行きたい場所がわからない?ならばポルトガルにお行きなさい。

“海外旅行に行こうと思うのだけれど、おすすめの国はどこ?”
なんてことをたまに聞かれる。

旅ジャンキーではあるものの、ひとりで安全な旅ができる場所にしか行かない(行けない)チキンハートな私は、日本人があまり行かないマイナーな国や秘境をバックパックひとつで訪ねたり、ドミトリーで異国のツーリストとごろ寝をしたりする、旅の達人ではない。

これまでの旅はイギリス、フランス、ドイツ、ベルギー、ポルトガル、オランダ、イタリア、スペイン、オーストリア、デンマーク、トルコ、ハンガリー、チェコ、クロアチアと、メジャーなヨーロッパの国々が主である。
最多訪問国はフランス。通算10回以上の渡航履歴が示すように、パリにどっぷりハマり、かぶれまくっている私だが、この話はまたおいおい…。

話を戻そう。
そんなチキンハートな旅ジャンキーが激推しする国、それは「ポルトガル」。
南ヨーロッパ・イベリア半島に位置するこの国には、旅の醍醐味である美しさ、美味しさ、楽しさがすべて詰まっているのだ。
ポルトガルの魅力は語るに尽きないが、いくつかポイントを紹介しよう。

何はともあれ“アズレージョ”を観に行け

およそ2万枚のアズレージョで覆われているポルトのサン・ベント駅

ポルトガルを語るうえで欠かせないのが“アズレージョ”。
幾何学模様や特定の絵柄が主流のこのモザイクタイルは、ポルトをはじめ、リズボンなどポルトガルのあちこちで観ることができる。
なかでも必見なのが、ポルトのサン・ベント駅のアズレージョ。

ジョアン1世のポルト入城やエンリケ航海王子のセウタ攻略など、ポルトガルの歴史が描かれ、その美しさに目を奪われること請け合い。

ポルトガルのアズレージョの歴史は古く、711年にカトリック信仰が普及していたイベリア半島にアフリカ方面からイスラム教徒が侵入したことによって普及した。偶像崇拝が禁じられたイスラム圏では、神を崇めるのにモザイクタイルは最も適した技術だったというわけだ。

現在のポルトガルではアズレージョが現代建築でも多用され、街を歩くと色とりどりのアズレージョの外壁が楽しめる。長きにわたって大切にされてきたこの伝統は、かつて大航海時代の繁栄を築いた、ポルトガル人の誇りであり、レガシーそのもの。

ポルトガルを旅すれば毎日必ず目にするアズレージョ。きっとお気に入りの場所が見つかるだろう。

美味しいがいっぱいのポルトガル

ポルトを流れるドウロ川沿いのカイス・ダ・リベイラには、リーズナブルで美味しい魚介料理を提供するレストランが軒を連ねる

料理は作るのも食べるのも大好きな自他共に認める食いしん坊の私は、“美味しいごはんが食べられること”も、旅先を選ぶ条件になる。そして、その優先順位はかなり高い。

豊かな自然に恵まれたポルトガルはまさに食の宝庫である。特に大西洋から揚がる新鮮な魚介の美味しさたるやもう!
イワシ、タラ、アジ、タコと、日本でも馴染みのある食材を多く使うポルトガル料理は、言わずもなが、日本人の舌に良く合う。素材の味を生かしたシンプルな味付け、魚介の旨味を抽出した煮込み料理など、何を食べても「んっまっ」と、思わず声に出てしまうほどの美味しさなのだ。

海の幸たっぷりのポルトガル風リゾット「アローシュ・デ・マリスコ」。カニやタラ、トマトにパプリカと、素材の旨味がぎゅっと詰まったその味は絶品!
ポルトガルの家庭料理「アロス・コン・プルポ(タコごはん)」。タコのフライと共にいただいたその味が忘れられず、今でも時々自宅で再現する

ポルトガルは魚介料理だけではない。内陸部の山の幸を使った料理もそれはそれは美味なのだ。
お肉が食べたくなったら、リーズナブルにサッと食べられるハンバーガーがおすすめ。

ポルトガルのソウルフード「ビファーナ」。ピリ辛の生姜焼きによく似た豚肉をサクサクのバンズに挟んでいただく。ビールとの相性抜群!
魚料理に飽きたなら、ジューシーで分厚い牛肉がこれでもかっ!というほど挟まれたハンバーガーを堪能しよう

ポルトガル料理、それは悪魔の料理。
家族や友人との旅なれば、シェアをしていろいろな料理を味わえるけれど、ひとつの胃袋では限界がある。メニューを前に泣く泣く諦めることも多いのがひとり旅。
美味しい国を訪れると、少しだけもったいない気持ちになるのは、私が根っからの食いしん坊たるゆえんだ。

スナック&スイーツもあるんです

まだまだ続く悪魔、いや、美食の国ポルトガルの美味しいもの。
旅先ではカロリーオーバーは気にするべからず。これ、私的旅のセオリー。
食べ歩きに最適なスナック&スイーツを紹介しよう。

