「わたしが昔使っていたカメラがエモい?」
2000年代〜2010年近辺に販売されていたオールドコンデジ、iPhone4〜6までの古いiPhone。これらがZ世代を中心に流行しているらしい。安価な素材で作られ、機能が単純なトイデジは、エモく撮れるカメラの一種として使われているようだ。
1988年生まれのわたしは、写真撮影が趣味だったのでどのカメラもリアルタイムで使っていた。ハードやソフトが古いデジカメとiPhone、機能を抑えたトイデジは、最新のデジカメに比べて使いにくい面も多いもの。なのに、あえて不便な方に逆行するブームを疑問に思うのだ。しかし、子ども用に買ったキッズデジカメを試しに使ってみたら、考えが変わった。
わたしのこと
- 年齢:30代
- 性別:女
- 職業:ライター
- ライフスタイル:誰かと同居、インドア派、リモートワーク/カメラが好き
不便なカメラが“エモい”?
Instagramで、#オールドコンデジ、TikTokでiPhone4〜6あたりの機種名やエモく撮れるカメラなどのキーワードを検索すると、確かに1990年代半ばから2010年代初頭に生まれたZ世代の方が投稿している。500〜1,000万画素ぐらいのカメラが好まれているようだ。ちなみに、執筆時点で最新機種のiPhone15の背面カメラは4,800万画素である。
ここで、改めてわたしのカメラ遍歴を振り返ってみたい。学生のとき、わたしが初めて手にしたカメラは使い捨てフィルムカメラの写ルンです。自分の好きな人や景色をひたすら撮るのはおもしろい。しかし、写す枚数に限りがあり、旅行でフィルムを温存していたら、あっという間に最終日だったこともあった。被写体がブレて現像されると損した気分になる。
社会人になってから、コンデジを買ってみる。写真がデータ化され、好きなだけ写真を撮り直しできるのが驚きだ。背面ディスプレイで撮った写真をすぐ確認できるのもありがたい。手ブレが起きても、すぐに撮り直せばいい。
その後、写真撮影が趣味になり一眼レフカメラを買ってみた。カメラの絞りやシャッタースピードを変えることを覚え、写真の表現が増えていく。本体やレンズに手ブレ機能がついたので、体勢を気にせず撮れるのもうれしい。わたしは、新しいカメラを手にいれるたびに「使いやすくなった!写りが良くなった!」と感動したものだ。
トイデジも使ったことがあり、フィルムカメラのようなノスタルジックな写りは魅力的だった。ただ、わたしはトイデジを買ったタイミングで、自身にとって初めてのスマートフォンiPhone4も手にしていた。
iPhone4のカメラアプリでトイカメラ風に加工するのにハマり、トイデジを使わなくなってしまったのである。なにより、スマートフォンのカメラで撮ったものが、写真データを移さずそのまま加工できるのが気軽で使いやすい。iPhone4の時点で画期的だった機能も、今では当たり前だ。最新機種は、もっとハイスペックなカメラと高機能な画像加工アプリを備えている。
だからこそ、わたしには生まれたときからハイスペックなスマートフォンカメラが身近である若い人たちが、あえてロースペックなカメラを手にする理由がよくわからない。画素数が低ければコントラストが潰れやすいので立体感のない写りになるし、手ブレ補正がなければ少しカメラが揺れただけでもブレた写真になる。
確かに低画素数の写真データは、フィルムカメラのような温かみを感じさせる写りに近いかもしれない。でも、後から加工で変えることもできる。なぜ、あえて不便な方を選ぶのだろう。
子どもにキッズデジカメを買ってみた
わたしには6歳になる子どもがいる。最近、大人が写真を撮る姿を見て、「自分で撮りたい!」と言うようになった。時々、わたしのデジカメやiPhoneを貸すときもあるが、ずっと持たせてはあげられない。
子どものカメラの取り扱いは危なっかしいところがあり、気をつけないと落として壊してしまいそうだ。最近のデジカメやスマートフォンは、気軽に買える価格ではないのが悩ましい。そこで、キッズデジカメをネットで買ってみることにした。
キッズデジカメとは、子どもが使いやすいように作られたデジカメ。スペックを見るとトイデジに近い印象だ。本体は、子どもの小さな手に合わせたコンパクトなサイズ。200万画素前後と画素数が低くシンプルな機能で構成されているため、比較的手に取りやすい価格で販売されている。
キッズデジカメが届いたら、子どもに使い方を教えるために試し撮りしてみた。
正解がわからないから、とにかくシャッターを切りまくる
早速キッズデジカメで撮ってみたが、思うような絵作りができない。というのも、一眼レフや高価格帯のデジカメは、シャッタースピードや絞りの設定、撮影シーンモードの選択ができる。だが、わたしの購入したキッズデジカメには、これらの設定はできない。
また、撮った写真をその場で確認できるプレビューモードがあるものの、通常のデジカメよりも背面ディスプレイが小さく解像度も低いので、実際の写りはパソコンなどに写真データを移してみないとわからない。
手ブレ補正機能はないので、気を抜くと写真がブレている。画素数が低いので画像ソフトの修正にも限界があった。わたしは、やっぱりロースペックなカメラを不便に感じてしまう。
少しだけ写真を撮って1枚も気に入るものがないのは嫌なので、とにかくシャッターを切りまくるという撮影スタイルになる。これがとても良かったのだ。
シンプルなカメラで、忘れていた写真の楽しさを思い出す
子どもに写真を撮ってもらうと、シャッターを切ることだけに集中している様子がわかる。自分が良いと思ったものを、そのまま写真に落とし込む。半開きの口と目だけど楽しそうに笑っているお母さんの顔、動物のスプリング遊具を覗き込んだ構図…人の自然な表情や思わぬ景色が撮れている。
“作品”を狙って撮った写真とは違う、好奇心に満ちた世界が写っている。そんな写真は、子どもだけの特権だと思っていたが、大人であるわたしがキッズデジカメを使っても同じような効果が得られた。
普段、わたしが写真を撮るときは、「背景をぼかしたいから、絞りはこのくらい…」「動きを出したいから、シャッタースピードを変えよう」と考えながら撮る。それが写真撮影の楽しみのひとつでもある。一方で、完璧な写真を目指すあまりシャッターが切れない、ということもあった。
写真を撮った後は「明るくしたらもっと表情が良く見えるかも」「色調補正したらもっと空がきれいになるかも」と、無限に修正を繰り返してしまう。そのせいで、元の写真の良さが失われるときもあった。
でも、キッズデジカメはそもそも機能がシンプルなので、設定を気にせず撮ることだけに集中できる。写真を撮った後の修正にも限界があるので、その場で撮影する時間を大事にするようになった。かわいい看板がある、きれいな花がある!わたしが好きな世界をそのまま写真に撮ればいいんだ。
最初にカメラを手にしたときは、設定なんて気にせず好きに撮っていたことを思い出す。
不自由なカメラだからこそ、愛おしい世界を切り取れる
最新のスマートフォンのカメラやデジカメは、細部まで鮮明に写る。設定を細かく変えることだってできる。画像ソフトを使えば、後からいくらでも修正が効く。AIで景色を足すことだってできる。逆に言えば、終わりが見えないのだ。
最低限の設定と修正しようのない画質であるキッズガメラの撮影は、まさに一期一会。その瞬間を切り取る写真の楽しさを思い出させてくれた。不自由なカメラだからこそ、自分が良いと思った景色にたくさんシャッターを切ってみる。その写真の中には愛おしい世界が広がっているはずだ。