ミステリー小説に魅せられて

ミステリー(ミステリ)小説とは、なんだろう。

本を開くと、謎に突き当たる。その答えがどうしようもなく気になって、次のページをめくらずにはいられない。謎が、読書を加速させる。

そんな小説はすべて、ミステリー小説と呼んでもよいのではないか。

子どもの頃から、謎に満ちた小説に夢中だった。近所の図書館に通い、新本格ミステリーを読み漁った。「あ」行の作家の棚には、不思議とミステリー小説ばかりが並んでいた。

切なさをはらんだ青春ミステリーも大好物だ。最近は、北欧ミステリーに心惹かれている。

今回の記事では、近年読んだミステリー小説の中から、忘れられない数冊をご紹介したい。

※書影詳細:
自由研究には向かない殺人 〈自由研究には向かない殺人〉シリーズ (創元推理文庫)
ホリー・ジャクソン (著)、服部 京子(翻訳)Kindle版

『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン

『自由研究には向かない殺人』は、イギリスのミステリー小説だ。女子高校生のピップが、自由研究の題材として5年前の失踪事件を調べ始めるところから物語は始まる。

彼女は警察顔負けの調査力と分析力で、少しずつ謎に迫っていく。真相に近づくことは、危険に近づくことでもある。彼女を取り巻く誰もが怪しく思えてきて、手に汗を握って読み進めた。

高校生が主人公なので、青春小説の要素もある。ページ数は多いが読者を飽きさせることのない、良質なミステリーだと言える。BBCでドラマ化もされていて、2024年8月現在Netflixで視聴が可能だ。

本作を読み終えたら、三部作の続編である『優等生は探偵に向かない』と『卒業生には向かない真実』も必ず読んでほしい。特に、最後の『卒業生には向かない真実』は…。詳細は語らないでおくが、ここまで読まないと意味がない、とだけ大きな声で伝えたい。

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『特捜部Q ―檻の中の女―』ユッシ・エーズラ・オールスン

舞台はデンマーク。特捜部Qは、過去の未解決事件を捜査するためにコペンハーゲン警察に新設された部署だ。部署といっても、同僚から煙たがられている(が、ベテランの)警部補カールを窓際に追いやることが主な目的となっているため、メンバーはカールと、警察官でもない助手のアサドだけ。

冒頭から不穏な空気が流れ、ひりひりするような緊迫感に、ページをめくる手が止まらない。皮肉屋だが、どこか憎めないカールが謎に迫っていく様子に胸がときめく。謎多き男アサドの、思いがけないアシストも爽快だ。

『特捜部Q』シリーズは長く続いており、第9巻まで翻訳されている。推理小説というよりは、サスペンスであり、ヒューマンドラマである。どの物語も重苦しさに包まれていて、これが北欧らしさなのかも、と勝手に納得している。

第1巻ではギスギスしていた特捜部Qも、巻を追うごとにメンバーが増え、その関係性も変化していく。私も今では、ユーモアにあふれた特捜部Qの大ファンだ。

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『犯罪者』太田 愛

著者の太田さんは、『相棒』シリーズを手掛けた脚本家である。彼女は、本書『犯罪者』(文庫化前のタイトルは『犯罪者 クリミナル』)で小説家デビューを果たした。

冒頭から心掴まれる。白昼堂々発生した通り魔事件で、4人が刺殺された。犯人に襲われながらもなんとか生き延びた青年、修司だが、その後も襲撃を受けるなど、緊迫感のあるシーンが続く。これは、無差別殺人なのか。それとも、何か意図を持った犯行なのだろうか。

一見、事件には関係なさそうな描写も挟みながら物語は展開していくが、そのすべてが次第に繋がってくるのはお見事。伏線回収の爽快感がある。社会派ミステリーの要素もあり、読み応えは十分だ。

こちらも三部作で、『幻夏』『天上の葦(上・下)』と続く。スリルと謎に満ちており、ミステリー小説好きの方に自信を持っておすすめしたい作品である。

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『利休にたずねよ』山本 兼一

第140回直木賞を受賞した『利休にたずねよ』は、茶人の千利休にスポットをあてた時代小説だ。一般的にはミステリー小説というジャンルに括られないかもしれないが、その謎めいた展開はミステリーと呼ぶにふさわしい。

ストーリーは、豊臣秀吉の怒りを買った千利休が切腹するところから始まる。そこから、少しずつ時を遡っていく構成がユニークだ。短い章ごとに、千利休や豊臣秀吉、石田三成など視点が変わっていき、戦国時代を駆け抜けた彼らの人間性や関係性が細やかに描き出される。

どの章も、戦乱の世特有の美と儚さに満ちている。さらに、茶道の描写を通じて、移ろいゆく季節、自然にそっと触れる感覚が心地よい。

全編を通して要となる謎は、千利休が何よりも大切にしている“緑釉の香合”にどのような来歴があるのか、というものだ。誰にもその秘密を明かさなかった利休。終盤、謎が明らかになる場面の情景は、美しく切ない。

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『三体』劉 慈欣

『三体』三部作を読み終えるまでに、半月を要した。大長編である。Netflixで公開されたドラマ『三体』が気になっていたものの、先に原作のストーリーを知りたかったため、一気に読み切った。このスケール感をドラマで描ききるのは難しく(実際かなり省略、変更されている)、原作から読んで正解だったと思う。

『三体』は、一般的にはSFにカテゴライズされる小説だ。「宇宙には、地球人以外の生命体がいるのでは?」と考えたことがある方は多いと思うが、まさにそんな想像を極限まで膨らませた結果が本作である。

物語の序盤から、不可解な現象が頻発する。物理実験は毎回違った結果を出すようになり、物理学者たちが立て続けに自殺。突然、眼前にカウントダウンの数字が現れ、何をしても消えることがない。謎に導かれるままページをめくり、気がつけば、空間的にも時間的にも壮大なスケールで描かれる『三体』の世界に絡め取られている。

人類の愚かさを突きつけてくる小説でもあり、読んでいて苦しくなる場面は多い。良薬は口に苦し。読者に対し、思考のきっかけを多分に与えてくれる良書といえる。

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ミステリー小説は日常のスパイス

冒頭に書いた通り、“ミステリー小説”は懐が深い言葉だ。

ここに挙げた小説の中には、一般的にミステリーというジャンルに位置づけられていないものもあるかもしれない。けれども、それらの物語が、心をぞくぞくさせる謎に満ちていることは確かだ。

今回ご紹介した小説が、皆さんの日常のスパイスになれば幸いだ。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。