南仏・プロヴァンスへの旅は、“おひとりさま”が心地良い【フランスで最も美しい村編】

2024年9月。
少し遅い夏のバカンスに出かけた。行き先は南仏・プロヴァンス。

プロヴァンスと聞いて多くの人がイメージするのは、燦々と降り注ぐ太陽の光、オリーブ畑、爽やかな風が運ぶラベンダーの香りではないだろうか。かくいうわたしもそのひとり。
訪れたいくつかの町や村には、パリのようなわかりやすい華やかさはなかったけれど、「フランスで最も美しい村」に認定された村々の牧歌的な景色と豊かな自然、美食、ロゼワイン、かわいい雑貨との出会いは、旅心を大いに満たしてくれた。

旅のルート

1日目 マルセイユ着 

2日目 アヴィニョン

3日目 リル・シュル・ラ・ソルグ

4日目 アルル、サン・レミ・ド・プロヴァンス

5日目 ★ルシヨン、★ゴルド、フォンテーヌ・ド・ヴォークリューズ、★セギュレ

6日目 エクス・アン・プロヴァンス

7日目 ★ルールマラン

★は「フランスで最も美しい村」に認定されている村

フランスで最も美しい村とは?

フランスで最も美しい村協会によって認定されている「フランスで最も美しい村」。2024年10月現在、178の村が認定されている。認定を受けるには、以下の条件がある。

  • 人口が2,000人以下であること
  • 2つ以上の歴史的建造物などがあること
  • 歴史的遺産を所有していること
  • 歴史的遺産を活用、開発していること

認定後も厳しい審査があり、条件を満たしていないと判断された場合は剥奪されることもあるのだとか。

美しい村へのアクセス

「フランスで最も美しい村」はどれも小さな村というだけあり、駅がない村もたくさんある。そのため、多くの人はローカルバスを利用することになる。場所によっては本数が少なかったり、土日は運休していたりすることもあるので注意が必要。効率良く回るなら、車があると便利。事実、わたしは5日目の小さな村巡りは1日レンタカーを借りた。

海外で運転する自信がない人や、ローカルバスでの移動が不安な人は、オプショナルツアーや車をチャーターする方法もある。多少費用はかさむけれど、その価値は十分ある。また、駅がある村をチョイスして、ローカル列車の旅を楽しむのもすてき。

次ではわたしが実際に訪れた、フランスの美しい町や村を紹介しよう。

海岸線「コード・ブルー」でニャロンへ

海外線を走るコート・ブルー線の車窓から眺める地中海

早朝に降り立ったマルセイユ・プロヴァンス空港からバスでマルセイユ市内へ。市内観光もそぞろに向かったのは、「ニャロン(Niolon)」という駅。マルセイユ以西の海岸線・コート・ブルー沿いを走るローカル列車に乗って訪れたニャロンは無人駅。海に向かって坂を降りると、コート・ブルーの典型的な岩の海岸が出迎えてくれた。

ニースやコート・ダジュールのような華やかな賑わいではなく、地元の人たちがのんびり日光浴をしたり、泳いだり。穴場的な落ち着いた雰囲気は、リゾートが苦手なわたしにも心地よかった。

ローマ・カトリックの栄華が残る町・アヴィニョン

城壁の中にまちが広がるアヴィニョン

プロヴァンスとひと口に言ってもそれは意外に広く、短い滞在で楽しむにはエリアを絞って訪れるのがおすすめ。わたしは起点をアヴィニョンに置き、リュベロン地方を中心にバスや鉄道、レンタカーを使っていくつかの町や村を回った。

