京都と福岡、ふたつのアートの街

京都と福岡。このふたつの街は、私の心を掴んで離さない“アートの街”だ。

荘厳な神社仏閣が数多く残る京都では、頻繁にアートフェアや大規模な展覧会が開催されている。歴史ある建造物と現代アートの融合は、この街の魅力を最大限に活かした芸術表現だ。

“アジアの玄関口”とも言われる福岡には、アジア各国の美術作品を展示している福岡アジア美術館がある。また、アジアをコンセプトとしたアートフェアも毎年開催されている。

今回はアートを切り口に、この2都市の魅力を深堀りしていきたい。

過去と現在が交わる

2023年10月、久しぶりに京都へ向かった。目的は、“​​現代アートとコラボレーション”がテーマの国際的なアートフェア、Art Collaboration Kyoto(ACK)を訪れること。

アートフェアとは、出展ギャラリーがアーティストの作品を展示販売するイベントだ。ACKでは、海外ギャラリーと国内ギャラリーが協力し合って展示ブースを作り上げていたことが印象的だった。

翌年3月には、ARTISTS’ FAIR KYOTO(AFK)を訪れた。通常、アートフェアはギャラリーが主体のイベントだが、AFKではアーティストが自ら作品を出品・販売する。そのため、商業的な雰囲気はあまりなく、展覧会を見ているような感覚で楽しめた。

AFKの会場の一つが、清水寺だった。加藤泉さんや名和晃平さんなど、著名な現代アーティストたちの作品を歴史的な空間で鑑賞する体験は貴重だ。作品が過去にタイムスリップしたかのような、美しく、どこか不思議な光景だった。

国際的な写真祭であるKYOTOGRAPHIEを観てまわるため、5月にも京都へ向かった。メイン会場が12ヶ所もあり、1泊2日の滞在時間を丸々使ってようやく周りきれる、大規模な展覧会だ。写真好きにはたまらない。

会場は、京都新聞ビル地下1階の印刷工場跡や、廃校になった小学校を活用した京都芸術センターなど、魅力的なスポットばかりだ。活気の名残が感じられる場所を、壊してしまわずに未来へとつなげる。そこにあるのは、真新しい建造物には決して持ち得ない美しさだ。歴史に価値を見出す、京都のこころに触れられたような気がした。

京都は、美術館やギャラリーが多い街だ。気に入って何度も訪れているのは、嵐山で日本画を展示する福田美術館や、写真に特化した京都写真美術館、いつでも北大路魯山人の作品を観られる何必館・京都現代美術館など。

夜には美術館も閉館してしまうが、アートギャラリー併設のワインバーを見つけた。ギャラリーの奥にあるMON Wine Barでは、薪ストーブの火を眺めながら、食事とお酒を楽しむことができる。

社会に切り込むアートたち

“アジアの玄関口”とされている福岡には、アジア各国の美術作品を展示する美術館がある。1999年に開館した、福岡アジア美術館だ。

ここを訪れたことがきっかけで、私はアジアの近現代アートが持つ魅力に引き込まれていった。展示されている作品は、メッセージ性の強いものが多い。アジア各国のアーティストが、アートを通じて戦争や差別といった問題を糾弾している。「美しい」を超えた先にあるアートの意義が感じられる展示だった。

展示室の隣にあるアートカフェも圧巻だ。アジア各国の展覧会図録など、約1万冊の書籍を手に取ることができる。このスペースが家の近くにあったら、どんなにいいだろう。毎月、いや、毎週通っているはずだ。

なお、アジアアートについて詳しく知りたい方には、福岡アジア美術館の学芸員を務めてこられた黒田雷児さんの著書『終わりなき近代 アジア美術を歩く 2009-2014』をおすすめしたい。少し古い本ではあるが、アジア各国のアートを取り巻く状況が詳細に記されていて面白い。

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2023年9月には、アジアをコンセプトにしたアートフェア、ART FAIR ASIA FUKUOKA(AFAF)を観てまわるために福岡を訪れた。台湾、韓国、香港、ベトナム、マレーシア、フィリピンなど、アジアの各地からギャラリーが出展しており、福岡ならではの贅沢なアートフェアだった。

もちろん、福岡にあるのはアジアアートだけではない。福岡市美術館は、コレクションが好きでたびたび訪れている。所蔵されているアニッシュ・カプーアの『虚ろなる母』は、見るたびに心の動く作品だ。

遠方から訪れるのであれば、福岡を拠点に九州の美術館を周るのも楽しい。私はレンタカーを借りて佐賀県立九州陶磁文化館まで行ったが、陶磁器の美しさに触れながら、その歴史も学べる有意義な時間だった。

アートを通して街を見る

もともと、アートとは縁遠い人生を送ってきたのだが、あるとき突然その面白さに目覚めた。アートというレンズを通して街を眺めると、これまでとは違った景色が見えるのだ。

街中にひっそりと佇む美術館。何度も前を通り過ぎてきたパブリックアート。一つひとつが、確かに熱を発している。そのことに気づくと、街で暮らすことが楽しくなる。新しい街を、もっと訪れたくなる。

皆さんの住む街には、どんなアートがあるだろうか。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。