アイデア出しや企画の叩き台作りをするとき、皆さんはどんなアイテムを使っているだろうか?デジタル技術が発達してから、オンラインで使えるマインドマップツールやホワイトボート、デジタルノートなど便利なアイテムも増えた。
それでもわたしは、アナログな紙とペン、それも万年筆を使って書いている。一般的に値段が高く、お手入れも面倒なイメージのある万年筆。それでも使い続けたい理由がある。
わたしのこと
- 年齢:30代
- 性別:女
- 職業:ライター
- ライフスタイル:誰かと同居、インドア派、リモートワーク/左利き、手書きが好き
手書きの相棒は万年筆
わたしは、ガジェット好きなのでiPadを使ったデジタルノートも試してみたが、結局ノートと万年筆の組み合わせに戻ってきてしまった。理由は手書きする行為そのものが好きであることと、万年筆という道具が筆記欲を満たしてくれるからだ。
今回は、万年筆にスポットを当てて、わたしが思う魅力を3つ紹介したいと思う。
1. 万年筆ならではの機能的なペン先
万年筆と聞いて思い浮かべるのは、特徴的な大きいペン先ではないだろうか。万年筆のペン先は見た目の高級感だけではなく、機能的にも優れているのだ。
ペン先によって筆記線や書き味が変わる
万年筆のペン先をよく見ると、球体のような金属が付いている。これはペンポイントと呼ばれるもので、書くときに直接紙に触れる部分だ。万年筆の製造工程でペンポイントを研いて調整すると、筆記線や書き味が変わってくる。
一般的な機能のボールペンやサインペンの場合、筆記線の違いといえば太字・細字などの線の太さぐらいである。万年筆の場合は、線の太さに加えて、縦線と横線で線の太さが変わるペン先や筆文字のように書けるペン先など、変わった筆記線のものもあるのだ。
ペン先に使われている素材の硬さも書き心地に関わってくる。通常、鉄ペンと呼ばれる、スチールを使ったペン先は弾力性が高くしっかりした書き心地に。金ペンと呼ばれる、金と銅を使った合金のペン先は柔軟性が高くしなやかな書き心地になる。また、金の含有量が多ければより柔らかな書き心地になるのだ。
これだけ筆記線や書き味の種類があれば、今までしっくりくる筆記具がなかった人でも、自分に合ったものを見つけられるのではないだろうか。
インクが途切れない
わたしは箸を持つのもペンを持つのも左手を使う左利き。実は、左利きの場合、ボールペンが使いづらい傾向にある。
右利きが横画を書くとき、左から右に向かって引くように書く引き書きになるが、左利きが文字を書くとき、横画は左から右に向かって押すように書く押し書きになる。押し書きの場合、ボールペンのペン先に付いたボールが、スムーズに回転しないときがあるのだ。そのため、インクが途切れたりかすれたりしてしまう。
アイデア出しをするために、ノートに思いつくままに書き込んだとき、ボールペンのインクが途切れることはストレスだ。インクが途切れるたびに、思考も途切れてしまう。
万年筆の場合、毛細管現象と気液交換作用という仕組みを使って、ペン先が紙に触れた瞬間にインクが流れるように出てくる。筆圧もいらないため、連続して書いても手が疲れにくいのも良いところ。万年筆は、ノートにすらすらと自分の思考を書き出せて心地がいい。
2. 周辺アイテム選びを楽しめる
「周辺アイテム選びを楽しめる」のも万年筆ならではの魅力だろう。万年筆は、紙質を受け止める繊細なペン先を使っているため、周辺のアイテムによって書き心地が大きく変わるのだ。また、アイテム選びそのものも、シーンに合わせて服を選ぶような感覚で楽しい。
インク選び
新品の万年筆を使い始めるとき、まずはインクの色を選ぶ。万年筆インクの種類は思った以上にあるのだ。参考までに、2022年5月9日に株式会社ヘリテージが発行した、『INK CATALOG 万年筆インクを楽しむ本』では、国内外の2500色超ものインクが収録されている。そして、現在進行形で新たな色のインクが発売されているのだ。
だからこそ、インクと一口に言ってもメーカーによってさまざまな色がある。例えば、青いインクなら、深海のように深い青から晴天の澄んだ空のように淡い青など、バリエーションが豊富だ。そのなかから、自分にしっくりくる色を選ぶのが楽しい。
わたしは、たくさんあるインクのなかから、パイロットの万年筆用インキ『iroshizuku-色彩雫(いろしずく)』シリーズの『月夜』という色を長年愛用している。夜の暗い水面が、月に照らされた部分だけ明るい緑がかった青色になる。そんな情緒ある『月夜』という色が、わたしのひらめきを呼び起こしてくれるのだ。
用紙選び
万年筆と用紙の相性も大事なポイントだ。用紙によってペン先が滑るようにスルスルとした書き心地になったり、少し引っ掛かりのあるカリカリとした書き心地になったりする。どちらかの書き心地が正解、というわけではない。そのときの気分によって用紙を使い分けるのだ。
わたしの場合、スルスルとした書き心地の紙は、書くことそのものを楽しむために使っている。美しい文字を書き写す書写や、デザインされた文字を書くハンドレタリングなど、何も考えずに集中するときは、滑るように万年筆を走らせたいのだ。
スルスルとした書き心地を味わいたいときは、ステーショナリーブランド、神戸派計画のオリジナルペーパー『GRAPHILO(グラフィーロ)』を選ぶ。氷の上を滑るようなペン運びと、インクの濃淡がくっきり出る紙は、書くときも書いた後も楽しめる。
カリカリとした書き心地の紙は、よく考えて書くときに使いたい。インクが途切れることなく書きつつも、ペン先にかすかに感じるカリカリとした質感が、自分の頭を刺激してくれるような気がするのだ。
わたしが今、アイデア出しに使っているノートは、マルマンの『スパイラルノート ベーシック』。地に足がついたような程よい筆記感があり、ガシガシ書いても裏面のインク抜けがほとんどない。
3. 良いものが書けそうという高揚感
万年筆は、決して手頃な価格ではない。ペン先に使われている素材で値段が変わってくるが、スチールを使った安価なモデルでも税込440円からなので、ボールペンと比較すると値段は高い。ペン先に金を使ったものとなると、1万円以上するのだ。その上、近年の原材料価格や光熱費の上昇のため、万年筆も値上げの傾向にある。
それでもわたしは、万年筆を使ったことのない人に、一度試筆してみてほしいと思っている。キャップをくるくると開ける行為は「書くぞ」という気持ちを高めてくれる。キャップから出てきた美しいペン先は職人の手作業によって作られた特別な1本だ。握ったときの程よい重量感、紙に心地よく走るペン先の疾走感…そんな体験は他の筆記具では味わえない。
「自分だけのために、いいものを使っている」という事実は、「何か良いものが書けるかも」という高揚感にも繋がると思う。わたしはアイデアに詰まったときには、思いつくまま万年筆で書き続ける。「こんなスラスラ書ける万年筆を使っているのだから、良いアイデアが浮かぶに違いないよ」と、自分におまじないをかけるのだ。
万年筆は自分の身体の一部である
毎日使う筆記具だからこそ、こだわりを持って選びたい。自身から生み出すアイデアを記す道具、ということは自分の身体の一部と考えても良いものなのだから。だからこそ、わたしの書き方に寄り添ってくれる万年筆を愛してやまないのだろう。