約4.5kmの城壁に囲まれたアヴィニョンは、14世紀にローマ教皇庁が置かれた場所。そう、現在、バチカン市国にあるあの教皇庁があったのだ。

町を歩くと「ローマカトリックの首都」としての面影が至る所にあり、なかでもヨーロッパ最大級のゴシック様式を誇る教皇宮殿は圧巻。宗教施設でありながら城塞のようないかつい雰囲気の教皇庁は、聖職者が住んでいたところとは思えない豪華絢爛な建造物だったそう。残念ながらフランス革命でその多くが破壊され、今はいくつかの礼拝堂や優美なフレスコ画でかつての姿を垣間見ることができる。

アヴィニョンの橋の上では踊れそうにもない

教皇宮殿に次いで、アヴィニョンの街を代表する建造物が「サン・ベネゼ橋」。フランス民謡の”アヴィニョンの橋の上で”の舞台である。

橋は17世紀にローヌ川の洪水で橋の半分以上が崩壊したため、対岸に渡ることはできない。また、そもそもが歩行者と騎馬通行者のために作られた橋の幅はとても狭く、歌のように輪になって踊ることもきっとムリ。

運河とアンティークの町・リル・シュル・ラ・ソルグ

アヴィニョンからバスで約50分、路線バスで向かったのはリュベロン地方の玄関口とされるリル・シュル・ラ・ソルグ。人口約2万人弱の小さな町のなかにはソルグ川が流れ、その美しさたるやもう!川底が見えるほどの透明感は見ているだけで爽快な気分になる。

リル・シュル・ラ・ソルグの顔といえば、毎週日曜日に開催されるアンティーク市。パリ、ロンドンに次ぐ第3のアンティークの町として知られるリル・シュル・ラ・ソルグの市場には、絵画や陶器、テーブルウェアやキッチンツールなどの年代物と思われる品々が所狭しと並んでいた。

アンティークショップもたくさんあるリル・シュル・ラ・ソルグは、ショッピングはもちろん、散策するだけでも楽しいところ。旅の計画を立てるときは、日曜日にリル・シュル・ラ・ソルグを訪れることを忘れずに。

ゴッホの足跡を辿る、アルル

アルルでゴッホゆかりの地を訪ねるときは、石畳のプレートが目印になる

アヴィニョンからローカル列車のTERで20分、アルルを訪れた目的は“ゴッホ”。15ヶ月の滞在中、約300点の作品を描いたとされ、町にはゴッホが描いた風景の面影が残されている。

たおやかに流れるローヌ川を描いた「ローヌ川の星月夜」。川縁から見るその流れを、ゴッホも見たと思うと感慨深い。有名な「夜のカフェテララス」の舞台は、残念ながら廃業になっていたけれど、町のあちこちにゴッホの息遣いが感じられた。

アルピーユ散策の起点の町・サン・レミ・ド・プロヴァンス

ゴッホが1年間療養した「サン・ポール・ド・モゾル修道院」に立つゴッホの銅像

ゴッホゆかりの地をもうひとつ。アヴィニョンやアルルからバスで向かうことができるサン・レミ・ド・プロヴァンスには、ゴッホが1年間療養した「サン・ポール・ド・モゾル修道院」がある。のちに精神病患者専門の保護施設となり、現在も病院として使われている。

当時の治療は現代では考えられない荒治療で、それを再現した部屋やパネルの説明を見ると、なんだか切なくなる。再現された病室から見える中庭やラベンダー畑が、ゴッホの病んだ心を癒したことを願わずにはいられない。

赤に染まる村・ルシヨン

5日目はアヴィニョンでレンタカーを借りて、いくつかの「フランスで最も美しい村」を訪問。車を約1時間走らせ、最初に辿り着いたのが「ルシヨン」。

この村は遠くからでもすぐに見つけられた。黄土(オークル)が建物に多様され、黄色、オレンジ、赤のグラデーションは全て天然色。遠くから見ると真っ赤に染まった町を見ることができ、街を歩くとそのカラフルな町並みを楽しむことができる。

天空の村・ゴルド

「フランスで最も美しい村」の筆頭に挙げられることも多い「ゴルド」。天空にそびえるような美しさは、目に入った瞬間、思わずため息が出た。村の頂上にはアイコニックな古城が立ち、そこからの眺めは圧巻!

