「ピンクのジャンパーが着たい」
カタログを指差す無邪気な我が子の答えに、わたしは戸惑ってしまった。なぜなら、子どもの性別は男の子。今どき性別で好きな色を決めなくていい、と理解しているつもりだったが、実際我が子に言われるとびっくりしてしまう。結局、子どもの希望通りにピンクのジャンパーを購入した。
一年後、子どもから、「やっぱり青いジャンパーにする」と言われるのだが。理由を尋ねてみると、今は好きな色を自由に選べる移り変わりの時期なのだろうな、と深く考えさせられるのだ。
わたしのこと
- 年齢:30代
- 性別:女
- 職業:ライター
- ライフスタイル:誰かと同居、インドア派、リモートワーク/好きな色は白
かわいくておもしろいから、ピンクのジャンパーが着たい
子どもに自我が芽生えたら、子ども自身に好きな服を選ばせる。これが、わたしの子ども服選びの方針。
もちろん、被服費や服のお手入れで日々の生活を圧迫しないように、ある程度のルールはある。でも、子ども自身がお金を稼ぎ、服の手入れができるようになったら、本当の意味で服を自由に選んでほしいと願っている。わたし自身がモノ選びのこだわりが強いため、誰かにモノを勝手に選ばれるのが苦手なのだ。
だからこそ、キャラクターが大きく中央にプリントされたTシャツを選ぼうが、蛍光色のトレーナーを選ぼうが驚かないぞ、と心構えしていたはずだった。しかし、実際に「ピンクのジャンパーが着たい」と言われると戸惑うものなんだな、と自分の度量の狭さを実感させられるのだ。
ただ、8色展開のジャンパーから、あえてピンクを選んだのはなぜだろう?疑問に思ったので、子どもに聞いてみた。「かわいくて、おもしろいから!」3歳当時の語彙力で聞き出せたのはここまで。
これは親の勝手な憶測になってしまうが、一般的に男の子向け、女の子向け、とカテゴライズされた映像や本などのコンテンツを分け隔てなく鑑賞していたので、色も抵抗なく選んでいたのだろう。
3シーズン着られるジャンパーだったので、途中で心変わりされるともったいない。けれど、着なくなってしまったら、フリマアプリなどで手放せばいいか、とピンクのジャンパーを購入してみた。それから、わたしの心配をよそに、子どもは「かわいいでしょ?」と言わんばかりに、ピンクのジャンパーを羽織って保育園に通うのだった。
ピンクは女の子の色だから、青いジャンパーにする
保育園のクラスが上がったタイミングだったろうか。4歳になった子どもが「やっぱり青いジャンパーにする」と、わたしに訴えかけてきた。サイズ的には、まだピンクのジャンパーを着ていてほしいが、子どもの言い分も聞いてみよう。
「ピンクは女の子の色だってお友だちに笑われたの。だから青いジャンパーが着たい」わたしが恐れていた返事が返ってきた。やっぱり言われてしまったか。
保育園には状況を説明しておいた。保育士さんは、「子どもたちが、性別に差があるらしいということに気がついて、言語化してみたくなる発達段階なのだ」と答える。「性別を問わず好きなものを選んでいい」とも声がけしているのだそう。
とはいえ、子どもが不快な思いをしてまで、ピンクのジャンパーを着る必要はない。わたしは青いジャンパーを買い直す。ピンクのジャンパーはフリマアプリには出さず、クローゼットにしまうことにした。たぶん、子どもはピンクのジャンパーが嫌いになったわけではない。だから、「また着たくなったら教えてよ」と言ってみた。
男の子が持てるかわいい色は
それから、5歳になった子どものなかで「かっこいいから」と、恐竜ブームがやってきた。服も恐竜柄を好んで選ぶようになる。恐竜がプリントされた服は、もっぱら青みがかった色やアースカラー。なので、ピンクの服を着る機会はなくなっていった。
キーホルダー作りのワークショップに子どもと参加したときのことだ。クリア素材のキャンディバッグ状の袋に、好きな色のスパンコールやライトストーンをつめたら完成。主催の方は、たくさんの色の素材を用意していた。子どもは、迷わず次々と素材をつめていく。
できあがったのは、淡いパープルの素材を中心に選んだキーホルダーだ。最近では選ばないような色味だったので、わたしは思わず「何でその色にしたの?」と聞いていた。
「男の子が持てるかわいい色がパープル。ピンクだと笑われちゃう」
そうか、君の中のかわいい色はピンクやパープルで、やっぱりかわいい色も好きだったんだね。かっこいいもかわいいも好き。だけど、友だちと上手く付き合っていくために、外で見える部分はかっこいいの割合を増やしていたようなのだ。
ランドセルを決めた、けど…
早いもので子どもは今年6歳になった。来年小学生になるため、ランドセルを注文しなくてはいけない。最近のランドセルは、さまざまな色やデザインを取り扱っているため受注生産なのだ。地域差はあるものの、ゴールデンウィークからお盆休みあたりに注文して、年明けに受け取るのだそう。
なにしろランドセルの種類が多いので、子どもと何度か店舗に足を運び、選ばなくてはならない。わたしと夫は「自由に選んでいいよ」と、子どもに声がけするものの、選択肢が多すぎて悩んでいる。ランドセル選びには祖父母が参加しているときもあった。そのときに祖父は「やっぱり黒がいいんじゃない?」と孫に話しかける。
祖父母の時代は、基本的に男の子が黒、女の子が赤のランドセルを選ぶのが当たり前。わたしや夫の時代はランドセルの多色展開が始まったばかり。わたしの通っていた小学校では、同級生2名のみ黒・赤以外のランドセルという少数派の選択だった。
だからこそ、祖父が「男孫は黒いランドセルがいい」と声をかける気持ちもよくわかるのだ。自分自身も、自分の息子も黒いランドセルを選んできた。だから孫も黒いランドセルを選んでほしい、と考える。それは、祖父母の世代にとっては、息を吸って吐くような感覚と同じだ。“男女でカテゴライズしている”という感覚すらないだろう。
でも、今は通学路にはカラフルなランドセルを背負った子どもたちが登校している。子どもには、親や祖父母の意見をノイズとして受け取ってほしくない。実際、「ピンクは女の子の色」と言った友だちも、少なからず身近な大人の影響を受けたから言ってしまったのだろう、と思ったのだ。
散々悩んで、子どもは「かっこいい小学生っぽい」と、黒地にカラーラインが入ったランドセルを選んだ。ランドセルは高い買い物ということもあり、無難な色を選んでホッとしているわたしも、本当は別な色が良かったのではと考えるわたしもいる。わたしもまた、色やイメージにとらわれているのだ。
好きな色を好きなタイミングで選べるようになってほしい
子どもが選んだジャンパーや、キーホルダー、ランドセルを見て思う。子どもが好きな色を選べるようになるには、周りの大人の意識が変わらないといけない。子どもが経済的に自立するまでは、どうしても大人の判断を仰がなくてはいけない状況が多い。
色に限らず、これから我が子は、生きていくなかでたくさんの選択をする。そんなとき、周りの大人が、今の時代に合わないアドバイスで、惑わせてしまうこともあるだろう。そんなとき、わたしは、「好きな方を選んでいいよ」と背中を押せる人になりたい。そのためには、自分自身の常識を疑いながら、時代に合わせて考え方を柔軟に変えていきたい。
とりあえず今は、我が子がピンクや青でも、パープルや黒でも、好きな色を好きなタイミングで選べるように声をかけ続けるのだ。