2024年11月7日、株式会社しかくいまるは、ライター・編集者・発注者を対象としたオフラインイベントを開催しました。2部構成の各セッションを振り返ります。
イベント開催の背景
株式会社しかくいまるは、オウンドメディアの運用支援をはじめ、WEBコンテンツ・クリエイティブ制作に従事しています。戦略設計・編集・制作ディレクションの立場でプロジェクトに参画することが多く、受注側・発注側の両面を担っています。
代表の伏見自身も長く業界に携わっていて、時代の移り変わりを目で見て肌で感じてきた一人。その中でWEBメディアなどに掲載される記事コンテンツの質の低下を感じる場面が増えていると言います。
業界全体の傾向としても、下記のようにいくつかの理由が考えられます。
- クラウドソーシングの普及などによる低報酬案件の増加
- 検索順位至上主義による表面的なコンテンツの増加
- ライターの経験や専門知識の不足
- ライターを短期的・一時的なキャリアパスと認識する人の増加
- 編集プロセス簡略化によるフィードバック・学習機会の減少
記事を作るだけであればAIがこなしてくれる時代ですが、在宅で気軽に名乗れる職業という側面もあり、ライター人口は劇的に増えています。
そんな時代をライターとして生き残るにはどのようなスキルが必要なのでしょうか?
このような時代の移ろいを背景にライター、編集者、オウンドメディア担当のみなさんと「質の高いアウトプット」について考えるイベントを開催することにしました。
第1部:現代のライターとしての適正なスキルとは
伏見 AIも台頭し、ライター人口が爆増しているこの時代に生き残るには、みなさんそれぞれの個性・特性を強みにして伸ばしていく必要があります。さまざまな着眼点があると思いますが、今回はこの3つに注目してみました。
- リサーチ力と提案力
- 文章構成力と企画力
- セルフブランディング力
まず、リサーチ力と提案力を養いましょう。クライアントの業界や商材に詳しいことはもちろん重要ですが、ある意味そこはクライアントに適わないところでもあります。
ライターはまず何よりも常に読者に向き合わなくてはいけません。クライアント側ばかりを意識しすぎると視野が狭く、読者のためにならない記事を作ってしまうことがあります。その優位性をどう伝えればターゲットに響くのかを考えることが結果的にクライアントのためになる。市場や読者のニーズを見極めてリサーチして、独自性のある提案ができるといいですね。
読者・ユーザーにわかりやすく伝わりやすい構成を組み立てるスキルはマストと考えます。読者の関心を惹きつける表現をどこに入れるのか、タイトル・リード・見出しを磨き、エピソードはどう盛り込むか、読者が離脱しない工夫と目的を達成させる構成を設計しなければなりません。
企画が決まった段階で執筆からオファーされるケースも増えているかもしれませんが、企画力があればさらなる差別化になりますし、仕事の幅も拡がります。
さらに、フリーランスの方であればセルフブランディングも重要になりますね。得意分野や専門性を明確にして、実績を意識的に作り、わかりやすく打ち出すといいですね。加えて、その強みを的確に伝えられる自己プレゼンテーション能力も必要です。
この3つの観点を掛け合わせながら、自分の特性を伸ばせるとよいのではと思います。
そう、何より大切なのは、“自分を知ること”なんですよね。どこを伸ばしたらより自分が輝けるか、どんな環境に身を置けばいいのかを考え、自分自身としっかり向き合いましょう。ぜひ、自分はどんな適性・特性・個性があるのかを考えてください。
自分と向き合って質の高いアウトプットを心がけ、業界の水準をみんなで上げていきましょう!
第2部:発注者と考える「価値あるコンテンツを作るための役割」
第2部では、2名のゲストをお呼びして、それぞれの視点でライターのみなさんにメッセージをいただきました。
野島 光太郎
ウイングアーク1st株式会社 メディア事業室 室長 兼 データのじかん・情シスのじかん・UpdataTV責任者
広告代理店にてデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業や外資系IT企業での事業開発を経て、現在、ウイングアーク1st株式会社にて「データのじかん」「情シスのじかん」「UpdataTV」の責任者を務める。上智大学プロフェッショナル・スタディーズ、情報経営イノベーション専門職大学、SSH(スーパーサイエンススクール)などで講師。近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
飯田 りえ
編集者/ライター
女性誌&MOOK編集者を経て、フリーランスの編集ライターに。WEBメディアを中心に女性の働き方や生き方、子育てや教育、社会課題など、生活に近い分野で企画・編集・制作ディレクション・執筆を担当し、多くのコンテンツを手がける(主な執筆先は集英社「LEE WEB」「LAXIC」など)。現在はオウンドメディアやインナーメディアの編集者として企業案件を中心に活動中。
野島 僕はライター・編集者出身ではありません。ライターさん・編集者のスキルや知識には日々大変助けられています。個人的には、AIが出てきたことにより、ライター・編集者のスキルの価値が上がると思っています。今後、安い仕事が減るのではないでしょうか。一緒にメディアを作り上げるという立場からお話しできればと思います。
飯田 わたしは雑誌全盛期に編集者になりたいと思い、業界に飛び込みました。女性誌やムック本などを作ってきましたが、その当時は業界全体がかなり過酷な働き方をしていました。今では言えないような職場環境といえるかもしれません(笑)。とても大変でしたが、現場に出向いて苦労して得た情報を人に伝える喜びを学んだのもそのときですね。子どもができて一旦会社を辞めて、フリーランスライターとして育児関連や働く女性のメディアに企画を提案して記事を執筆してきました。子どもが大きくなってからは、企業のインハウス編集者をしています。
伏見 ありがとうございます。弊社が発注をするうえで気をつけているのは、仕事が楽しいと思えるチームづくりです。チームのコンディションがコンテンツのアウトプットに影響するのを何度も見てきました。編集もライターもみんながチームであり、ポジティブな感情で楽しく作り上げる雰囲気だと企画もアウトプットも質が高くなると信じています。クオリティを追求すると数値的な結果もついてくる。そのため、クオリティの追求が“クライアントの期待を超える仕事”につながると思っています。
おふたりはどのように考えていますか?
