年末年始、どこで過ごす?

年末年始って、なんだか特別な期間だ。漂うお祭り気分にそわそわして。1年を振り返ったり、次の年の目標を立てたり。

時間の流れはいつだって変わらないのに、人は暦を作り、その区切りに意味を持たせた。世界のあちこちで、人々が新年を祝う。

社会人になってから、さまざまな場所で年末年始を過ごした。海外を訪れたこともあれば、日本の雪山で過ごしたこともある。場所によって年越しの雰囲気はまったく違うけれど、どこであっても前向きな空気で満たされていた。

子どもの頃の年越し

子どもの頃、年末年始は今よりも特別だった。学校が休みになり、クリスマスから年越しに突入していく日々の高揚感。今日は何をしよう、明日は何をしようか、と胸をときめかせていた。

大晦日は、家族でデパートへ行った。予約していたおせちを受け取り、家に着くなりテレビをつける。新聞に掲載された紅白歌合戦のプログラムを何度も眺めて、どのタイミングでお風呂に入ろうか、などと真剣に悩んだものだった。

紅白歌合戦が終わると、父の希望でゆく年くる年を流す。当時は、退屈な番組だなと思いながらも一緒に見ていた。年越しの瞬間は、家族全員でジャンプをした記憶がある。

年が明けると、親はすぐに布団に入るのだけれど、私は朝まで寝ないことにしていた。この日だけは、なぜか徹夜をしても怒られなかった。明るくなるまで起きている、という行為自体が非日常的で楽しかった。何をして過ごしていたのかは忘れてしまったけれど、年賀状を配達するバイクの音を聞くなり、郵便受けにすっ飛んでいったことは今でも覚えている。

自分宛の年賀状は何枚届いているだろうかと、わくわくしながらはがきの仕分けをした時代を経て、1日中“あけおめメール”を送り続けていた年もあった。お正月はメールの送受信が滞る、なんて今では考えられないことだ。好きな人からのメールが届かなくて、センター問い合わせをひたすら繰り返したことが懐かしい。

海外での年越し

社会人になってからすぐに今の夫と付き合い始め、年末年始は二人で海外に行くようになった。

初めての海外での年越しは、シンガポールで経験した。確か、マリーナベイだったはずだ。屋外が人で埋め尽くされ、皆で花火を見た。私の知っている厳かな年越しとはまったく違う、陽気な雰囲気に驚いた。

タイのプーケットのホテルで年末年始を過ごしたこともある。大晦日の夜は“ガラディナー”と呼ばれる特別なディナーがホテルで用意されていたけれど、まだ若かった私たちには手が出ない価格だったので、ルームサービスを頼むことにした。ソファのある広いベランダから、プールサイドで開催されている年越しイベントをぼんやり眺めながらお酒を楽しんだ。ところが、年越しまであと2時間というところで、私が突然の吐き気に襲われてダウン。帰国まで体調を崩し、なかなか辛い思い出になった。

プーケット

翌年に行ったマレーシアのランカウイ島での年越しでは、ホテルのガラディナーに参加することにした。ホテルのビーチに並んだビュッフェの料理は、百種類以上あるのでは?という量で、これまでに体験したことがないぐらい贅沢なディナーだった。砂浜に用意されたテーブルで、バンドの演奏を聴き、夜の海を眺めながら食事をした。途中、突然のスコールによって食べ物も飲み物もびちゃびちゃになったのはいい思い出だ。

ランカウイ島

台湾は春節(旧正月)をお祝いするイメージがあったけれど、12月31日の夜には台北101の近くにたくさんの人が集まり、打ち上げられる花火を見ながら盛り上がった。あいにく天気は悪かったけれど、シンガポールの年越しを思いだす、陽気な夜だった。

台北

キャンプ地での年越し

コロナ禍などで海外に行けないときは、キャンプ場で新年を迎えることもあった。

よく訪れるキャンプ場は、標高1,400メートルの場所にある。そこで過ごした年末年始は印象深い。雪が積もり、どこまでも真っ白な世界はしんと静まり返っていて、年越しの賑やかさとも無縁だ。

5泊をキャンプ地で過ごそうと、大容量のバッテリーと、持ち運びができる太陽光パネルを用意した。それらと電気毛布があれば、氷点下の雪山でも数晩を過ごすことができる。日中は石油ストーブで暖を取る予定だったけれど、あまりにも寒すぎたので、2日目に山を降りてホームセンターで薪ストーブを買った。

年越しの瞬間、夫はテントの中で寝てしまっていた。今までで一番、お正月らしくないお正月だ。起きると日はだいぶ高くなっていて、積もった雪がきらきらと輝いていた。鳥のさえずりを聞きながら、雪と同じ色のお餅を焼いた。

最近の年越し

去年の大晦日は、妊娠中だったこともあり、久しぶりに家でゆっくり過ごした。紅白歌合戦を見ながら、テイクアウトした熊鍋を食べた。ゆく年くる年には、秋に訪れた香川のお寺が映っていた。この年になってようやく、この番組の面白さがわかった気がする。外から除夜の鐘が聞こえないかな、と耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。

翌日は、「来年は子どもと来たいね」なんて言いながら、近所の小さな神社で初詣をした。その後は、犬を連れて車で海まで出かけた。初日の出は見られなかったけれど、初日の入りを見た。よく晴れた、気持ちのいい日だった。

今年の年越しも、きっと家でのんびりと過ごすことになるだろう。でも、息子と過ごす初めての年越しは、今までとはまた違ったものになるだろう。息子を抱いて初詣に行く日が、今から楽しみだ。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。