バスの予約が世界一苦手。それでも旅に出る理由【わたしの苦手なこと#️1】

みんなは当たり前にできているみたいだけど、なぜか抵抗があったり、うまくできなかったり。わざわざ人にいうほどではないけれど、なんとなく苦手なことはありませんか?

みんなにわかってもらえなくても、自分のモヤモヤした感覚を大事にしたい。苦手を克服するためではなく、いつから苦手なのか、どうして苦手なのか、「なんとなく」のかたちを探ってみる。エッセイのような、ひとりごとのような。あなたの隣にいるかもしれない誰かの「〇〇が苦手」な話を聞いてみました。

今回は、「高速バスの予約が世界一苦手」とつぶやく、旅好きな大学生・Kさんの話をお届けします。

Kさんのこと

  • 年齢:20代前半
  • 職業:大学4年生
  • ライフスタイル:ひとり暮らし、インドア派

明日のことさえわからないのに

バスの予約が、本当に苦手です。明日の自分がどうなっているかさえわからないのに、数週間・数ヶ月先の自分の行動を決めることに、どうしても抵抗があるんです。

先のことを見通すことが苦手なのかも。「いま」のことしか考えられないから、ついつい予約を先延ばしにしてしまうんです。

山口県・萩の海でみた夕焼け。目的を決めず、気ままに旅をすることが好き

予約が苦手だと気がついたのは、大学生になってからです。実家を出て、自由な時間が増えたので、たくさん旅をするようになりました。

でもそんなにお金があるわけではないから、移動手段はだいたい高速バスです。私は寝つきがよくて、バスの車内でもどこでも眠れるので、「旅向きな身体だなぁ」といつも思います。

とはいえ、バスは座席に限りがあるから、前もって予約をしないといけません。だけど、頭ではわかっていても、どうにも予約ページが開けない。「もしかしたら予定が変わるかも」「予約を間違えるかも」と、想像するだけで疲れてしまうんです。

そうして先延ばしにすればするほど、「このままじゃバスに乗れない」「満席になってしまったらどうしよう」とプレッシャーが増して、さらに先延ばしにしてしまって……。

なんとか重い腰を上げて予約ページを開いても、「日付を間違えたら?」「行き先はちゃんと合ってる?」と不安になり、何度も何度も確認をしているうちにタイムアウトになってしまって最初からやりなおさないといけなくなる、なんてことがこれまで何度もありました。

「苦手」と「下手」は違う?

予約が苦手でも、旅の予定が埋まったスケジュール帳を開くとわくわくする

でも、「苦手」と「下手」ってちがうのかもと最近考えていて。

私には弟がいるんですが、弟は予約が「下手」なんです。成田発と羽田発の飛行機を間違えて予約して大損をしたり、予約した寝台列車の発車時刻に間に合わなかったり、バス停を間違えて乗り過ごしたりと、あらゆる予約ミスや乗り逃しをしょっちゅうしています。

一方私は「予約が苦手」だと思っているから、何回も何回も予約内容を確認するし、出発場所を間違えないように事前に調べておくし、出発時間より余裕を持って着くようにしています。だからいつも予約通りにバスに乗れる。それなのに、「予約が苦手」と悩んでいます。

苦手な予約を乗り越えた先にある、知らない景色を夢見て

弟は、どんなにひどい間違いをしても、「ミスっちゃったわ〜」と笑い飛ばして、ケロッと別の交通手段を予約し直したり、行き先ごと変えてしまったりするんです。内心ショックを受けているのかもしれないけれど、ひょうひょうとして見える。どうして弟は予約が苦手にならないのか不思議です。

でも、私は私で、「予約が苦手」ってわかっているからこそ、バスに乗ることがいつも新鮮なんです。席に着いた時点で「乗れた!」と安心するし、バスが動き出すだけで感動してしまいます。

目的地に着いてバスを降りるときも、「長旅疲れたなぁ」とは思わなくて、「着いた〜!」とうれしい気持ちでバスを降りるんです。

「予約が苦手な私」を「みんなのもの」に

最近は、夜行バスに乗って山口県の萩に行きました。特に旅の目的はなく、ただその街を楽しんで帰ってこようと思い、約2週間滞在しました。

旅先ではいつもゲストハウスに泊まり、暮らすように旅をする

でも、行きのバスはなんとか予約したのに、帰りのバスの予約ができていなくて。私、先のことを考えるのが苦手なくせに心配性だから、帰る日を決めない旅はできないんです。

だから、滞在するゲストハウスに着いて早々、初対面のスタッフの方と、そこに居合わせた旅行者の女の子に「帰りのバスをまだ取っていないんです。バスの予約が苦手で」と話して、みんなに見守ってもらいながら予約をしました。ちょうど最後の一席だったんです! そこからは、安心して旅を楽しむことができました。

萩の名産である夏みかん。ゲストハウスのキッチンで皮をむき、みんなで分け合ってよく食べていた

予約は苦手だけど、だからといって「自分の代わりに誰かにやってもらおう」とは思わなくて、誰かと一緒にいる時に「今、予約します!」と宣言して予約をするようにしています。そうしているうちに、家族や友だちが「バス予約した?」と気にかけてくれるようになって。

「予約が下手な私」を、私ひとりで抱えるんじゃなくて、「みんなのもの」にさせてもらっている感覚です。「がんばるから、見守っていてね」って。

予定を決めずにふらふら旅をする旅人にはなれないし、ガチガチに予定を決めることもできない。中間地点にいる感じです。

それでも、新しいまちや人と出会うことが好きだし、遠くへ行くことが好き。この夏は大学生最後の夏休みだから、いろんなところに旅をする予定です。あぁ、もうそろそろ次の旅の予約をしないといけませんね。

風音

1995年生まれ。長野市在住のフリーライター。インタビュー記事、エッセイを主に執筆。水辺を眺めること、お散歩、読書と喫茶店が好き。