文字を書くとき“あえてのつけペン”で日常をエンタメ化する

つけペンで文字を書いているところ。

わたしは文字を書くときに、つけペンを使うときがある。

文字を書く道具といえばボールペンやシャープペンシル、万年筆を思い浮かべる人が多いだろう。これらはインクや芯が内蔵されており、ワンアクションで書き出せる。

そんな便利な筆記具があるなかで、ペン先にインクをつけながら書く、つけペンをあえて使うことには、どんな意味があるのだろうか。わたしは「書く」ことをもっと楽しみたいとき、つけペンを使うことで新たな視点が生まれると思うのだ。

わたしのこと

  • 年齢:30代
  • 性別:女
  • 職業:ライター
  • ライフスタイル:誰かと同居、インドア派、リモートワーク、朝型、自炊派

字を書くのにわざわざ“つけペン”?

普段使いの筆記具は便利なものが多い。ノック式のボールペンなら片手で素早く書き出せ、ノックしなくても芯が出続けるシャープペンもある。それなのに、いちいちインク瓶のふたを開け、ペン先を浸し、余分なインクを落としてから書く“つけペン”を使う理由は何なのだろうか。

つけペンを使うことは、一見すると面倒に思えるかもしれない。しかし、わたしにとってはそのひと手間こそが、書くことを特別なものにしてくれる。

インクをつける動作が入ることで、自然と「何を書こうか」と考える時間が生まれ、ひとつひとつの文字を丁寧につづるようになる。アイデアが思い浮かばないとき、いつもと違う道具を使うことで、いつもと違う発想が生まれるときもあった。

手間がかかるからこそ、書く時間が豊かになる。つけペンはただの筆記具ではなく、書くことそのものを楽しむための道具なのだ。

つけペンの魅力5つ

つけペンは手に取ってみないと良さが伝わりづらいアイテム。わたしが実際に使って感じた、つけペンの魅力を5つ紹介したい。

1. さまざまなインクが使える

万年筆インク3本
左:BlueSheep フェルメール×ミッフィー インク © Mercis bv(顔料インク)
中:プラチナ万年筆 クラシックインク #15 カシスブラック(古典インク)
右:KANEIRI 【東北L-ink】 きらめくみやぎ 光のページェント(シマー(ラメ)入りインク)

つけペンの最大の魅力は、インクを自由に選べることだ。

例えば、ボールペンの場合、替え芯のカラーバリエーションの範囲でインク色を選ぶ。万年筆の場合、インク色を変えるときにペン先を一晩水につけるなど、洗浄の工程が多い。しかし、つけペンなら水で洗い流すだけで簡単にインクを変えられるので、気軽にさまざまなインクを試せる。

また、特殊なインクにも挑戦しやすい。万年筆は、ペン先に細い溝があり、毛細管現象によってインクを供給する仕組みになっている。そのため、以下のようなインクは詰まりやすく、取り扱いが難しい。

  • 顔料インク:耐水性があり裏抜けしにくい。はっきりとした発色が魅力。乾燥すると万年筆内部で固まりやすいため、こまめな手入れが必要。
  • 古典インク:鉄分を含み、時間が経つと酸化して色が変化する性質がある。耐水性・耐光性に優れている。長期間ステンレスペン先の万年筆に入れると腐食の恐れあり。
  • シマー(ラメ)入りインク:細かな粒子が入っており、キラキラとした線がかける。万年筆の場合、粒子がペン先に詰まりやすい。また、粒子は沈殿しやすく均等に出にくい場合がある。

これらのインクは、万年筆では扱いが難しいが、つけペンならインク詰まりを気にせず楽しめる。つけペンは、ペン先の溝にインクを吸わせるシンプルな構造なので、詰まりが起きにくいのだ。

わたしは、気分やシチュエーションに合わせてインクを選ぶのが好きだ。朝の静かな時間には鮮やかなブルー、夜の落ち着いた時間には深いボルドー。ノートに記す言葉が、インクの色によって変わる感覚がある。文字を書くことそのものに、新たな意味が生まれるのだ。

自分の気分や好みに合った色を探す時間も、つけペンを使う楽しさのひとつである。

2. ペン先についたインクが好き

3本分のつけペンのペン先にインクを含ませたところ。

つけペンはペン先を直接インク瓶に浸すアイテム。そのため、ペン先にインクがついた様子が見られる。

インクを吸い上げるための溝にはしっかりとインクが入り、ペン先周りにはうっすらとインクがまとわりつく。ペン先に生まれるグラデーションは、インク瓶に浸すたびに毎回違う姿を見せてくれる。その様子がわたしはたまらなく好きなのだ。

