読書の秋、旅に出たい

暑い、暑すぎる夏が終わり、ようやく過ごしやすい秋がやってきた。ひんやりとした風の中に金木犀の香りを感じながら、「旅に出たいな」なんて思う。そんな季節だ。

そして、秋は“読書の秋”でもある。

本を読んで旅気分を味わったり、本を片手に旅に出たり。今回は、この季節におすすめしたい、“旅”がテーマの書籍をご紹介する。

旅のエッセイ・ノンフィクション

人の旅の記録とは、なぜこれほどに面白いのだろうか。特に優れた書き手の紀行文を読むと、旅先の温度や湿度、出会った人の息遣いまでがリアルに感じられる。まるで、著者の隣で旅をしているかのようだ。

深夜特急

旅のエッセイと言ったら、沢木耕太郎さんの『深夜特急』は外せない。1974年当時、26歳だった著者が敢行した、ユーラシア大陸横断旅の記録だ。私が読んでいる文庫版は、『香港・マカオ』編、『マレー半島・シンガポール』編、『インド・ネパール』編、『シルクロード』編、『トルコ・ギリシャ・地中海』編、『南ヨーロッパ・ロンドン』編の6冊にわかれている。超大作だ。

50年前の旅なので、本書で描かれている各国の雰囲気も現在とは違うはずである。私はまだ3冊目の『インド・ネパール』編までしか読み終えていないのだが、騒々しく混沌としていて、底抜けに自由な国々の描写が愉快だった。今はもう目にすることのできない光景を楽しめるのは、古くに書かれた旅エッセイの魅力だ。

沢木さんの旅のスタイルも、若者らしく気ままでいい。寄り道を繰り返し、気に入った町には延々と滞在する。長い旅路を経てヨーロッパまで辿り着いたら、一体どのような景色が見えるのだろう。旅の終着点で何を感じるのかが、読者としても楽しみでならない。

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あの日、僕は旅に出た

出版社“旅行人”を立ち上げた蔵前仁一さんの『あの日、僕は旅に出た』は、旅エッセイというより自伝的な色が濃い。

最初の旅の行き先は、インド。蔵前さんも、このとき26歳だった。今までの生活と決別し、新しい世界に飛び込みたくなるタイミングが、この年齢なのかもしれない。

その後のアジアやヨーロッパの旅、“旅行人”を立ち上げた後の中南米取材などについても書かれており、読めば世界のあちこちを旅したような気分になれる。1982年のインド旅から、およそ30年間の生き様を著した自伝だが、“旅行人”立ち上げとその後の展開に胸が熱くなる。読み終えたときには泣いていた。

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極夜行

旅をテーマとした本の利点のひとつは、気軽に行けない場所での旅を追体験できることだ。角幡唯介さんの『極夜行』は、その最たるものだと言えるだろう。一頭の犬だけを連れて、太陽が昇らない冬の北極をひとりで彷徨う。それは、“旅”と聞いて想像する営みよりもだいぶ孤独で過酷だ。“探検”という言葉がふさわしい。

極夜の世界に行けば、真の闇を経験し、本物の太陽を見られるのではないか――。

そんな問いから、命がけの探検に出発する角幡さんの日々は、未知の光景で溢れている。

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“食”をめぐる旅のエッセイ・ノンフィクション

旅エッセイの中でも、“食”をテーマとしている本を手にとることが多い。世界各国の美食の描写を眺めていると、無性にお腹が空いてくる。食べたくても食べられないことがもどかしいが、読み進めずにはいられない。

世界ぐるっとひとり旅、ひとりメシ紀行

西川治さんの『世界ぐるっとひとり旅、ひとりメシ紀行』は、豊富な写真も相まって、ひたすらに食欲をそそられる。第1章はヨーロッパ・アフリカ、第2章はアメリカ、第3章はアジアという章立てだが、どの国の料理も生き生きと、そしてユーモアたっぷりに紹介されている。「ナポリのピッツァがうまいワケ」「夜市の屋台はうまいものだらけ」など、目次を見ているだけでよだれが出そうだ。