ミステリアスな泉が湧く村、フォンテーヌ・ド・ヴォークリューズ

ゴルドを後に向かったのは、リュベロン地方自然公園に隣接する美しい村「フォンテーヌ・ド・ヴォークリューズ」。人口700人ほどが暮らすこの村には、年間およそ100万人もの観光客が訪れるそう。その理由は世界最大級の水量を誇る泉。どこから泉が湧いているのか、水量の急騰のメカニズムの一部はいまだに謎なのだとか。

地下の水源から吹き出すソルグ川の清流の美しさ。透明な水の中で揺れる水草を眺めていると、心が洗われるよう。

プロヴァンスの伝統を守り続ける村・セギュレ

ハンドメイドのクッキーやケーキを提供するセギュレのティールーム。窓からのどかなローヌの自然を楽しむことができる

この日、最後に訪れたのは、ぶどう畑に囲まれた小さな、本当に小さな村「セギュレ」。ローヌ渓谷を臨む高台にあり、中世から続く石畳の街並みは、プロヴァンスらしさをぎゅっと凝縮したかのよう。

緩やかな傾斜の石畳を上っていくと、おとぎ話の世界が広がる。かつて、村唯一の水飲み場だったマカロンの泉、そして、かわいいティールーム。どこを切り取ってもフォトジェニックな人口約800人ほどのセギュレ。訪れた「フランスの美しい村」のなかでも、一番のお気に入りだ。

アートと雑貨巡りが楽しい村・ルールマラン

旅の終盤、宿を移したエクス・アン・プロヴァンスからバスで向かったのは「ルールマラン」。ゆっくり歩いても1時間もあれば回れてしまう小さな村だけれど、わたしはほぼ終日、この村で過ごした。村内にはセンスの良い雑貨店やアートギャラリーが多く、お土産はほぼ、この村で購入。帰りのバス時間まで居心地の良いカフェのテラスで読書を楽しんだ。

そして、ルールマランにはねこがたくさん“落ちて”いるのだ!地域猫と思われるにゃんたちは、村の人々に愛されてるようで、警戒心は皆無。迷路のような道を歩いていると、“こっちにゃん”と言わんばかりに道案内をしてくれる。ねこバカにはたまらない村だった。

プロヴァンスはひとり旅が心地良い。

これまでヨーロッパを中心に。いろいろな国をひとりで旅してきたわたし。どの旅もそれはそれはすてきな思い出だけれど、ひとりがゆえに、食事や防犯面で少しだけ不便に感じることが少なからずあった。

プロヴァンスを旅して感じたのは、ひとり旅の本当の自由さ。おなかの空き具合を聞いて料理をハーフポーションにしてくれたり、Googleマップを見て迷っていると、行きたい場所まで道案内をしてくれたり。ワインをご馳走してくれた人もいた。うまく言えないけれど、ひとりということを意識する必要もないほど、それはさりげない優しさだった。

時間の流れがゆるやかなプロヴァンスの小さな町や村は、時計を外して気の向くままに旅をするのが楽しいところ。同行者を気にせずにすむひとり旅こそが、この地方を訪れる醍醐味だと思う。

この夏、多忙だったわたしの心と体を癒した南仏・プロヴァンスの旅の記憶は、これから先、しんどいことがあったときも、きっと癒してくれるはず。

秋の気配をはらんだ爽やかな風と、どこからともなく漂うラベンダーの香り。
目を閉じればいつだって、思い出すことができる。
プロヴァンスは、わたしにとって旅は生きる糧であることを改めて教えてくれた、忘れえぬ旅となった。

おだりょうこ

猫と旅、音楽と映画で形成されたライター&エディター。旅欲が止まらない旅ジャンキー。雑誌編集、テレビ局勤務を経てフリーランスに。料理は作るの食べるのも得意だったりする。