季節と景色によって、お酒を選ぶ楽しさ

「乾杯!」という言葉は、複数人であってもひとりであっても口にしたくなる、お酒を飲む前の合言葉みたいなものだ。喜びや祝福の気持ちを込めて酒杯を触れ合わせ、お酒を飲み干すというのが語源とされている。

たしかに、頑張った日や楽しかった日こそお酒を飲みたくなるし、気持ちや感性が動いたときに飲む一杯は、ひときわ美味しい

手の込んだ料理を前に仲の良い人たちと楽しむお酒も好きだけれど、何気ない日常の風景やきれいな景色を見て心がふわっとほどけたとき、それを肴にクッと一杯飲みたくなる。自分ならどんな景色を見ながら、どんなお酒を飲みたくなるだろう?ぜひ一緒に考えてみてほしい。

桜と夕暮れ、缶ビール

春こそビールが最も美味しい季節ではないかと思っている。真夏の太陽の下で飲む、キンキンに冷えたビールも美味しいけれど、春の夕暮れにふらっと外に出て、桜の木の下で飲む缶ビールは格別だ。

自宅からすぐのところに数km続く立派な桜並木があるので、桜が咲く頃には毎日のように散歩に出かける。大抵はただ歩いて桜を眺めるだけにするけれど、「よく頑張った!」という日や「なんか物足りないな〜」という日には、近くのコンビニに寄って缶ビールを1本買う。

適当な場所に立ち止まったり腰掛けたりして、プルタブを引き上げる。ひんやり冷たい缶を口に当て、一口飲もうと顔を上げると、視界を彩るのは一面の桜色。うすくて柔らかい桜の花が、春の夕陽に照らされている。暑くも寒くもない気候に、自分と周りの境界が曖昧になっていく。

夏のビールは冷たさが正義だけれど、春のビールはぬるさも許容してくれる。だからじっくり時間をかけて、全身全霊で花見を楽しむのである。

若葉と日差し、カチ割りワイン

桜の季節が終わると、木々にはみずみずしい若葉が生い茂る。まぶしいほどの緑とハツラツとした日差しに包まれる、初夏の到来。

晴れた休日には、お日様の下に1秒でも早く飛び出したくて、駆け足で支度をする。肌寒くなったときのために薄手のシャツやカーディガンを羽織るけれど、昼間は半袖1枚で過ごせるほど暑い日も多い。少し歩けばじんわり汗ばんで、乾いた喉が冷たい飲み物を欲しはじめる。そうだ、テラス席のある店でカチ割りワインを飲もう

テラス席を設けているお店は、イタリアンやビストロ系のお料理とお酒を扱っていることが多い印象。数種類のおつまみが少しずつ楽しめる前菜盛りや、ランチにちょうど良いピザやパスタがあって、おひとりさまでも立ち寄りやすい。

ディナーでの一杯目は、スパークリングワインを頼むことが多いけれど、乾いた喉をしっかり潤したいので、カチ割りワインを迷わず注文!

氷を入れてロックで楽しむことで、そのままで飲むよりもスッキリ爽やか。普段はあまりワインを飲まないという方にもぜひおすすめしたい。ちなみにワイン大国として知られるフランス、イタリア、スペインでは、夏定番の飲み方なのだそう。それを知るといっそう美味しく感じて、つい飲みすぎてしまうので要注意。

月と夜長、日本酒

夜が魅力的な季節といえば、秋じゃないだろうか。私は夜に日本酒を飲みたくなることが多いのだが、秋は夜長のおかげで、ながーくじーっくりお酒を楽しめる

夏の暑さが落ち着いて、涼やかな風が吹き始める頃。虫の音が聞こえて、風に揺れる葉っぱの音も少し乾いた感じがする。湿度が落ち着き、空気が澄むことで、月がくっきり見えるようになる。部屋の明かりを落として、月の光を感じながらお酒を飲むなんて、とんでもなく大人じゃないか。月は別に満月じゃなくていい。半月も三日月も、それぞれの風情がある。

ひやおろしや秋上がりといったこの季節ならではの、秋酒もまた魅力。春と夏の間、ひんやり冷たい蔵の中で寝かせることでほど良く熟成され、角の取れた丸みのある味わいになるのだそう。

そして秋に旬を迎える食材は、もれなく日本酒に合うものばかりだ。秋刀魚、戻り鰹、松茸、秋茄子…どれも焼きや炙りで食べたくなるし、焦げの苦味や煙の香ばしさが、日本酒欲を掻き立てる。

栗や南瓜、さつまいも、柿など、甘みのある食材をつまみにするのも良い。月に思いを馳せ、お団子やおはぎ、酒まんじゅうなど、丸くて白いものを食べるのも楽しい(米をつまみに米を飲む…)。

冬に飲みたいお酒は、まだ考え中

もうすぐ冬も終わってしまうけれど、寒い今こそ飲みたいお酒ってなんだろう。熱燗はたしかにぴったりだけれど、あまりに定番なので、冬の景色を心で感じながら、飲みたいお酒を選びたい。寒さに負けずに外へ出て、心震える景色を探しに行かないと。

目の前に広がる景色とそのとき感じた気持ちによって、飲みたいお酒を選び取る時間は、一種のマインドフルネスのようなものかもしれない。近所を散歩しているときや家までの帰り道、そして自宅の窓辺から今すぐにでも実践できる、最高にご機嫌な時間の過ごし方だ。

くにさわめい

清流・四万十川のある高知県生まれ。 前職は旅行メディアの編集・ライター。現在はマンガ編集者として働きながら、複業ライターとしても日々奮闘中。好きなジャンルは、フードエッセイと街歩き記事。とにかく外へ出て、おいしいものやきれいな風景、その場所の匂いや音に触れるのが好き。