手を動かして使う道具だからこそ見える偶然の色合いが見ていて楽しく、つけペンを使っているという実感を持たせてくれる。

3.つけペンならではの筆記線

5種類のペン先で波線を引いた様子。
上から、タチカワ T-3 Gペン、スピードボールC2L、ブラウゼ オーナメンタルニブ、カキモリ Metal nibセーラー万年筆 hocoro

一定の太さの線が書けるボールペンやサインペン。一方で、つけペンは、さまざまな筆記線が書ける。ペン先の種類やインクの量、筆圧のかけ方によって、同じ文字でもまったく異なる印象に仕上がる。

例えば、Gペンのように柔らかいペン先を使えば、力を抜いた部分は繊細な細線になり、筆圧をかけると勢いのある太線が生まれる。この変化が、まるで筆文字のような味わいを文字に与えてくれる。

硬いペン先は均一な細い線を描きやすく、精巧なイラストにも適している。使用するペン先を変えるだけで書き味が変わるのも、つけペンの楽しさのひとつだ。

また、インクの濃淡も筆記線に個性を加える要素となる。インクの含み具合やペン先の角度によって、線の一部が濃くなったり薄くなったりする。

この偶然性が、デジタルの均一な線にはない味わいを生む。書くたびに異なる表情を見せる筆記線は、まさにアナログならではの魅力といえる。

つけペンを使うことで、普段何気なく書いている文字にも表情が生まれる。単なる筆記ではなく、自分の手の動きによって生み出されるアートのような感覚を楽しめるのだ。

4. ペン先を洗っている様子がきれい

インクがついたペン先をコップに入れた様子。

つけペンは、ペン先を洗う瞬間にも注目したい。コップに水を張り、インクがついたペン先をゆっくり入れる。すると、まるで花が咲いたかのように、インクが水面に広がっていく。淡い色から濃い色へと変化するグラデーションや、渦を巻くインクの動きは、見ているだけで心が癒やされる。

この現象は、インクによって異なる表情を見せてくれる。染料インクは透明感のある色の広がりを作り出す。ラメ入りのインクを使えば、水の中で細かい粒子がキラキラと輝き、まるで魔法のような光景が広がる。

インクがゆっくりと溶けていく様子を眺めていると、自然と気持ちが落ち着いてくる。書くことに集中したあとのクールダウンとして、ペン先を洗う時間はリラックス効果をもたらしてくれるのだ。ペン先を洗う動作が、筆記の終わりを演出する儀式のように感じられるのも、つけペンならではの魅力だろう。

5. アナログな動作が新鮮

つけペンをインク瓶に浸している様子。

普段は、スマートフォンやパソコンでスケジュールや文書を管理するので、紙とペンを使って文字を書かなくなった人もいるだろう。そんな時代だからこそ、あえてアナログなつけペンを使うことに新鮮さを感じる。

つけペンは、ペン先にインクをつけては書き、またつけては書くという動作を繰り返す。そのひと手間が、文字を書くことを単なる作業から特別な体験へと変えてくれる。インクの減り具合を確認しながら、筆圧や角度を調整して書くことで、書き手の個性がにじみ出るのも魅力のひとつだ。

また、つけペンを使う時間には、独特の集中力が生まれる。デジタル機器の通知に邪魔されることなく、ペンと紙に向き合い、ただひたすらに文字をつづる。

その静かなひとときが、忙しい日常の中で貴重なリラックスタイムとなるのだ。つけペンを使うことは、単なる筆記ではなく、自分自身と向き合う時間を持つことにもつながる。

つけペンはいつもの文字を特別にしてくれる

わざわざペン先にインクをつけたり、ペン先を洗ったり…このひと手間が“文字を書く”という動作をエンタメ化してくれるのだと思う。

つけペンならではの筆記線やインクの選択肢の多さは、いつもの文字を特別に見せてくれる。紙の上におこす意識の変化が、つけペンの魅力なのだ。つけペンを手に取ることで、文字を書く時間が特別なものになる。その楽しさを、ぜひ一度体験してみてほしい。

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杉浦百香

ライター。女性向けや企業メディアのSEO・コラム・レビュー記事を執筆。なかでも、日用品を中心としたモノ系記事を多く担当している。左利きの文具好き。