重要な遺跡が多く含まれている。
テーマは“何にもしない”。ホテルステイで読書三昧
成田から約9時間、スリランカ唯一の国際空港・バンダラナイケ国際空港からタクシーで向かった先はインド洋を目の前に臨む、至れり尽くせりなリゾートホテル。
空港からいちばん近いビーチリゾートがあるニゴンボ(Negonbo)。スリランカはインド洋に囲まれた島なので、個性豊かなビーチが点在。一年中リゾート気分を満喫できるのだ。
ニゴンボがある西海岸の静かな海辺に位置する『ジェットウィング・シー(Jetwing Sea)』に2泊したわれわれ。罰当たりなことを言うようだが実はわたしは国内外含め、リゾート地というものにあまり興味がない。ホテルステイがメインの2泊なんて退屈するに決まっていると思っていた。
そんなわたしの心の声を察知した夫は言った。
「ホテルステイは何にもしないことが目的なんだよ」
半信半疑で持参した文庫本を持ってビーチへ。
波の音とアジア特有の湿気を帯びた濃厚な風を感じながら、読みかけのミステリー小説のページをめくっていると、ハウスキーパーが怪しいと犯人探しをするよりも、ぼーっと海を眺めている方が心地良いことに気がついた。
普段、忙しないわたしは、何にもしないことがどれほど贅沢であるかを思い出した。
リゾートとはいえ、ホテルを出て少し歩くと、普段着のニゴンボの街が顔を出す。
下町のような雰囲気の街並みを歩きながら、
「やっぱりこういう感じがわれわれには合っているね」
と言った夫が、なんだかおかしかった。
いざ、世界遺産の空中庭園「シギリヤ・ロック」へ。
ニゴンボで何にもしない贅沢に後ろ髪を引かれながら、次の目的地、シギリヤ(Sigiriya)へ向かった。滞在先はその名も「ホテル シギリヤ(Hotel Sigiriya)」。
シギリヤにはスリランカを代表する世界遺産「シギリヤ・ロック(Sigiriya Rock)」がある。
スリランカを訪れるほとんどの人が目指すこの空中宮殿は、5世紀後半、シンハラ王朝のカーシャバ王子が、自分が王座に着くために父親を殺害し、異母兄弟の弟を南インドに追放。
しかし、父親を殺した自責の念と復讐を狙う弟から逃れるため、7年もの歳月をかけて巨大な岩の上に宮殿を作り籠城。それが、シギリヤ・ロック。
垂直に切り立った巨岩は、近づくほどにその大きさに尻込みしそうになる。なぜならその頂を目指すには、急な階段を登らなければならないのだ。
これが想像以上にハードだった。体力もさることながら、高いところが苦手なわたしにとっては、恐怖との戦いでもあったのだ。
南北約400m、高さ約180mからなるシギリヤ・ロック。どうやって宮殿をつくったのか、未だ解明されていないらしい。宮殿には王の沐浴場や謎に包まれた美女のフレスコ画、石窟寺院などの遺構が。
地上からかけ離れたこの場所で、自らの罪と復讐に怯えたカーシャバ王子は、シーギリヤ・ロックを築いた11年後、弟の軍に攻め込まれ、自ら命を絶ったという。
そんな歴史を聞くと、目の前に広がる宮殿が、虚栄でしかないことに気付かされる。
リアル「ファイト一発!」な、ピドゥランガラ寺院
シギリヤ・ロックへのアッタク前日、早朝4時に叩き起こされ、向かったのは「ピドゥランガラ寺院(Pidurangala Temple)」。ご来光を拝むため、夜明け前にピドゥランガラロック登頂スタート。
シギリヤ・ロックのように観光地化されていないピドゥランガラは、登山道なんて立派なものはほぼ、無い。途中、「ファイト一発!」って叫びたくなるほど、往年のCMを彷彿させる岩場をいくつも超えなければならない。岩の間に上手くハマって爆睡してるわんこに癒やされるも、シギリヤ・ロックよりもずっとずっと怖かった。
約40分、半べそかきながら登った先には、朝日に輝くシギリヤの大地が。
この景色を夫と見れたこと、
忘れない(多分)。
アーユルヴェーダで揉みしだかれる。
やれシギリヤ・ロックだ、ピドゥランガラと、結婚25周年の旅にしてはあまりにもハードすぎやしないかい?
