「ひとり美術館巡り」は、もっと自由で、わからないぐらいがちょうどいい

ひとりでの美術館巡りは、お出かけのメインイベントとしてもすばらしいが、隙間時間でさえとても楽しい時間にしてくれる。

展示の内容やボリュームにもよるが、1時間〜2時間ほどで他者の作った世界に没入でき、現実世界から少し離れることができる。そのため、私は人と会う約束までの隙間時間に美術館巡りをしたりするのが好きだ。

もし代わりに映画を観るとすると、映画館から途中で出ない限り、決められた時間そこにいる必要がある。けれどもひとり美術館巡りは、ゆっくり鑑賞したり、(いいか悪いかは別にして)少し足早に鑑賞したり、自分のペースを大切にしながら鑑賞できる。

このように、どのように楽しむかは、自身に委ねられていることが魅力だと思う。そんなひとり美術館巡りの奥深さについて紹介したい。

わたしのこと

  • 年齢:31歳
  • 性別:女性
  • 職業:ライター
  • ライフスタイル:一人暮らし、インドア派、出社、朝型、自炊派

ひとり美術館巡りのための情報収集

どの美術館に行こうかとリサーチするところから、ひとり美術館巡りははじまっている。美術館に行くのが好きなので、美術館の情報が自然と入ってくる環境を整えている。

SNSなどで美術館の展示を紹介しているメディアをフォローしたり、こまめにサイトをチェックしたりすると、情報をキャッチするのにかなり役立つ。

おすすめメディア

それぞれのサイト内で開催場所や開催時期、興味のあるジャンルなどを絞って検索をすれば、好みの展示を探すことができる

展覧会レポートなどの記事もあり、それを読むことでより深く展示内容について知ることができる。またレポートだと、書き手の個人的な感想も書かれているため、興味深く読むことができ、候補を絞る参考になる。

有名画家の展示から新進気鋭の作家の展示など、ジャンルも規模もさまざま。あまり難しく考えず、直観で決めてみるのもひとつ。

ジャンルのキーワード

  • 現代アート
  • インスタレーション
  • 絵画
  • 彫刻
  • アートフェア、芸術祭
  • アニメーション

また、何度か美術館巡りをすると、自分好みの展示をしている美術館がなんとなくわかってくるので、直接美術館のHPにアクセスをして情報を調べることもある。

マイルールで楽しむひとり美術館巡り

美術館の楽しみ方は、意外と人によって異なるものなのではないかと思う。

  • すべての作品をじっくりと観て、キャプションまで読み込む
  • 作品はすべて観るけれど、キャプションは気になったところだけを読む
  • 気になった作品をじっくりと観て、それ以外はさらっと観る
  • 音声ガイドつきであれば、それも聞いてさらに理解を深める
  • まず作品を観て、その後にキャプションを読む。もしくはその逆

上記のように、無意識のうちにマイルールをもとに鑑賞しているように思う。だからこそ、自分のペースで鑑賞できると、満足度が高い。

気になる作品や作品ひとつあたりの鑑賞時間は、思っている以上に個人差があり、一人ひとり違うと思う。だからこそ他者の存在を気にせず、作品の鑑賞に没頭できるのは、ひとり美術館巡りの醍醐味ではないだろうか。

ひとりだと、疑問や感想を気軽に話せる相手はいないけれど、自分のなかで咀嚼し、後日、友達にこんな展覧会を観てよかったよと感想を伝えたり、おすすめをしたりすることで、さらに展覧会の理解が深まることもある。

マイルールを大切にしたり、ときにはそのルールを破ってみたり。いろんな関り方を楽しめるのが、美術館のおもしろいところだ。

それでも、ひとり美術館巡りを楽しめない人は、気負いすぎないこと

美術館で鑑賞するとき、作者は何を考えてこの作品をつくったのだろうと考えて過ごす時間は、とても有意義だと思う。

一方で答えがわからないものを鑑賞することに、苦手意識を持っている人もいるのではないだろうか。美術館巡りを積極的に楽しめないと感じる人に、楽しみ方のポイントを伝えたい

  • 全部しっかり鑑賞しなければ、とあまり気負い過ぎない。気になるものだけを目で追ってみる
  • 自分の好きな作品を見つける
  • 先ほどあげたマイルールのように、鑑賞方法のアレンジを楽しむ
  • 何かひとつでも感想を持ってみる
  • わからないも立派な感想のひとつ

真面目さゆえに、壁にぶつかってしまって、楽しむことが難しいと感じてしまっているのではないだろうか。肩の力を抜いて、リラックスして鑑賞をはじめてみてほしい。

思考を深めてくれた写真展

安井仲治 「僕の大切な写真」会場にて

ここからは、私がこれまで行った美術館での展示をどのように捉え、どのような感想をもったのかについて振り返りたい。

安井仲治 「僕の大切な写真」
兵庫県立美術館

この展示を知ったのは、同じ写真教室に通っていた人から紹介してもらったのがきっかけだ。安井仲治は、今から100年前の激動の時代を生きた写真家。時代に敏感に反応しながら世界と向き合い続けた。この瞬間にカメラを向けていいのだろうか、と自問する安井の葛藤なども展示から見受けられた。

