長野県上田市に家を借り、東京と信州の2拠点生活を始めてから、3年が経った。信州暮らしの楽しみのひとつは、美術館めぐりである。長野県内には多数の美術館があり、それぞれが個性豊かだ。気に入った美術館には何度も足を運んでいる。
今回の記事では、私が訪れた信州の美術館の中から、特におすすめしたい場所をご紹介する。県内でも寒冷な場所にある美術館は、冬に休館する場合も多い。春から秋にかけての信州旅行で、ぜひ立ち寄っていただきたい。
小海町高原美術館(小海町)
2023年の夏、『イン・ポライト・カンヴァセーション:礼儀正しい会話で ー社会的実践:アメリカの現代美術ー』展を観るため、小海町高原美術館を訪れた。
小海町は、標高800メートル以上の高原の町だ。安藤忠雄氏が設計した小海町高原美術館の美しい佇まいは、この落ち着いた町に調和している。美術館の隣には八峰の湯という温泉施設があり、賑わっていた。例年、冬期は休館しているため、避暑を兼ねての夏の訪問がおすすめだ。
『イン・ポライト・カンヴァセーション:礼儀正しい会話で ー社会的実践:アメリカの現代美術ー』展では、カリフォルニア州で活動している2人の現代アーティスト、アリソン・ボードリー氏とヨシミ・ハヤシ氏の作品が展示されていた。国境問題や女性の権利といった社会課題にまつわる、メッセージ性が強い作品ばかりで見応えがあった。
面白いアートは、東京だけにあるわけではない。そう確信した展示だった。また、観終わった後、受付の方に「どのように感じられましたか?」と感想を聞かれたのが新鮮で、印象に残っている美術館だ。
御代田写真美術館(御代田町)
私はアートの中でも写真が特に好きで、全国各地の写真に特化した美術館やギャラリーをめぐってきた。御代田写真美術館(Miyota Museum of Photography)は、中でもお気に入りの場所だ。
ビジュアル制作に強みを持つ株式会社アマナが手掛けている美術館であるため、“アマナコレクション”からセレクトされた現代写真家の作品が多数展示されている。それほど大きな建物ではないが、2階まで続く空間は開放感があって居心地がよい。夏に行われる、浅間国際フォトフェスティバルの会場にもなっている。
緑にあふれた公園のような敷地内には、レストランやカフェ、インテリアショップなどもあり、ゆっくりと休日を過ごすことができる。中でもお気に入りは、CERCLE plus wine & deliで、世界中の個性的なワインを手に入れられる。美術館で作品を鑑賞したあと、ここでお惣菜とワインを購入するところまでが、我が家の定番コースだ。なお、御代田町は軽井沢町に隣接しているため、軽井沢観光もセットで楽しめる。
美ヶ原高原美術館(上田市)
彫刻好きの方におすすめしたいのが、美ヶ原高原美術館だ。観光道路であるビーナスラインの終点、標高2,000メートルの場所に位置する野外美術館で、足を踏み入れると、その広大な敷地に圧倒される。
展示されている約300点の現代彫刻は、屋外ならではの巨大な作品も多く、見応えがある。晴れていると日差しは強いが、標高が高いため夏でも涼しい。一面に広がる緑に癒やされ、リフレッシュできる場所である。散歩をするようなつもりで、のんびりと作品を鑑賞したい。屋外展示場は犬連れ可であるため、愛犬家にも嬉しいスポットだ。
美ヶ原高原は霧が立ち込めやすい場所であり、私が訪れた際にも、霧によって途中から何も見えなくなってしまった。そんな気まぐれな自然に触れる体験も、なんだか楽しい。
作品の鑑賞後は、車で数分の距離にある、山本小屋ふる里館の“こけももソフトクリーム”を食べて帰るのもおすすめだ。なお、冬の間は美術館が休館となるため、訪れる前には公式サイトをご確認いただきたい。
軽井沢千住博美術館(軽井沢町)
軽井沢千住博美術館は、森の中を歩きながら作品を鑑賞するような感覚を味わえる、美しい美術館だ。建築家・西沢立衛氏が設計を手掛けた静謐な空間に身を置くと、心が洗われるような気持ちになる。
千住博氏は、ヴェネツィアビエンナーレ絵画部門で東洋人として初めて名誉賞を受賞した画家であり、その作品は国内のあちこちで目にすることができる。羽田空港国際線ターミナルで目にしたことがある方も多いのではないだろうか。
彼の代表作は、滝を題材にした『ウォーターフォール』シリーズだ。上から下に絵具を流す技法で描かれ、作品の前に立つと本物の滝を間近で見ているような迫力に圧倒される。もちろん、軽井沢千住博美術館でも本作品を鑑賞することができる。
彼の作品は、どれも大自然のエネルギーを内包している。そのエネルギーをお裾分けしてもらうため、定期的に訪れたくなる美術館だ。
水野美術館(長野市)
水野美術館(MIZUNO MUSEUM OF ART)は、長野市にある日本画専門の美術館である。横山大観や菱田春草をはじめとする、約500点の作品を収蔵している。門をくぐった先には美しい日本庭園が広がっており、別世界に迷いこんだような心持ちになる。展示室は2階と3階にあり、展示数も充分だ。
2023年に初めて訪れた際には、『横山大観展 ~語る大観、語られる大観』を観た。横山大観と、同世代の画家たちとの関係性が丁寧に解説されており、勉強になる展示だった。休日でも人が多すぎず、大家たちの作品を自分のペースでじっくり鑑賞できるのが、水野美術館の魅力だ。
水野美術館から車で15分ほどの距離に長野県立美術館があるため、時間に余裕があれば、美術館はしごをおすすめしたい。
信州アート旅のすすめ
ご紹介してきたように、信州には自然と美しく調和した美術館が多く存在する。また、美術館周辺に食事や買い物を楽しめる観光スポットが多数あるため、旅行の目的地としてもぴったりだ。
この夏から秋はぜひ、信州でのアート旅でリフレッシュしていただきたい。