と、そろそろわたしから文句が出そうな頃合いを見計らったかのように、シギリヤではアーユルヴェーが待っていた。
アーユルヴェーダを本格的にやるには、アーユルヴェーダドクターの診断を受けて最低でも2週間は必要だが、観光客向けにはマッサージに似た体験メニューがあって、われわれはシロダーラとアビヤンガを主に受けた。
シロダーラとは、額の中央に温かいオイルを少量ずつ一定の量を垂らし、瞑想状態に導き、心身の疲れを癒やす”脳のトリートメント”。アビヤンガはオイルを使った、全身揉みしだかれマッサージのようなもの。
ほんっっっとうに気持ちよくて、終わった後の爽快感たるやもう!
ハード登山の疲れも吹き飛び、視界もクリアになったような気がする。
アーユルヴェーダのあまりの気持ち良さにハマったわたしは、この後の行程でも隙あればアーユルヴェーダを受けまくった。
日本のサロンに比べて、半額以下なのもうれしい。
スリランカ料理の奥深さよ。
スリランカの食事は基本、カレーである。
カレー以外の料理を選らんだとて、そこはかとなく感じられるカレーの風味。
さすがに3食となれば飽きてくると思っていたけれど、これが全く飽きない。
スリランカのカレーは1種類の食材で作り、それを数種類お皿に取り分けて食べる。
甘味、酸味、苦味、そして刺激的なスパイスの組み合わせは無限大なのだ!
野菜もたっぷり摂ることができるスリランカ・カレー。旅先ではよくお腹を壊すわたしだが、アーユルヴェーダとの相乗効果なのか、スリランカ滞在中は体調もお肌もすこぶる快調だった。
唯一無二の建築家・ジェフリー・バワの世界観に触れる。
スリランカが世界に誇る建築家・ジェフリー・バワ(Geoffrey Bawa)をご存じ?
今でこそ世界のリゾートホテルのあちこちにあるインフィニティ・プール。それを生んだのがバワである。
スリランカのビーチリゾートにはバワ建築のホテルがたくさんあり、中でも最高傑作と言われいるのが『ヘリタンス カンダラマホテル(Heritance Kandalama Hotel)』だ。
ホテルに自然が浸食したように、突如としてして現れる岩肌のダイナミックな姿は、時の流れと共に自然に埋もれることを想定して設計されたのだそう。
どこもかしこもフォトジェニックなヘリタンス カダンラマ。
インダストリアルなデザインと剥き出しの自然が融合した空間は、どこまでがホテルでどこからが屋外なのか分からなくなる。
やがて緑に覆われ、自然と一体化するように設計されたヘリタンス カンダラマは、数年後、その外観は今と違う姿になっていることだろう。そんなわくわくするホテル、世界広しといえども、ヘリタンス カンダラマだけ。
1度で、2度も3度も楽しいスリランカ。
スリランカは予想以上に交通が不便で移動に時間がかかる。長距離移動は、タクシーをチャーターするのがおすすめ。
ドライバーに大まかなプランを伝えれば、その時々でアレンジしてくれるのでとても便利。われわれは文化三角地帯をめぐる3日間、タクシーをチャーター。おかげで効率良く寺院や遺跡を回ることができた。
歴史と文化、ビーチリゾート、アーユルヴェーダ、スリランカ料理。
多彩な顔を持つスリランカの楽しみ方は、訪れた人の数だけあることだろう。
例えばスリランカ最大の都市、コロンボではタイのバンコクやベトナムのホーチミンのような傍若無人な車、バイク、オート3輪の小型タクシー「トゥクトゥク(スリーウィラー)」の群れに遭遇し、その混沌さからエネルギッシュに生きる人々の生活を垣間見ることができる。
なお、トゥクトゥクのしつこい、もとい、熱心な客引きとの駆け引きも健在である。
長く続いた内戦を終えたスリランカは今、のびしろしかないはず。
1度の訪問で、2度も3度も楽しいスリランカ。
スリランカの人たちも気づいていない魅力を掘り起こしてみるのも楽しそう。
ああ、
カレーが食べたくなってきた。
夫を誘って、スリランカ料理を食べに行こう。そうしよう。