安井仲治 「僕の大切な写真」会場風景

私は写真が趣味なこともあり、一つひとつの作品に観入ってしまって、2時間以上はそこにいた。閉館時間になってしまったので退出したけれど、もう少し味わいたかった。

この展示から感じたことは、「何を撮るのか、撮らないのか」という視点だった。取捨選択のなかに、その人らしさが現れる。また撮る選択をすることは、責任も伴うことだなあ、などと考えていた。

そして、写真展で感じたことと、最近読んだ写真に関する本のなかに書かれていたことと通じる部分があって、自分のなかでつながった感じがした。

展示の作品のなかに、以下の言葉があった。

要するに「僕はこんなに美しいものを見たよ」と報告すればいいのである 

上手いとか下手とかは関係ない。難しいことを考えず、心を動かして写真を撮ればいいんだと気づかせてくれた。

この展示が、自分の内側にあった不明確な答えや考えに光を当ててくれたような気がした。写真の向き合い方への迷いや不安を取り除いてくれた。こんな瞬間が訪れるとき、私は幸せを感じる。

理解の及ばない世界

ホー・ツーニェン 「ホー・ツーニェン エージェントのA」
東京現代美術館

東京に行くとき、隙間時間につい美術館巡りをしたくなって、検索していると気になる展示を見つけた。

ホー・ツーニェンはシンガポール生まれのアーティストだ。東南アジアの歴史的な出来事、思想、文化などを独自の視点で切り込んでいき、それを映像やヴィデオ・インスタレーション、パフォーマンスで表現している。

まず、東南アジアに関する展示だった。東南アジアに関連するAからZまでのキーワードとイメージが、アルゴリズムによって組み合わされた映像が映し出される。それらが意味していたのは、東南アジアの多層性、複数性だったようだ。けれども、私は全然理解できなかった。

そうなると、つい作品に対して心を閉ざしてしまったり、自分の教養のなさに嘆きたくなるけれど、もっと堂々としていいと思う。

誰かと一緒に鑑賞していると、自分の無知さに余計にショックを受けてしまうこともあるかもしれないが、ひとりで淡々と降参! ということがあっていいと思う。意味不明さやわからなさに向き合うことも、貴重な体験なのではないだろうか。

違和感が快感に

サエボーグ 「I WAS MADE FOR LOVING YOU」
東京現代美術館

サエボーグは、テラックス製の着ぐるみを製作し、作者自らそれを着用してパフォーマンスをするアーティストだ。作者以外が着ぐるみをきてパフォーマンスをすることもある。以前にサエボーグの豚の着ぐるみの作品を写真で見たことがあって、ずっと気になっていた。

今回の作品は犬だった。展示会場のなかに入ると巨大なドールハウスが目に入る。かわいいなと思って眺めていたのだけれど、よく見ると巨大なフンやハエなどがあり、しだいに異様な感じがした。奥には円形の台座のうえに犬(ボディスーツを纏ったパフォーマー)が登場。

この犬は目から涙を流しており、かわいいような切ないような感じで、この存在にどんな感情を向けていいのか正直わからなかった。けれどもこの不気味さに目が離せなくなる。

違和感や異質さに戸惑いながら、ひとり静かに対峙する瞬間も案外おもしろい。

ひとり美術館巡りの心得

ここで、ひとり美術館巡りで得た心得をまとめてみた。

1.「何かを得ようとしなくてもいい」
2.「理解できないことを楽しむ」
3.「わからないままでもOK」

ひとり美術館巡りを終えると、カフェに入って余韻に浸ることがある。アーティストの考え方がわかるようなインタビュー記事を読んでみたり、展示を観た人はどんな感想を持ったのかを調べてみたり。

それは作品の意図を理解しなければというより、展示を観て作品や作者のパワーに触発されて、もっとアーティストのことを知りたい、という好奇心からだ。さらには作者に関連する本を読んだり、ドキュメンタリーなどを見たりすることができたらいいなと思っている。

ひとり美術館巡りを振り返ってみたら、とにかく自由なことに気づいた。新しい発見や学びがあって心がときめいたり、大好きな作品に出合って人生が変わることもあるかもしれない。

一方で、何かを得ようとしすぎなくていいのだと思った。例えば、友達との会話で何か得ようとして話を聞くというより、友達との何気ない会話や友達との時間そのものを楽しんでいるはずだ。それと同じで美術館巡りもそれ自体が、楽しいものであるはず。

わからないことはわからないままでいい。理解できないことは理解できないままでいい。のびのびと自由に、自分のペースで楽しむ。そうすれば、美術館巡りの時間が、かけがえのないなものになるにちがいない。

はしもとかほ

「誰かの人生のものがたりを紡ぎたい」をテーマに、インタビューライターとして活動中。趣味は京都散策、読書、写真、食、アートに触れること。いつか書評を書くのが夢。