「ただの偶然」のはずが、抹茶がくれた上質な時間

フリーライターというなりわいなので、ふだんから企画になりそうなトピックはないかと、インターネットを使って情報収集している。

そんなあるとき、「抹茶×VR体験」という言葉が目に留まった。

日本の伝統文化と最先端技術。その組み合わせの妙がおもしろかったからという理由もあるけれど、私のなかで「抹茶」というものへの興味が膨らんでいたタイミングだったことも大きい。

偶然できた、抹茶をたしなむ上質な時間

昨年末、推し活のために1人で大阪まで遠征した。

グッズ販売に合わせて早めに会場に着いたので、開演まで2時間ほど暇をつぶさなければならなかった。

初めて訪れる会場だったこともあり、周囲はまったく土地勘のない場所。コンサートに向けて体力を残しておきたかったので、むやみやたらと歩き回るわけにもいかず、グルメサイトの力を頼ることに。

そこでたまたま見つけたのが、本格的な日本茶を出すカフェだった。

会場から徒歩10分かからないくらいの場所にあったこと、そして店内のスタイリッシュな雰囲気にひかれ、ここで日本風のアフタヌーンティーを楽しもうと決めた。

店内は白を基調としたアートスペースのような空間で、大きな窓から柔らかい日差しが差し込んでいた。

カウンター席に座ると、目の前で大きな釜がふつふつと沸き立っている。注文が入るたび、そのお湯を使ってお茶を淹れているようだ。

抹茶ラテやほうじ茶ラテのような“普通っぽい”メニューもあったが、ここはやっぱり本格的な日本茶を味わいたい。急須で淹れる煎茶は茶葉の種類も豊富でかなり惹かれたけれど、最終的に「ふだんなかなか味わえないから」という理由で、抹茶を注文した。

このお店では、抹茶を頼むと好きな茶器が選べるという。私は、鮮やかなターコイズブルーの茶器に一目惚れして、一瞬で決めてしまった。あとから来たお客さんのなかには、しばらく悩む人もいたので、ビビッとくるものがちょうど残っていたのは、とてもラッキーだったと思う。

目の前で店員さんが丁寧に抹茶を点ててくれる。お店の雰囲気やメニューから伝わる日本茶へのこだわりに、少しそわそわしてしまった。なんだかこの空間には、周りより上質な時間が流れているように感じからだ。

そしていよいよ、濃いグリーンがきれいな抹茶が自分の前に。かつて一度だけ、茶道のマナーを習ったときの記憶をたどりながら、両手でしっかりと茶器を包み込む。一口飲むと、一気に渋い苦みが口の中に広がった。一瞬、「こんなに苦かったっけ?」と面食らってしまったけれど、一緒に頼んでいた甘いお茶請けを食べると、味わいがうまく調和した。すると、お茶のいい香りだけが口や鼻に残り、なんともいい気分に。

また一口飲むと、今度は苦みの中に豊かなお茶のうまみが凝縮されていることがわかる。「あ、おいしい…」。その後も、一口ずつ噛みしめるように飲んでいった。

とくに何をしたというわけでもない。ただゆっくりとお茶を飲んでいただけなのだけれど、とても有意義な時間を過ごせたように思う。

「抹茶×VR体験」―日本の伝統文化と最新技術

そしてここで、冒頭の話に戻る。こんな背景があって思わず目を引かれたが、はたして「抹茶×VR体験」とは、いったいどんなものなのか。

主催しているのはIKIGAI MATCHAという、オーガニック抹茶のブランド。公式サイトを見てみると、手軽に自宅で抹茶を点てられるキットが販売されていた。パッケージのデザインは、和の雰囲気は残しながらも、モダンでオシャレ。商品説明やブランドのメッセージが英語で書かれていて、日本文化を海外に向けて発信していきたいのだとわかる。

そして、「抹茶×VR体験」というのは、この抹茶体験にVRをかけ合わせたものらしい。なんでも、日本の四季折々の風景をVR映像で楽しむことができるとか。

出典:IKIGAI MATCHA

大阪・関西万博」に出展するそうだが、思えば私が抹茶に触れたのも大阪だった。そういえば、千利休は堺出身だったような気が。調べてみると、豊臣秀吉の時代から大阪では喫茶文化が根付いているらしい。とくに裕福な商家が多かった堺からは、千利休をはじめ多くの茶人を輩出しているとか。

残念ながら、東京在住の私はこの機会に「抹茶×VR体験」に参加することは叶わなさそうなのだけれど、海外の人たちが抹茶を飲みながら、あのなんともいえない上質で有意義な時間を過ごしてくれたらうれしいし、日本人として鼻が高い。

「IKIGAI MATCHA」抹茶×VR体験
[日時] 2025年4月16日 9:00〜21:00  
[場所] EXPO2025 大阪・関西万博 フェスティバルステーション体験イベントブース 
[公式HP] IKIGAI MATCHA

いつか本格的にお茶と向き合えたら…

「ふだんなかなか味わえない」と思っていた抹茶だけれど、実際は自宅で楽しむためのキットが、いろいろと売られていた。また「茶道」も、大人の趣味として人気らしい。

お茶を飲んで過ごしたあの時間は私にとって、とても印象的で充実したものだった。ただの暇つぶしだったはずなのに、文化的な体験はそれだけで価値があるんだと改めて実感している。

ちょうど今年は何か新しいことを始めたいと思っていたところ。すでに3分の1が終わってしまったのに、まだ見つけられていなかったけれど、この機会に抹茶のキットを買ってみるのもありかもしれない。

いつかもう少し時間に余裕ができたら、着物でお茶会にも参加してみたいなと、ワクワクしながら考えている。

senakondo

1990年生まれ、東京都出身。フリーランスのライター、インタビュアー。エンタメ系の記事が得意。趣味は美容と推し活。楽しいことにはいつも貪欲でありたい。