金沢・加賀、ちょっと岐阜・白川郷へ。久しぶりの母娘旅は、なんだか楽しかった。

旅といえば、もっぱらひとりで出かけることが多い私だが、残暑厳しい9月、久しぶりに娘とふたり旅に出かけた。行き先は金沢と岐阜。珍道中になるかと思いきや、娘の成長とわれの老いを実感した、ちょっと不思議な旅だった。

女子旅ですもの、贅沢したっていいじゃない

グランクラスに乗ってみた

久しぶりの母娘旅に高揚感を抑えきれず、金沢を目指して乗車した列車は北陸新幹線「かがやき」グランクラス。約2時間20分のリュクスな時間は“旅の移動手段にお金はかけない”が信条の私にとって、少し、いや、かなり贅沢な選択だったけれど、乗り心地、サービスともに素晴らしく、もっと乗っていたいと思えたほど。

ひとりならまず、選択しないグランクラス。娘のおかげで贅沢を満喫することができた。

星野リゾート「界 加賀」に泊まってみた

金沢の宿は星野リゾートが運営する「界 加賀」。1624年の創業以来、多くの文化人を迎えてきた老舗旅館「白銀屋(しろがねや)」の歴史を受け継ぐとともに、新しい感性が息づく温泉旅館である。

前身である「白銀屋」は、陶芸家で美食家の北大路魯山人の定宿だったことでも有名。 トラベルライブラリーには、北大路魯山人ゆかりの作品が展示されている。

大浴場と総湯と呼ばれる共同浴場、さらに部屋の露天風呂と、温泉三昧を楽しんだ母娘。
夕食は九谷焼や山中塗の器に美しく盛り付けされた懐石料理を堪能した。

離れて暮らす親子の会話はもっぱら家族のこと。こちらが忘れていたことも鮮明に覚えている娘は、子どもの頃の家族旅行のことや、交わした会話をまるで昨日のことのように話す。
調子に乗ってワインと日本酒を飲みすぎた私に苦言を呈する口調が、私に良く似ていた。

食べ歩きは、女同士が楽しい

食いしん坊一家のわが家は、食に貪欲である。金沢駅を降り立って、まず向かったのが金沢市民の台所「近江町市場」だ。地元の人や観光客で賑わう市場には、新鮮な魚介をはじめ、野菜やスイーツの専門店が軒を連ね、活気にあふれている。

何はともあれ腹ごしらえと、向かったのは「いきいき亭」。器から溢れんばかりの魚介の迫力たるやもう!炙ったのどぐろ、毛蟹、マグロに甘エビ。初老の胃袋にはなかなかヘビーだったが、娘はペロリ。いやはや、若さってすごい。

白川郷・今昔ものがたり

金沢市内からレンタカーを走らせ、向かったのはおとなり岐阜県にある世界遺産・白川郷。
旅のルートからは少し外れているけれど、わざわざ向かったのには理由がある。

30年前、白川郷を訪れた母。撮影は亡き父。

約30年前、私の両親が国内旅行で一番思い出に残っている場所、それが白川郷なのだ。
孫である娘は、長い闘病生活を送っていた父の姿しか知らない。
30年の時を経て、父と同じ景色を見た娘は何を思ったのだろう。
父の面影がある娘の横顔を見ていると、この場所に父がいるような、不思議な気分になった。

旅では素直になれる

どちらかというとドライな関係のわたしたち親子は、普段、かしこまった話は照れもあってか、ほとんどしない。私自身がそうだったように、ある程度の年齢を過ぎると、母と娘の関係は“女同士”になる。家族がゆえに、発する言葉がキツくなり、甘えがあるゆえに、傷つけあうこともある。
数年前、娘が人生の岐路に立ったとき、私は心配のあまり、背中を押すことができなかった。それを今でも後悔していることを謝ることができたのは、ふたり旅のおかげかもしれない。

驚いたのは、娘がわたしたち夫婦の老後を考えていたこと。ひとりっ子の娘は、彼女なりに思うものがあるのだろう。お墓のことを言われたときはさすがに面食らった。

「死んだ人のことよりも、生きている人のことを考えなさい」

これは私の父が残した言葉。闘病生活を支える母と私に向けたやさしさだった。
この言葉をそのまま娘に伝えると、
「それならパパとママの遺灰はハワイの海にでもまくね」と、笑った。
ちなみに、われわれ夫婦はハワイにはなんの思い入れもない。
こんなシュールな冗談を言えるあたり、まごうことなき、私の娘である。

身の丈に合わない贅沢もしたけれど、娘とふたりっきりで旅に出たことで、娘の成長を実感することができた。同時に、まだまだ子どもだな、と思うことも多々あり。

家族と向き合う時間が必要なときは、旅に出よう。
そのときは、娘の決断を信じて、背中を押せる母でありたい。

おだりょうこ

猫と旅、音楽と映画で形成されたライター&エディター。旅欲が止まらない旅ジャンキー。雑誌編集、テレビ局勤務を経てフリーランスに。料理は作るの食べるのも得意だったりする。