パスティス・デ・バカリャウ(干し鱈のコロッケ)

リスボンの街を歩いていると、コロッケのような食べ物を手に歩いている人をよく見かける。
気になる、食いしん坊としてはとても気になる。
「それはなぁに?」と勇気を出して訊ねると、「あそこのお店で売っている○×△☆♯♭●□▲★※だよ」

親切に教えてくれたはいいが、まったく聞き取れなかったそれは、「パスティス・デ・バカリャウ」というバカリャウ(干し鱈)のコロッケだった。コロッケというだけあってポルトガルの代表的な家庭料理らしいのだが、教えてもらったCasa Portuguesa do Pastel de Bacalhau(カーザ・ポルトゲーザ・ド・パステル・デ・バカリャウ)は観光客向けの高級店らしく、店内もなんだかとてもおしゃれ。

高級チーズ「ケイジョ・セラ・ダ・エストレラ」と、これまた聞き取れない複雑な名前のチーズがたっぷり入った揚げたてのパスティス・デ・バカリャウ。チーズと干し鱈の塩加減が絶妙にマッチ!キリリと冷えた白ワインが絶対的に合う。

大航海時代から愛されているバカリャウはポルトガルの国民食である。スーパーマーケットでも当たり前のように売られていて(しかも激安)、そのレシピは365日分もあるそうな。

パステル・デ・ナタ(エッグタルト)

塩辛いものを食べたら甘いものを求めるのが食いしん坊の性。
スイーツはポルトガル名物「パステル・デ・ナタ」一択だ。

パイ生地に卵黄たっぷりのカスタードクリームを詰めて、400℃の高温で一気に焼き上げたこのスイーツ、日本ではエッグタルトの名前でよく知られている。

「国に戻ったら最初に食べるもの」とも言われるほど、ポルトガル国民にとってはなくてはならない伝統のお菓子、パステル・デ・ナタは、元祖として知られるリスボン・ベレン地区にあるPastéis de Belém(パステイス・デ・ベレン)にて食すべし!

ベレン地区にある世界遺産・ジェロニモス修道院の厨房で修道士や修道女によってひっそりと作られたことが始まりとされるパステル・デ・ナタ。その味を引き継いだパステイス・デ・ベレンはテイクアウトで購入する他、店内でも食べることができる。
焼き立てが断然おすすめなので、ぜひエスプレッソと一緒に店内で味わってほしい。

アズレージョの内装がキュートなパステイス・デ・ベレンの店内
パステル・デ・ナタはスーパーやパン屋さんなど、どこにでも売っている。ポルトガル滞在中、おやつがわりに毎日食べた

ポッタリアンならずとも一見の価値ありな名所

ポルトガルはハリーポッターシリーズの原作者J・K・ローリングが英語教師として働いていた国である。教師をしながらシリーズ第一作目の「ハリー・ポッターと賢者の石」を執筆したと言われており、ポルトにはゆかりの場所がいくつかあるので紹介しよう。

Majestic cafe(マジェスティック カフェ)

ポルトのサンタ・カタリーナ通りにあるMajestic cafeは、1921年創業の老舗のカッフェーである。アール・ヌーヴォー様式のベル・エポックな雰囲気漂うこの店の常連客だったJ・K・ローリングは、「ハリー・ポッターと賢者の石」を執筆したとされている。

重厚感のある店内は、そこはことなくハリーポッターの世界観を感じる。もしかするとこの席で、ハリーポッターが誕生したかもしれないと思うと、ポッタリアンならずとも高揚感を覚える。

世界で最も美しい書店Livraria Lello(レロ書店)

100年以上の歴史を持つポルトのLivraria Lello(レロ書店)は、ハリーポッターの世界観に影響を与えたとされる老舗の本屋さん。
レロ書店の内観が映画「ハリーポッターと賢者の石」に登場した、ハリーが魔法学校で使用する教科書を購入した書店にそっくりと話題になり、今ではポッタリアンの聖地になっている。

店内に入って最初に目に飛び込んでくるのは、「天国への階段」と呼ばれる赤色の螺旋階段。今にもハリーが現れそうだけれど、じつは作者のJ・K・ローリングは、一度も訪れたことがないと発言したとか。それでもに訪れる人が絶えないのは、この美しい本屋さんそのものが芸術作品だから。

地元の人に親しまれ続けてきたレロ書店だが、ハリーポッターの人気と共に世界中から観光客が訪れ、本屋さんとしての営業が危ぶまれたことから、入店には8ユーロ(2024年1月現在)のバウチャーチケットを事前に購入しておく必要がある。

バウチャーチケットは本の購入にも使えるので、旅の記念やお土産に一冊購入してはいかがだろう。

レロ書店オリジナルのポケットサイズのシリーズ本はお土産にぴったり。私は「星の王子さま」を購入

“かわいい”が渋滞する国、ポルトガル

旅に“かわいい”は欠かせない。
ポルトガルはかわいいがそこ此処にあふれる雑貨の宝庫でもある。
普段、お土産はほとんど買わない私だが、ポルトガルに至っては財布の紐がゆるみっぱなし。
重量オーバーが若干心配になるほどのお土産をスーツケースに目一杯詰め込んで帰国した。
自分用としてはもちろん、家族や友人にも喜ばれたお土産をピックアップしてみた。

