毎日続かない日記を書いて、日々の小さなことに目を向ける

日記を書きたいのに続かない。

日記を毎日つけることに憧れるのに、それができないのが嫌で日記を敬遠してきた。3行日記のように、3行だけ書けばいいとか、出来事だけでいい、できたことを書くとか、いろいろとやってみたけれど、どれも続かないし、なんだかしっくりこない。少しでも意識的に書きだすというのは、とてもいいことだとは思うのだけれど、私には合わなかった。

毎日ではないけれど、自分の思考をすっきりさせたかったり、日々の気づきをノートに書くことはあり、それはとても大事な時間だと思っている。けれども、余裕がないと机に向かいノートを広げて書くことが難しく感じることもあって、書きたいのに後回しというように悪循環に陥ってしまうことも…。それこそ毎日書くというより、書きたいと思ったタイミングに書ける環境を用意してあげることの方が大事なように思った。

はたまた時間はあって書こうとして机に向かっているときは書けないのに、本当に書きたいと思うときには時間がない…。なんでこうも書くことは難しいのだろう。

「むら」のある日記ほどいい日記

そんなときに出会った、くどうれいんさんの著書『日記の練習』。そこには日記は続けるものではないと書かれていて、目をまあるくしてしまった。くどうさんは一文字も書かない日が数週間続くこともあれば、数千字書く日もあって、その「むら」があるほどいい日記だという。

思いもよらないくどうさんの日記論に驚きつつも、腑に落ちるような感覚があった。書けないときは書けないものだし、書きたいという気持ちがわいてくるのなら、書けばいい。純粋な気持ちを大切にしたらいいんだよ、言ってくれているように思った。

それに日々はあっという間に過ぎていってしまう。過ぎていってしまうからこそ、こぼれ落ちてしまいそうなものをすくいあげて、何気ない日を何気ないまま書けたらいいなと思った。日記は無理して書くものでもないし、書けないと思っていることも日記の1ページになりうる、そんな気がした。

さらには、日記を書きたいという気持ちを持ち続けているだけで日記は上出来、とまでくどうさんは言ってくれる。なんて優しいんだろう…。日記に書くことは、誰かから聞かれて答えられるようなことではなく、くだらないことを書くのだそう。そして書くことでどんどん生活がおもしろくなるという。

そこまで言ってくれるなら、私もむらのある日記を目指して書いてみようという気になった。くどうさんみたいにどんな小さなことにもおもしろさの欠片を見つけることはまだまだ難しいけれど、毎日をおもしろがってみたい。

本書にはくどうさんの日々の日記が月ごとに書かれていて、月の最後にはひと月の振り返りのような、そこから派生した日記やエッセイのような「日記の本番」も書かれている。

くどうさんにならい、日記の練習をはじめてみることにした。

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日記をはじめる

超個人的なものになってしまうが、書いた日記をここに載せてみる。

10月12日

仕事でブックフェアのお手伝いに行った。文具や本を扱うお店として出店していた。その場にいるだけで自然と周りの人と会話が弾むから楽しい。お隣の出店者さんはひとり出版社さんで、すてきな装丁のZINEがたくさんあって、1冊購入した。しばらくしてお隣さんがうれしそうに、買った古本と世界地図に見える色鉛筆セットを見せてくれて、私もうれしかった。

10月14日

友達によると、アプリで出会ってから3回ほどリアルな場で会えば、そろそろお付き合いしましょうか、という流れになるらしい。これはアプリのセオリー。アプリをしたことがない私は何もかもが新鮮だ。まだまだ相手のことを何もわからないのに付き合うから、友達は今までその人と5回会ったらしいが、会いに行くたびに緊張して、今から誰に会うんだっけ?どんな人に会うんだっけ?(どんな顔だっけ?笑)となるらしい。それなのに愛が深まっていくこともあるんだから、本当にすごい。

10月15日

今年初の金木犀の香りを感じた日は、私の誕生日
季節が変わるように、自分の中の季節も変わっていく

10月17日

最近言葉がすらすら書けない。どれも自分の言葉じゃないみたい。

10月19日

引越し。前の職場の人が引越しそばを食べなきゃね!というから、そうだったと思い立ち、近くのお蕎麦屋さんでそばを食べた。

10月21日

家族が引越しのお手伝いに来てくれていたけれど、帰ってしまった。ひとけがなくなった部屋はちょっとさみしい。

10月22日

「ただいま」と言ってみたけれど、まだ自分の家の実感がわかなくて、不思議な感じ。洗濯機の音、お湯を沸かす音、冷蔵庫の音、チンチン電車の音。まだ慣れない部屋から聞こえてくる生活音。新しい暮らしがはじまったんだなと思った。

10月24日

仕事において、「悩め悩め!」と悩むことを後押ししてくれるのは、本当にありがたいことだ。いかに時間をかけずにいいパフォーマンスができるかが求められるけれど、それよりも大切なことが、ときにはあるのだと思う。

10月25日

引越ししてから、慣れない家事と仕事の両立は思った以上に大変で、明日が休みということもあって、ほっとして、いつのまにか眠っていた。記憶にない。

10月26日

みんな働いて家のことをして、家族がいたら自分のことだけじゃないことをして、本当にすごいなと今になって気づく。この1週間、自炊して、お弁当も作って、気づいたら掃除して。こうやって暮らしを整えることを、少し大切にできて、うれしかった。

10月27日

食べ物を保管するほうろうのプラスチックの蓋を電子レンジであたためすぎて、小さく変形させてしまい、使いものにならなくなった。でもなぜか捨てられない。失敗することも生活をする醍醐味かもしれない。危険が及ばない程度に。

10月28日

冷蔵庫にレディーボーデンのビッグサイズがあるとうれしい。アイスをスプーンですくって大きめのボウルによそう。そこに気分でラムレーズン、柿、シャインマスカット、チョコなどをぽーんと放り入れるだけで、幸せが満ちる。

10月30日

簡単でいいから自分でご飯を作る。たまにはス―パーで食べたいものを買ってくる。ごちそうさまをしたあと、「おいしい」と心からの声が漏れた。自分のために、ちょっとでも手間をかけること。毎日を健やかに生きるこつなのかも。

もっと小さいことをおもしろく

これらの日記は、起こった日に書いたものもあれば、あとあと振り返ってみて書いたものもある。ノートに書いたものもあれば、スマホのメモに書いたり、自分の脳内に刻んでおいて、だいぶあとになって書いたものもある。

日記はこうであるべきというのを取っ払って書いてみたら、とても楽しかった。この1ヶ月もっとたくさんの出来事があって、日記として残したものはごく一部であり断片的だ。けれども、この意味がありそうでなさそうなもの、すぐに忘れてしまいそうなこと、そういうものを大切にとっておきたいと思った。

そういった小さなことの積み重ねで日々が続いていると感じることができた。つい、できたことや、結果ばかりに目がいきがちだけれど、そこに辿りつくまでのもっと小さな、でも大切なものが、たくさんあると気づいた。

小さくてささやかなことに自然と目が向くようになったら、きっとさらに毎日が豊かになる。もっともっと小さくていい。それを楽しんでおもしろがることができたらいいなと思った。

何かすごいことや大きなことが起きなくても、なだらかな日々がどれだけすばらしいか、日記を通じて実感している。

毎日続かない日記を、これからも続けていきたいと思う。

はしもとかほ

「誰かの人生のものがたりを紡ぎたい」をテーマに、インタビューライターとして活動中。趣味は京都散策、読書、写真、食、アートに触れること。いつか書評を書くのが夢。