ベルばらには憧れが詰まっていた【わたしを作った少女まんがの話】

超有名少女まんがと言えば?

昔の少女まんがが好き、と言うと誰の口からも真っ先に出てくるのが『ベルサイユのばら』。
少女まんがを読んだことがなくても、老若男女問わず知っているその知名度の高さにはいつも驚かされる。

発表から50年を経た今でも圧倒的知名度を誇り、多くの人々に愛されている本作。
先日は100円ショップでベルばら柄の雑貨を売っているのを見つけ、嬉しい気持ちに。

今回はそんな『ベルばら』の思い出を振り返りつつ、改めてその魅力を考えてみたい。

改めて、『ベルサイユのばら』って?

名前は知ってるけど内容は知らない…なんかフランスの話だよね? という方に向けて、まずは『ベルばら』基本情報から!

社会現象になった大ヒット少女まんが

ブルボン王朝末期のベルサイユを舞台に、フランス王妃マリー・アントワネットと男装の麗人オスカル、ふたりの女性の劇的な人生を描いた歴史ロマンス。
華やかな宮廷模様に、次第に革命の暗い影が迫ってくる時代。燃える愛と悲劇的な運命が、周囲の人々を巻き込みドラマチックに展開していく。

集英社『週刊マーガレット』で1972年21号から1973年52号まで連載された。社会現象を巻き起こすほどの大ヒットを記録し、累計発行部数は2000万部を超える。略称は『ベルばら』。

作者による派生作品も多い。
外伝が2本(『黒衣の伯爵夫人』と『名探偵ル・ルー編』)とギャグテイストの4コマ『ベルばらKids』、そして2014年には本編では描かれなかった裏話を盛り込んだ新エピソードが発売された。

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作者の池田理代子さんについて

『ベルばら』を生み出したまんが家は池田理代子さんだ。
1967年に『バラ屋敷の少女』でデビューし、以来精力的に活動している。『ベルばら』以外の代表作には『おにいさまへ…』『オルフェウスの窓』『栄光のナポレオンーエロイカ』などがある。
宝塚やオペラも好きで、昨今はソプラノ歌手として舞台にも立っている。
2009年フランス政府からレジオンドヌール勲章が授与された。

溢れる魅力と斬新さ

何がそんなにウケたのか? という問いに一言で答えることは難しい。歴史、恋愛、ファッション、ジェンダー…さまざまな要素が複雑に絡み合うことで、相互に高め合い作品世界が成り立っているからだ。
わたしが子どもの頃は、もっぱらキャラクターへの愛と非日常なファッションへの憧れ故にハマっていた。

生き生きとしたキャラクターたち

『ベルばら』には主役のふたり以外にも数多くのキャラクターが登場する。彼ら、彼女らは皆それぞれに人生を持ち、ひとりとしておざなりに描かれている人がいないのが凄い。たった数コマ出てくるだけのキャラにも、確固たる存在感があるのだ。

もちろんダントツで魅力的なのは、本作の顔であるオスカルなのだけれど。
女性でありながら、生まれたときから男性として育てられたオスカル。ミステリアスな美貌を持ち、マリー・アントワネットに仕える彼女は宮廷中の注目を集めている。しかしその内面は複雑に揺れ動く。

初恋と失恋を経験したあと、幼馴染であり従僕でもあるアンドレへの気持ちに気付く恋愛面。
傲慢な貴族への怒りと民衆への思いやりを持つ政治的な側面。軍人としての誇りや、両親への愛慕など、人間が丸ごと描かれることで、感情移入しやすいし、何よりオスカルがどんどん好きになる。

あとわたしが特に好きだったのはアンドレとシャルロット。

アンドレは初登場時は野暮ったくて脇役感が強かったのだけれど、気づけばオスカルの陰になり日向になり支える好青年へと成長していた。

シャルロットは、家柄のためだけにかなり年の離れた見知らぬおじさんと結婚させられることを気に病んで、自殺してしまった可哀想な女の子。豪華な巻き髪がとても可愛らしく、高慢な態度の裏に隠された乙女心にうるうるした。

ほんの数コマしか登場しないけれど、著作が発禁処分をくらった革命の大天使・花のサン・ジュストくんにも心を掴まれた。
他にも、挙げ出せばキリがないほど魅力的なキャラクターがたくさん登場する。

きらびやかなファッション

王侯貴族の豪華絢爛な装いは、子ども時代のわたしにとって憧れそのものだった。
時代考証をすると必ずしも正しいファッションばかりではないようだが、そんなことは関係なく、華やかな世界をうっとり眺めていた。

エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによる、マリー・アントワネットの肖像画

マリー・アントワネットのフリルやリボンがふんだんにあしらわれた可愛いドレス。
オスカルが所属している近衛兵の優美な軍服。
黒い騎士の装束もかっこいいし、冒頭のオーストリア時代の服も気品があって素敵だ。

自分が着るならオスカルが唯一着たあのドレスがいいなあ…と夢見たりもして。
(細身でエキゾチックな雰囲気漂う魅惑的なドレスなのだ、コレが)

当時のフランスがわかる

『ベルばら』はルイ15世の時代からマリー・アントワネットの処刑までを描いているので、通して読むだけで当時のフランスの様子を大まかに理解することができる。しかも前述したようにキャラクター心理がとてもリアルに描写されているので、すぐそこで起こったかのように身近に感じられるのだ。

当時のフランス絵画、ジャン・オノレ・フラゴナールの「ぶらんこ」

歴史まんがは楽しみながら歴史を学べるのが特色だ。『ベルばら』もツヴァイクの評伝『マリー・アントワネット』を下敷きにしていて、史実と細かい差異はあれど非常にためになる。
本作をきっかけに世界史に興味を持った人も少なからずいるのではないかと思う。

