秋といえば、“芸術の秋”。美術館にでも行こうかな、と考えている方はきっと少なくないだろう。私もこの秋は、いろいろな展示を巡る予定だ。
我が家には0歳の息子がいるので、常に子連れでの鑑賞になる。息子はすでに、数十回は美術館を訪れている。最初は「他のお客さんの迷惑になるのではないか」と心配していたが、今のところは問題なさそうだ。
この記事では、今までどのように息子と美術館を楽しんできたかを振り返ってみたいと思う。
小さな息子の美術館デビュー

数年前からアートに夢中になり、夫とふたりで、もしくはひとりで、毎週のように展覧会を巡っていた。そんな折に妊娠した。子どもが生まれたら、しばらくは美術館にいけなくなる。赤ちゃんは泣いてばかりいて、周りに迷惑をかけてしまうだろうから。そう思っていた。
ところが、生まれてみると、息子はすやすやと寝てばかりいた。外に連れ出しても、泣くことはほとんどない。もちろんこれは個人差がある話だけれど、少なくとも息子は、美術館に連れて行っても問題ないように思えた。
生後1ヶ月を過ぎたばかりの息子が初めて訪れた美術館は、六本木の東京ミッドタウン内にあるサントリー美術館だ。開催されていたのは、『没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ』展。そのときはベビーカーで美術館を回れるかどうかがわからなかったので、抱っこ紐で連れて行った。
しんと静まりかえった空間。美術館特有の空気感に眠気を誘われたのか、息子は入場するなり寝てしまった。せっかく来たのだからガレの作品を見てほしいな、と思いつつも、静かにしていてくれるのはありがたい。
次に訪れた府中市美術館では、ベビーカーを使用した。ベビーカーで行って苦労する美術館はさほど多くない。大抵、展示スペースは余裕を持って作られている。展示が複数のフロアにまたがっている場合もあるけれど、ほとんどの場合、エレベーターを使用できる。
ただし、私設の小さな美術館を訪れるときは、念のため公式サイトなどでベビーカーの利用ができるかを調べておいた方が安心だ。また、人気の企画展では、ベビーカーを押していると作品の近くに寄りにくいこともある。
子連れ美術館にも慣れてきて

生後4ヶ月ぐらいまで、息子は美術館に着くなり寝る、ということが多く、大人はじっくり鑑賞ができた。ところが、起きている時間が長くなってくると、問題が生じた。泣くことはほとんどないが、鑑賞中に「アーアーアー」などと大きな声で喋りだすのだ。
泣いているときは、展示室から出て落ち着くのを待つようにしているけれど、喋っているだけのときは少し迷う。作品を見ながら上機嫌で声を発しているので、そのまま見せ続けてあげたい気持ちもある。ただ、周りのお客さんの迷惑になっているのでは、と思うと気が咎める。
どうするのが正解なのか、という答えはまだ出ていないが、今のところは喋り始めたら鑑賞する速度を上げるぐらいにしている。あまりにも声が大きいときは、一度退出するか、おしゃぶりをくわえてもらうこともある。
そんなこともあって、人気の企画展に行く機会は減り、比較的空いている常設展によく行くようになった。常設展が1年間見放題になる、東京国立近代美術館と東京国立博物館の年間パスポートも購入した。
常設展には少し地味なイメージもあったが、奥野武範さんの『常設展へ行こう!』を読み、考えが変わった。いつ訪れてもお気に入りの名作を鑑賞することができるなんて、とても贅沢だ。
子連れで行きやすい美術館・展覧会

息子が寝ずに作品を見られるようになってくると、「子どもを連れて行きたい」という基準で展覧会を選ぶようにもなった。
たとえば、大型の作品、色鮮やかな作品を好んで見ているようなので、世田谷美術館で開催していた『横尾忠則 連画の河』展には4回も連れて行った。
子ども向けの要素がある展示もいい。ヒカリエホールの『レオ・レオーニの絵本づくり展』や、目黒区美術館の『○△□えほんのせかい+目黒区美術館トイコレクション 同時開催 クルト・ネフ生誕99年』展は、子どもも楽しめる内容になっていて、気楽に訪れることができた。
一方で、演出上、会場が暗くなっている展覧会や、映像作品が多い展覧会は、怖がって泣いてしまうことがあるため気をつけている。息子と私だけで行くのは避けて夫と一緒に行くようにすれば、どちらかが息子を見ておき、交代で鑑賞することができる。
美術館自体も、子連れで行きやすい場所とそうではない場所がある。気に入ってよく訪れているのは、東京都現代美術館だ。複数ある授乳室は広くきれいで、監視員の皆さんが息子に手を振ってくれるので居心地がいい。常設展は休日でも比較的空いていて、広々とした空間なのでベビーカーでもじっくり楽しめる。施設内にはレストラン『100本のスプーン』があり、離乳食の無料サービスが嬉しい。
今はまだ、ベビーカーに大人しく乗ってくれている息子だが、歩き出すようになると今のように美術館を巡るのも難しくなるかもしれない。子どもの成長に合わせて、私の美術館との付き合い方も、少しずつ変わっていくのだろう。
おわりに
まだ言葉も喋れないぐらい小さな息子が、じっと作品を見つめている。アートを“理解”する必要なんてない。だから、息子はもう立派にアートの鑑賞者である。
作品の前で、ふと息子が笑顔を見せる。「これが好きなんだね」なんて言いながら、私もじっと作品を見つめる。この子を連れてきてよかった。この子と一緒に見られてよかった。いつも、そう思う。