じっくり焼くと羊の脂が滲みだし、滴る脂が下の炭火に落ちて、それが焼けて盛大な煙があがる。串はその煙に包まれる。なんたる匂いだろう。

これはトルコのケバブを食べるくだりだが、軽快で的確な描写が、その香りをページの外まで運んでくる。

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洗面器でヤギごはん

世界の食を楽しめる1冊として、加えて紹介したいのが、石田ゆうすけさんの『洗面器でヤギごはん』だ。「洗面器で?」と、タイトルからそそられる。

行き先は、北米、南米、ヨーロッパ、アフリカ、アジア。なんと、自転車ですべての大陸をめぐるという、途方もないスケールの旅だ。走っては食べ、また走っては食べる。誰もができるような旅ではないから、読んでいてとにかく面白い。食だけではなく、旅先で出会う人とのエピソードも魅力的だ。

牛に似た味で、予想外にやわらかい。味付けは基本的に塩コショウだが、ニンニクやいろんなスパイスを控えめにきかせ、肉の臭みをとっている。野生動物とは思えないほど上品な味わいだ。

これが何の肉の描写かおわかりだろうか。正解は、ケニアの店で出されたシマウマだ。うーん、食べてみたい。

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英国一家、日本を食べる

日本人が世界をめぐる旅エッセイは多くあるが、その逆の、外国人が日本をめぐる旅エッセイは貴重である。マイケル・ブースさんの『英国一家、日本を食べる』はアニメ化されたほどの人気作。6歳と4歳の子どもを連れて、日本全国で食べ歩きをする日々を描いた、ユーモアあふれるエッセイだ。

30年以上日本で暮らしているのに、日本の食のことをごくわずかしか知らないのではないか。本書を読んでいると、そんな焦りにも襲われる。灯台もと暗し。100日ほどしか日本に滞在していない著者がこれほど日本の食を楽しめているのだから、日本で暮らす私にはもっと楽しめる余地があるはず。そんなことに気づかせてくれる。

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旅の小説

旅の本は、エッセイだけではない。旅をテーマにした小説も、読者を未知の世界へ誘ってくれる。小説ならではのドラマチックな展開に胸が躍る。

ユーラシアの双子

大崎善生さんの『ユーラシアの双子』は、全体を切なさが覆う、壮大な長編小説だ。

シベリア鉄道に乗り、ユーラシア大陸横断の旅に出る50歳の男性、石井。彼の娘は自ら命を絶っており、妻とも離婚してしまった。悲しみの中で彼の旅は始まり、途中で出会った自殺願望のある女性を追いかける形で進んでいく。

シベリア鉄道の車内での会話が印象的だ。

「ホームの露天なんかで売っている生物は、絶対に食べないほうがいいと言っていました。腐っているものも平気で売るって。何しろ列車は一度いってしまえば二度と戻ってこないわけだから。冷蔵庫もないし、そもそも衛生の基準なんかもないし。ただ爺さん婆さんが昨日売れなかったものを、次の日、それでも売れなかったらまた次の日、という感じで持ってくるだけだからと。(略)」

一度乗ってみたいような、乗ってみたくないような…。ただ、車窓から望む風景の描写は詩的で美しく、列車での旅に出たくてたまらなくなる。

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カレーライフ

竹内真さんの『カレーライフ』は、爽快感に溢れた青春小説だ。亡き祖父が作ってくれた特製カレーの味を解き明かし、カレー屋さんを開業するために、主人公であるケンスケとそのいとこたちが世界中を飛び回るというストーリー。ハードカバーで460ページ、2段組の超大作である。

行き先は、アメリカ、インド、沖縄。青年たちのフットワークの軽さに惚れ惚れする。カレーとは、かくも人を突き動かすものか。

祖父と、祖父のカレーを取り巻く秘密が、旅の過程で少しずつ明らかになっていく様は、ミステリー小説のようでもある。旅好きの方にはもちろん、カレー好きの方にもぜひおすすめしたい小説だ。

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本を片手に旅に出よう

これまで、たくさんの“旅の本”を読んできたが、今回はその中でも、特におすすめしたい本を厳選した。読めばきっと、旅に出たくなるはずだ。旅のお供にも、ぜひこれらの本たちを連れて行ってほしい。

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東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。