さまざまなメディアミックス

一大ブームとなった『ベルばら』は、さまざまにメディアミックスされてさらにファンを増やしていった。

その最たるものが宝塚歌劇団による舞台化だろう。宝塚では1974年の初演が劇団史上ヒット以来、現在まで折に触れて再演を繰り返している。2006年には通算上演回数1500回を超えた。

次に有名なのはテレビアニメ版か。1979年10月から1980年9月まで、全40話で放送されたアニメも多くのファンを獲得した。このアニメは後に再編集されて劇場版にもなっている。

その他、1979年にはジャック・ドゥミ監督がヴェルサイユ宮殿でロケをした実写版映画が作られたり、2011年には携帯電話向けの恋愛シミュレーションゲーム『ベルサイユのばら If 〜幻想の日々〜』がリリースされたりしている。

これほど多く、そして現代もなお本作が形を変えてわたしたちの前に現れるのは、ひとえに作品の魅力によるところだろう。

初の本格的な歴史少女まんが

それまで、本格的な歴史ものの少女まんがは存在しなかった。編集部としては「歴史ものは当たらない」という考えがあり、『ベルばら』の連載前にも反対があったそう。
そんな編集部の心配を跳ね飛ばし、史実とフィクションを織り交ぜた作品は堂々の大ヒット。
本格的な歴史少女まんがの先駆となったのだった。
この後、続々と歴史を扱った少女まんがが登場してくることになる。

センセーショナルなベッドシーン

『ベルばら』の革新的な点はまだある。それはベッドシーン。

そもそも少女まんがにおいて、恋愛の描写は少しずつ少しずつ開拓されてきたものだ。
家庭や友情がテーマで恋愛なんてほとんど扱われることのなかった黎明期。
それから少しして、お姉さん世代のロマンチックなラブストーリーを憧れを持って見るような作品が出てきた。
60年代後半にようやく身近な恋愛を扱ったラブコメが登場し、『ベルばら』が連載されていた70年代前半に至っても、まだ性描写は許されざる領域だったのだ。

そんな中、連載1回分を費やすほどのベッドシーンを描いた本作。
保護者からはクレームが入ったが、編集部がこのシーンは絶対に必要だったのだと言い返したという。

行為が描かれているわけではないし、わたしが読んだときは何とも思わず読んでいたが、当時としては画期的だったわけだ。
もしこのベッドシーンがなかったら、オスカルが闘いに身を投じてラストへ向かっていく流れに、これほどまでの感動はなかったのではないかと思う。

読み継がれる理由

先日、久しぶりに『ベルばら』を読み返した。

するとびっくり。
当時はドレス可愛い! なんて可哀想な運命なんだ! と100%好意的に見ていたマリー・アントワネットが、確かに悪気はないのだけれど国民のことなど全く考えていないことに気が付いた。良くも悪くも根っからの王女として描かれているのだ。

それから、貴族に殺された母の仇を討つため一時期オスカル邸に居候するロザリーも、甘えすぎだしわりと自分の恋心が最優先だったんだなと思って苦手になってしまった。昔は健気で優しくて好きだったのだけれど…。

一方でオーストリア大使でマリー・アントワネットの教育係でもあるメルシー伯の苦労が偲ばれたり、ルイ16世の人柄の良さが分かったり。

そして変わらぬオスカルの美しさよ。
身の内に渦巻く切なさや激情が真に迫って感じられ、より魅力を増していた。

こんな感じで、改めて読んでみると、子どもの頃は表面しか見えていなかったことの裏が見えてきて、作品に対する印象が少し変わった。好きだったキャラクターが好ましく思えなくなった切なさはあれど、やっぱり『ベルばら』っていいなあと再認識した次第だ。

壮大でドラマチックな物語は何度読んでも胸を打たれるし、誰しも共感できるキャラクターがひとりくらいはきっといるし、こうした魅力が人々を惹きつけ、読み継がれているのだろう。
そして一度読んだ人も、その後何度読み返してもやっぱり楽しめるのだ。

昭和の少女まんがのススメ

昔の少女まんがには、少女まんがだからとか、古いからとか、そういった理由で敬遠するには惜しい傑作が多くある。『ベルばら』をきっかけに昭和の少女まんがにハマる人が増えてくれたら、この上ない喜びだ。

来年春、劇場版アニメ化

ところで2025年春に、『ベルばら』新作の劇場版アニメが公開されるのだ!
絵も綺麗だし、豪華な声優陣で、どんな仕上がりになるのか今からとても楽しみ。
以前のテレビアニメ版ではかなり原作から改変が加えられているので、今回は原作に忠実だといいなあ、なんて思ったりも。

アニメや宝塚が好きな人は意外と原作を読まないという話も聞くので、この機会にぜひ原作も読んでほしい!

『ベルばら』の先へ

『ベルサイユのばら』は名作だ。
ただあまりにも『ベルばら』の知名度が高すぎて、昭和の少女まんが=『ベルばら』の図式が出来上がっているとも言える。

では、『ベルばら』の次はどこへ行けばいいのか。

昭和の少女まんがにも素敵な作品は数あれど、残念ながら現代でも気軽に読める作品というと、タイトルが限られてくる。
わたしは物心ついた頃から昭和の少女まんがが好きで、今では全国のまんが図書館を渡り歩くほどになったので、今後とりわけ思い出深く、おすすめな作品をご紹介していけたらと思っている。

池田理代子さんの作品にも他にも良作がいっぱいある。
歴史大河ものから、現代日本を舞台にしたものまで。社会問題に鋭く切り込む作品も多く、これらもまたの機会にぜひご紹介したい。

逆盥水尾

さかたらいみおと読みます。昭和の少女漫画が好きで、最近はもっぱら漫画を読みふけりながら普及活動をする日々です。