野島 メディア運用を推進する側としては、ライターさんが期待を超えてくれた!と感じられるのは“Unknown Unknows”を提案してくれたときだと思っています。
知識を分類すると、①意識していて知っているもの、②意識しているけど知らないもの、③知らないということを知っていること、④知らないことを知らないことの4つに分けられます。編集者やメディアの運営者にとっての①は、すでに知っているので新規性もなくライターさんに依頼しても仕方がない。②については自覚があるけど知らないから、知識のあるライターさんに依頼しやすい。ここまでは期待を超えたとは言えないと思います。
僕にとっての“期待を超える仕事”は、知らないことに気づかせてくれたり、知らせてくれることです。それをしてくれるライターさんと知り合うことは資産です。また、最近はAIの台頭が著しいですが、AIが扱うのはあくまでも一般論であり、正規分布の中央値に該当するもの。なので、調べても出てこないこと、現場に出向かなければわからないような外れ値、誰も言語化していないことをライターさんに記事にして欲しい。これができるライターさんとは、どんなに文章が稚拙でもお付き合いを続けたいですね。言語化されていないものを表現することに、ライターさんの価値があると思います。
伏見 野島さんが言うように、変化球を持っているのは強みですね。頼りにしたくなる!飯田さんは編集の立場から思うことはありますか?
飯田 ライターから編集に戻ってよかったと思うのは、いろんなライターさんの取材現場を見られることですね。こういう聞き方があるんだ、そういう繋ぎ方をするんだ、と勉強になります。
発注する視点で考えると、好奇心旺盛な人に仕事を依頼したいですね。好奇心と熱量があると、取材の現場にも原稿にもそれが現れるんです。取材現場で「あなたのことが知りたい」という態度だと、インタビュイーの発言にも力が入ります。その結果上がってきた原稿は、読者として読んでも純粋にとても楽しいんですよね。また、編集の企画意図を汲んで原稿を仕上げてくれる方もありがたいですね。取材だけでは足りない部分をリサーチして補完して書いてくれる方には、継続的に依頼したいと思えます。
伏見 ありがとうございます。取材した内容をどう原稿に落とし込むかはライターの腕の見せどころですね。取材先で言質を取った内容を書きつつも、インタビュイーの発言を咀嚼して表現を変えることもときには必要です。
本イベントの事前アンケートにも少しお答えしておきます。「ライターからステップアップして編集者になりたい」というような記述をしてくれた方が数名いました。ここで理解していただきたいのは、「編集」はライターの上位職ではないということです。役割がまったく違いますからね。
編集者はコンテンツ全体のテーマや方向性を決めますし、俯瞰する能力が求められます。文章精度を上げるだけでなく足りない視点を補って、ライターさんの原稿をさらにブラッシュアップする役割も担います。逆にライターさんは心に響く文章を、言葉を磨いて磨いてターゲットに届けることに集中します。第1部とつながりますが、編集者とライターの職能の違いを踏まえたうえで、自分の特性にあったポジションを見つけて、活躍できる方が増えるといいなーと思っています!
野島 ライターさんって0から1を作れるんですけど、これって普通の人はできないんですよ。なので、その貴重なスキルをどう活かすかを考えるといいと思いますね。今までの人生での経験も含めて、自分にしかできないことが何かを突き詰めてみてください。
ワークショップ 〜普段と違う役割を体験してみよう〜
ワークショップの時間では、参加者全員が企業のオウンドメディア担当という設定で架空オウンドメディアのターゲット設定とテーマ設定、ライターに向けた発注依頼書の作成をしました。作成後は隣の席の人と見せ合い、発注側・ライター側それぞれの意見を交換し、野島さん、飯田さん、伏見からアドバイスを受けました。いつもと違う目線で物事を考えることで、自分の適性が少し見えたのではないでしょうか。
参加者のみなさんが前のめりに真剣に取り組んでくれた様子が印象的で、充実した時間となりました。
まとめ
参加してくださった方たちからは、以下のような声をいただきました。
- 「内容が濃く、時間があっという間に過ぎました」
- 「自分自身がやりたいこと(企画から入りたい)やぼんやり悩んでいたクライアントよりもユーザー視点に近いと自信を持ってもいいものか…などが言語化されてスッキリしました!」
- 「自分のライターとしての立ち位置やこれからを深く考えるきっかけになりました」
ご来場いただいたみなさんにとって、少しでも持って帰るものがあれば幸いです。いっしょに業界を盛り上げていきましょう!ご参加ありがとうございました。