CLAUSPORTO(クラウスポルト)のハンドメイドソープ

130年以上の伝統がある石鹸ブランド「クラウス・ポルト」は、世界60カ国以上で販売されており、日本でもオンラインショップやセレクトショップで購入ができる。
ポルトガル国内には発祥の地・ポルトのほか、リスボンに2店舗があり、ポルトの本店にはブランドにまつわる展示スペースもある。

ヴィンテージ風のおしゃれなラベルには1887年の創業当時の雰囲気がそのまま残されている
男性用のシェービングクリーム、アフターシェーブローションのレトロなパッケージにもズキュン

Conserveira de Lisboa(コンセルヴェイラ・デ・リスボア)」の缶詰

ヨーロッパ随一の魚介類の消費量を誇るポルトガルは缶詰大国。缶詰はポルトガルのあらゆるところで買えるけれど、お土産に購入するならリスボンにある1930年創業の缶詰専門店「Conserveira de Lisboa(コンセルヴェイラ・デ・リスボア)」がおすすめだ。

缶詰大国ポルトガル。パッケージがおしゃれすぎて“ジャケ買い”

小さなお店にはありとあらゆる缶詰が所狭しと並んでいるコンセルヴェイラ・デ・リスボア。創業当時に使われていたと思われるレジスターのディスプレイがなんともおしゃれでしょう?

数ある缶詰ショップの中でもコンセルヴェイラ・デ・リスボアを推す理由はこのラッピング。か、かわいすぎやしないか!

そして私が購入したお土産の一部がこちら。
缶詰にアズレージョを模した鍋敷き、クラウスポルトの石鹸、ジャケ買いした缶入りチョコレート、リップグロス、幸福をもたらすニワトリ「ガロ」、ポルトガル陶器。
ああっ、かわいいが止まらない!

なんてたってポルトガルは親日国

リスボン・ベレン地区にある「発見のモニュメン」。エンリケ航海王子を先頭に大航海時代に活躍したマゼランやヴァスコ・ダ・ガマ、フランシスコ=ザビエルなど、33名の偉人の像を見ることができる

ポルトガルは昔から日本と縁がある国である。1543年、ポルトガル人を乗せた中国船が種子島に漂着したことをきっかけに鉄砲が伝来。堺商人によって全国に普及した鉄砲は、戦国大名の主要な武器になった。
その6年後、イエズス会宣教師フランシスコ=ザビエルが鹿児島に上陸。日本におけるキリスト教布教の第一歩を印した。

ということを小学校の社会科で習って以来、ポルトガルはわれわれ日本人にとって、行ったことはなくても、身近にある国だったように思う。

実際に訪れて感じたのは、ポルトガルには親日家が多いこと。日本と最も長い友好の歴史を持つ国ではジャパニーズアニメのファンが多く、食文化もどこか似ている。
他のヨーロッパ諸国に比べてアジア人に対する偏見や差別を受けることはほとんどなく(気づかなかっただけかもしれないけれど)、心地よく過ごすことができた。

旅人よ、案ずるな。しかし、リスクヘッジは必要

ライトアップされたポルトのドン・ルイス1世橋周辺は夜景ポイントとしても人気

比較的治安が良く、親日家が多いポルトガルは、初めてのひとり海外にはピッタリな国だと思う。
しかし、どの都市でも同じように、観光客が多いスポットではスリ対策は万全にしておくに越したことはない。

ポルトのドウロ川周辺やリスボンのコメルシオ広場周辺は夜遅くまで賑わい、夜景も美しいけれど、細い路地は薄暗く、ひとり歩きは避けたほうが無難だ。

リスボンの海の玄関口、テージョ川に面したコメルシオ広場

観光客の多いところはスリに注意

坂の多いポルトガルはトラムを使った街歩きが便利

観光に便利なトラムだが、観光客で混雑する路線はスリに注意を。他にもポルトガルに限ったことではないが、写真を撮っているときやATMや両替所など、他に気を取られているときこそ用心が必要だ。

いかがだろう。
“海外旅行に行こうと思うのだけれど、おすすめの国はどこ?”
という冒頭の質問から、
“ポルトガルに行こうと思うのだけど、おすすめのルートを教えて”
というマインドに変化してはいないだろうか。

ポルトガル政府から袖の下をもらっているわけでも、
先祖がザビエルにお世話になったわけでもないが、鼻息を荒くし、改めて宣言しよう。

行きたい場所がわからない?ならばポルトガルにお行きなさい。

そしてこの記事が、誰かにとって心が動いた瞬間“moment”になれば嬉しい。

おだりょうこ

猫と旅、音楽と映画で形成されたライター&エディター。旅欲が止まらない旅ジャンキー。雑誌編集、テレビ局勤務を経てフリーランスに。料理は作るの食べるのも得意だったりする。