バレンタインシーズンには乙女チックラブコメをどうぞ【少女まんがの沼から】

2月の一大イベントといえばバレンタイン! バレンタインには甘酸っぱい思い出がある方や、今年はどんなチョコを誰に贈ろうかとそわそわワクワクしている方もいらっしゃるだろう。

今回の“少女まんがの沼から”では、そんなバレンタイン気分にぴったりな“乙女チックラブコメ”と呼ばれる少女まんがをご紹介する。

乙女チックラブコメって?

乙女チックラブコメと言われてもピンとこない方も多いと思う。一言でいうと、かわいくてロマンチック

“ザ・少女まんが”とも言える、少女まんがらしいまんが作品ではないだろうか。以下の項でもう少し詳しく見ていこう。

等身大の女の子のカワイイ世界

乙女チックラブコメは、1970年代から1980年代までの夢見がちで少女趣味な恋愛少女まんがの一群を指す。そのいちばんの特徴は、読者少女と等身大の感性とふんわり柔らかな絵柄で描かれる、カワイイ世界観だ。

主人公の女の子は内気だったりドジだったり、自分にちょっと自信がない子が多い。でもお約束の展開や、嬉しい偶然によって男の子と結ばれたり、恋には破れても前向きで自己肯定的なハッピーエンドに帰結する。

そしてそんな物語を彩るのは、アイビー風のファッションや、家庭的な手作り感あるもの、洋風のおしゃれなインテリアなど、カワイイ小物たち。

身近で日常的でありつつ、少女たちの願望を叶えるようなロマンチックな雰囲気や、よくも悪くもステレオタイプな女の子像は一世を風靡し、少女のみならず男性からも支持された。

1970年代は、少女まんがの幅が広まり、ドラマチックなストーリーものや従来の少女まんがとは違う革新的な作品が乱立していた時代。そんな中で乙女チックラブコメは大きな事件より身近な題材を選び、少女まんがを低年齢の“少女”の手に戻す潮流でもあった。

また、このジャンルの隆盛にはふろくも重要な役割を果たしている。当時の『りぼん』には、各号に乙女チックラブコメの作家がイラストを担当したカワイイふろくがついてきた。折しもサンリオなどのファンシーグッズに人気が出るなど、“カワイイ”文化の流れもあり、乙女チックは少女たちの心を鷲掴みにしたのだった。

乙女チックを代表する陸奥A子さん

乙女チックラブコメは集英社の雑誌『りぼん』の一部作家たちが牽引していたのだが、その筆頭で乙女チックを代表するまんが家が、陸奥A子さんだ。

“乙女チック”や“おとめちっく”の語はそもそも陸奥さんのキャッチコピーから用いられるようになった語で、その後他の同じ系統の作品・作家にも用いられるようになった。

陸奥さんは1972年にデビューして以降、80年代にかけて『りぼん』の看板作家として活躍。現在は女性誌に転向し、少女まんがは手掛けていないが、彼女の乙女チックラブコメはかつて少女だった女性たちだけでなく新しい読者も魅了し続けている。

バレンタインにぴったり! 『天使も夢みるローソク夜』

実はわたしは、あまりにも女の子女の子していて、どちらかというと乙女チックラブコメは苦手な作品が多め…。けれど、そんなわたしも大好きな、陸奥A子さんのバレンタインまんがが『天使も夢みるローソク夜』。

「今年のバレンタインどうしようかな」と思っている方にも、「自分にはバレンタインなんて関係ないよ」という方にも、この時期すべての人にオススメしたい作品です。

どんなお話?

同じ街に住む人々の緩やかに繋がるオムニバスで、『縞柄ローソク』、『雪ふる街に大ジャンプ』、『マジカル・ミステリーとなりの男』、『天使の国まで舞い上がる』の4話で構成されている。物語の軸となっているのが、バレンタインの翌日、雪の降る中その街だけが停電した夜

第1話『縞柄ローソク』では、バレンタインの次の日が誕生日のササエの家に友人4人で集まって、パーティーの真っ最中。会話のネタはもちろん、前日のバレンタインにまつわるそれぞれの恋バナだ。楽しいばかりの恋ではなくて、ほんのり切なくも、気の置けない仲間とローソクの灯で過ごす特別感も相まって終始楽しい空気が流れている。最後にはササエにきゅんとするハッピーも起こる、可愛くて素敵な物語だ。

第2話『雪ふる街に大ジャンプ』の主人公は、なかなか自動車免許が取れずに悩んでいる果里。彼女は彼氏の元カノがあんまり素敵な人なので自信をなくしてしまい、彼に素直に接することができなくなっている。バレンタインにもチョコレートを渡せなかったばかりか、会いにも行かれなかったのだ。

停電の夜、そんな果里の前に、旅行中の宇宙人が現れる。宇宙人は彼女のもやもやを親身になって聞いてくれて…。そんな突拍子もない展開も、陸奥さんの手に掛かるとすんなり受け入れられるから不思議。

