株式会社しかくいまる代表・当メディア「Sense of…」編集長の伏見が、ゲストの感性と偏愛にフォーカスする連載企画「感性と偏愛の交わるところ」がスタートしました。第1回のゲストは、Sense of…のキービジュアルの作者であるイラストレーターの山中玲奈さんです。
独立10年目の今、「自分の力が試されるシーン」を楽しんでいるという山中さんに、創作と仕事の違い、求められる感性が変化したターニングポイント、貫いてきた偏愛まで、たっぷり語っていただきました。

山中 玲奈
イラストレーター
東京都在住。CM制作、出版/デザイン、印刷会社勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。広告や雑誌など幅広く活動中。幼い頃から美術教師である母の傍で絵画に親しみ、独学で絵画を描き現在に至る。独自の視点から描かれる軽妙なタッチと鮮やかな色彩が特徴。
HP : https://www.renax.tokyo/
Instagram : https://www.instagram.com/ymnkrenax/

伏見 香代子
Sense of…編集長/株式会社しかくいまる代表取締役
WEB黎明期と言われる2000 年頃から食品、飲料、ペット、美容などのライフスタイル領域を中心にWEBマーケティングに従事。大手クライア ント企業のブランドサイト、キャンペーンプロモーション、オウンドメディアなどの企画、編集、制作ディレクションを担当し、多くのコンテンツ開発、戦略プランニングを手掛けてきた。そのほか、美容大型イベントやオフ会、ユーザー向けセミナーなどのイベ ント企画・運営の実績多数。ユーザー視点のコミュニケーションプランニングを得意とする。集英社「MAQUIA ONLINE 」編集部、インフォバーン、TABI LABO 、Legoliss を経て、2020 年「合同会社しかくいまる」設立。2024年1月、株式会社化。
わたしはイラストレーター。アーティストじゃない
伏見 第1回目のゲストにようこそ!もう付き合いも長くなってきたけど、こうやって仕事をお願いし続けて、対談するような機会までもてて感慨深いです。
山中さんは、もともと絵を描くことが好きでイラストレーターになったの?
山中 好きなことっていうより、得意なことを仕事にした感じですね。学校で合唱コンクールがあると、ピアノが得意な子が伴奏をするじゃないですか。そんな感じで、わたしは学校に貼るポスターの絵を頼まれたりすることがあって。あのころみたいに得意なことで頼られたり、貢献できたりする仕事がしたいなと思って、イラストレーターになりました。
伏見 得意だから好きになるってこともあるよね。仕事として絵を描くようになって、絵に対する意識は変わったりした?
山中 わたしの場合は仕事として描く絵と、創作として描く絵を最初から分けていたから、そんなに変化はなかったかな。プロのイラストレーターとしては、クライアントから求められる絵を描くし、修正もきっちり対応します。でも、創作活動では、そのときの自分が描きたいものを、描きたいように描いているので、そこでバランスをとってきた感じです。

伏見 クリエイティブ職をアーティストと混同して、すごく特別視する人もいるけど、そんなこともないよね。依頼されたものをプロとして完成させるのは、どの仕事も同じだと思うし。
山中 そうですね。中には、流行にとらわれずに自分のスタイルを確立している、アーティストタイプのイラストレーターさんもいますけど。わたしは案件に必要だと思えば流行のタッチや色合いもどんどん取り入れるし、依頼内容に合わせて描いて、出して、直して…って感じのクリエイタータイプです。
だからこそ「創作活動と仕事を分けてきてよかったな」と、今になってすごく思います!個展のような個人としての発表の場では、とにかく自由に、純粋に表現を楽しんでます。