第3話『マジカル・ミステリーとなりの男』は、果里が宇宙人なのでは!?と勘違いした羽雄と、ちょっと変わり者の彼のことが気になっている貴真子のエピソード。これと次の話は、バレンタインは特に関係なく、停電の日に焦点が定められている。

こちらはクラスメイトながら話したことのなかった羽雄と貴真子が、停電の日にぐっと距離が近づく可愛らしい展開だ。

最後の『天使の国まで舞い上がる』でスポットが当たるのは、短大の卒業間近になっても自分のやりたいことが分からず就職する気になれないでいた葉名奈。懸賞がパリ旅行のエッセイ募集に応募してみることにしたはいいものの、煮詰まってじわじわ締め切りが近付いてくる…。

そんな時に停電が起こり、ローソクの灯を見ているうちに不思議と気持ちが落ち着いて、書きたいことが見えてきた。そして春、まだ自分の目的は見つかっていないけれど、パリの街で気分は上々。葉名奈の未来は明るい。

こんなみんなの様子を空の上から天使が見ている情景で結ばれる『天使も夢みるローソク夜』は、停電の特別感にわくわくし、ローソクの灯に何だかほっこり温まる作品だ。バレンタイン前に読むと、「どんなバレンタインでも、きっと何か素敵なことがあるはず」と明るい気持ちになれる。

わたしの推しポイント

陸奥さんの作品は、出てくる小物やちょっとしたところに配される柄の可愛さったらない。それからササエ、オリーブ、貴真子、葉名奈とネーミングも何だか変わった名前できゅんとくる。登場人物たちの会話も独特のセンスとテンポ感で心地よい。

わー、こんな部屋に住みたいなあ。
こんな恋ができたら素敵だな。

そういうもののオンパレードなのだ。

乙女チックラブコメ作品全体に言えることだけれど、『天使も夢みるローソク夜』も、何てことない些細なことにも敏感に揺れ動く少女の感性を丁寧に解きほぐしていく。
そんな中でも、恋愛一辺倒ではなく、豊かな少女心理を捉えているから、好感が持てる。

それからこの作品で一等好きなのが、『雪ふる街に大ジャンプ』の見開きのワンシーン。エピソードタイトルにもなっている、主人公が宇宙船から雪の空を落ちてくる場面で、雪夜の街の上空で果里がスーパーマンみたいなポーズを取っているのがダイナミックなのにユーモラスなのだ。

初めてこのページを開いたとき、この絵を見るためにこの作品を読んだのだと思ったくらい、お気に入り。

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イチオシの乙女チックラブコメ系作家

陸奥A子さん以外にも、素敵な乙女チックラブコメを手掛けている少女まんが家は沢山いらっしゃる。

陸奥さんと並んで『りぼん』誌上で人気があった田淵由美子さんや太刀掛秀子さん。冬の少女まんがの記事でご紹介した佐藤真樹さん。それから高橋由佳利さんや篠崎まことさんなどなど…。

ここでは中でもイチオシの3名の作家をご紹介する。

岩館真理子さん

集英社の『週刊マーガレット』などで活躍した乙女チックラブコメ系の作家。シリアス路線を通って、その後は女性誌で活動している。繊細な作風に定評がある。

説明の少ない雰囲気で読ませる作品が多く、モヤモヤすることもあるのだけれど、心に何か引っかかりを残していくので忘れがたい。明確なオチを求めるのではなく、世界観に浸りながら読む作品。代表作は『1月にはChristmas』など。

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田淵由美子さん

1970年にデビューし、陸奥A子さん・太刀掛秀子さんと共に『りぼん』の看板作家だった方。1985年頃まで一線で活躍し、平成以降は主に女性誌で活動している。細長い手足に、縦長の瞳が印象的な絵柄で、きらきらしい青春を美しく且つ素朴に表現する乙女チックラブコメを多数手掛けた。

同系統の作品群の中では主人公の年齢が高めで、大学生などが登場することなどちょっと大人っぽい雰囲気が特徴。代表作は『フランス窓便り』など。

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小椋冬美さん

『りぼん』誌上に乙女チックラブコメ路線で1975年にデビューした後、次第に作風が変わっていった方。わたしは80年代前半までの乙女チックラブコメ時期の、ふんわり柔らかながらどこか翳りのある絵柄が好き。

恋愛が主体でありつつそれだけには留まらず、キャラクターの人生観や哲学にも触れている感動的な話が多い。代表作は『リップスティック・グラフィティ』など。

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バレンタインには乙女チックな少女まんがをどうぞ

誰かにチョコレートをあげるわけではなくても。

デパートのチョコレート売り場は眺めているだけで楽しいし、自分へのご褒美チョコを買ったり、お菓子を手作りしたり、わくわくした気持ちになれるバレンタインデー。

乙女チックラブコメをお伴に、今年のバレンタインが素敵な1日になりますように。

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逆盥水尾

さかたらいみおと読みます。昭和の少女漫画が好きで、最近はもっぱら漫画を読みふけりながら普及活動をする日々です。