伏見 個展も毎回テーマがガラッと変わるよね!あれはどうやって決めてるの?
山中 そのときやりたいことや、興味のあることを表現するときもありますし、開催する場所の雰囲気に合わせたりもするので、作品に一貫性がないんですよね。
だから、何かの媒体を通じてわたしを知ってくださった方には「見慣れている絵とちょっと違う」と戸惑わせてしまうかもしれないな…と思うこともあります。でも、個展は来てくださった方と直接お話しできるチャンスでもあるので、作品の背景とか、込めた思いとか、そういうものをお伝えする時間としても大切にしていきたいです!
“求められる感性”にチューニングする
山中 イラストレーターの仕事って「媒体のニーズやターゲットに合っているか」が大きなポイントになると思うんですよね。ビジュアルって、直感的に伝わるものなので。たとえば20代のころなら、感じるままに描いたものを「若い人って、こういうふうに世界を見ているんだね」って、面白がってもらえることもあって、20代の視点そのものが魅力というか、強みになっていました。
でもだんだん、ターゲットの年齢を外れていくわけですよ。そうなると、自分が感性や個性だと思っていたものが通用しなくなるんです。ありのままの自分で描けていたものが、ターゲットに合わせて感性をチューニングしていかないと描けなくなる。そのあたりから、自分の職業・イラストレーターとしての「プロ味(ぷろみ)」が出てきたな!って感じてます。
伏見 いいね!プロ味。そこからが本番だよね!消耗品として扱われることのジレンマとか、感性が通用しなくなる怖さみたいなものって、どうやって乗り越えた?
山中 わたしはやり続けて向き合い続けてるうちに、気づいたら過ぎ去ってた気がする!仕事のフェーズが変わるのを感じたり、求められるテーマが少し変わってきたり、シビアだな~と思うこともあるけど、そういう変化も楽しんじゃえ!と思えるようになったし。
あるとき、それまで続いていたレギュラーの仕事がふっと落ち着いたタイミングがあったんです。そのときに入ってきたのが、歴史書籍の挿絵のご依頼でした。それまでは、わりとトレンドをあつかう媒体の仕事が多かったので、まったく違う世界にちょっと戸惑ったりもしたんですけど、あのタイミングで新しいジャンルに挑戦できたのは本当に運が良かったと思ってます。

伏見 おー、うんうん。俳優さんでもあるよね。いわゆるヒーロー・ヒロイン役ばかりをやってきた人が母親役とか悪女役に挑戦してたりね。年齢を重ねて対応できないことも出てくるけど、できることもちゃんと増えていくね。
山中 そうですね。「やったことないけど、とりあえずやってみよう!」っていう姿勢になれるかは、大事だと思います。
伏見 若手のイラストレーターさんの作品を見て、何か感じることはあったりする?
山中 今活躍されているイラストレーターさんたちの作品を見るのは、本当に刺激的だし、純粋に楽しいです!発想の面白さとか発信の仕方とか、学ぶこともたくさんありますし。でも同時に、長いスパンで見ると、自分も含めて「10年後、20年後にどんな形の仕事で世の中と関わっているんだろう」って考えてしまうこともあって。そういう面では、どこかデスゲーム的な要素を感じてしまいます(笑)。
伏見 キャー!!デスゲーム!!!
プロ味を出し続けていくには、その孤独とジレンマにいかに耐えて、いかに乗り越えるかだね。
山中 そう。もう、やり続ける、向き合い続けるしかないって考えてます。シビアだな…って落ち込むこともなくはないけど、楽しみがいのある職業だとも思っているし。自分の力が試されるシーンは続いていくってことですね(笑)。
自分がペルソナの感性×偏愛ヒストリー

伏見 キービジュアルのイラストはさ、「いつもの仕事のトンマナじゃなくて、山中さんの創作活動の作風に寄せて自由に描いてほしい」とお願いしたけど、すぐに描きたいイメージは浮かんだ?ちょっと変わった依頼だったと思うんだけど。
山中 最初にパッと浮かんだのは、これまでの人生の紆余曲折を見開きでドーンと載せたヒストリー本みたいな構図でした。大きなキャンバスをイメージして「このあたりにこれを入れて、ここにはこれ」って、自分の設計図、構成図みたいな感じにしたいなと思って。
伏見 パッと見ではわかりにくいパーツもあるけど、噴火していたり、何かを指さしていたり、喜怒哀楽の感情のような表現をしてくれたのかな~!?と思ってたんだけど…合ってる(笑)?
山中 たしかにそうかも!創作的に描いた絵の説明って、自分でもむずかしくて(笑)。
でも、仕事を含めてここまで自分がやってきたこと、自分の感性を形づくっているものたち…というのを表現できたかな~とは思ってます!

伏見 「Sense of…」のタグラインである「あなたの感性は、あなたのもの」を、自分をペルソナにして表現してくれた感じなのかな。「わたしの感性は、わたしのもの」として。爆発して怒ってもいいし、猫とゆるっとしてもいいし、それを否定することは誰もできないもんね。
山中 そうですね。感性で生まれるものって何だろうなって考えた先に、出てきたものたち。あとは全体的なやわらかさと色の加減も、自分の好きな感じで表現してますね。そこまで狙ったつもりはなかったんだけど、わたしの感性とか偏愛とかが詰まっている気がします。
感性なんて、特別なものじゃない
伏見 山中さんは、感性ってどんなものだと思う?世の中的にすごく特別なものだと思われがちというか、「自分にはそんなものはない」と思っている人も多い気がして。
山中 人より何が好きとか、どういうものが食べたいとか、どういう状況が心地いいとか…。そういう感覚が、感性なのかなと思います。自分を細かく解析して気づくこと、というか。
伏見 そうそう!そんな感じでいいと思うの。ピザをみんなで選んでいるときに「わたしはマルゲリータがいいな」って思うのも感性のひとつ。

山中 わたしは選びがちな色とか、キャラクターにさせがちな動きがあって、悪い言い方をするとパターン化されてるなって感じるときがあるんですよ。そういうとき、自分がつまらなくなっていく気がして「ちょっと嫌だな」って思うんですけど、自分の感性とか、大事にしてることの輪郭を捉えられてきたのかなって思うと悪くない気もして。

伏見 わー、すごくいいね!考えて意識したうえでやってるか、意識しないでただ流されてるかって、大きな違いだといつも思うの。パターン化も、言い換えればその人らしさとか個性につながるものってことだね。
山中 ちゃんと考えて、自分が心地いいと思えるなら、流されてみるのもアリですよね。
伏見 この「Sense of…」はね、いろいろな人が流してしまうような感性の片鱗を“わざわざ”言語化するようにしてるんだよね。それが、自分について考えるきっかけとか、知られざる感性に気づくきっかけになったらいいなーって思ってる。
偏愛対象は「水彩カラー」と「脚」
伏見 いろいろなイラスト・作品を描いてきたなかで「これだけは変わらないな」と思うことはある?
山中 好きな色は変わらないですね!水色やピンクの、水彩っぽい感じの色がずっと好きです。でも「令和っぽくはないのかもな」と思って、最近は仕事では使わなくなりました。
伏見 たしかに最近はアウトラインが太めで、パキッとしたイラストが増えたよね。ネオ感とかレトロっぽいタッチとか。
山中 そういう時代の変化にはこれからも合わせていくつもりなんですけど、何が変わっても多分ずっと描き続けてるだろうなーと思うものは、“脚”です。わたしが男性だったら絶対脚フェチだと思う!女性の脚のラインが好きなんですよー!!

伏見 シリーズで描いてる『毛(け)ちゃん』とかスカートのシリーズも、脚を強調したキャラクターだよね。ポーズで性格の違いまで見えてくる気がする。
山中 手より脚のほうが、個性が出せるような気がするんですよね。ちょっと“はしたない”というか、人間臭さが感じられるポーズが好きです。

山中 これはananのストレッチ特集で描いた絵なんですけど、やっぱり脚が主役ですね。「もっと肉感的な絵を描けばいいのに」と言われたりもするんですけど、これくらいがわたし的にはちょうどいい感じ。
伏見 うん、性的にいやらしすぎないというか、ちょうどいいポップさで受け入れやすい気がするよ。

山中 これもananのイラストに似たタッチですけど、わたしのインスタ投稿を見た韓国のアパレルショップが声をかけてくれて、そのままデザインとして採用されたTシャツなんです。女性の脚は描いていて楽しいモチーフのひとつなので、仕事でも創作活動でも大切に描いていきたいと思っています。

これからも、感性のおもむくままに。
伏見 創作でも仕事でもいいんだけど、今いちばんやってみたいことって何かある?
山中 やってみたいというか、実際にやっていておもしろいと思っていることが、ChatGPTで自分のキャラを3D化する実験!AIはイラストレーターの強敵になりそうでおそろしかったんだけど、まずは相手を知ろうと思って、友だちになる努力をしてみたんですよ(笑)。そうしたら、意外とやり取りがおもしろくて。どうやったら思うように3D化してくれるのか、いろいろ考えながら遊んでます。

伏見 3D化したキャラを3Dプリンターで実体化させて、着色して、個展に出すとかもいいね!
山中 ぜんぜん考えてなかったけど、言われてみたらおもしろそう!もしかしたら、そのうちやるかもしれないです。これからもそんな感じで、そのときの感性のおもむくままに創作活動も続けていきたいです。