夏の光をまとって書く、ガラスペンの時間

ガラスペンが3本置かれている様子。

氷の浮かんだ麦茶のグラス、窓辺で揺れる風鈴に、光が反射している。夏は、涼しげな透明のアイテムに手を伸ばしたくなる季節だ。

繊細なガラスでできたつけペンも、そのひとつ。

ひと筆ごとに光をまとい、涼をつづるガラスペンの“夏にこそ使いたくなる”魅力を紐解いていきたい。

わたしのこと

  • 年齢:30代
  • 性別:女
  • 職業:ライター
  • ライフスタイル:誰かと同居、インドア派、リモートワーク、朝型、自炊派

夏は“ガラスペン”を手に取りたくなる季節

ガラスペンが3本置かれている様子。
左:ガラス工房まつぼっくり『トライアングル スタンダード』
中:ガラス工房aun『月』
右:HASE硝子工房『ストライプ ショート』

真夏の空気に包まれた部屋の中で、わたしはガラスペンを手に取る。理由は単純で、「涼しげだから」。

ガラスペンとは、ガラスでできた筆記具。つけペンの一種で、軸からペン先までガラスで作られたものや、軸は木や陶器なとで作られ、ペン先のみがガラスのものもある。

ペン先には細かい溝が複数刻まれており、インク瓶に浸すことで毛細管現象が働き、インクを吸い上げる。ペン先を紙に近づけると、毛細管現象※によって紙に流れていく仕組みである。

※毛細管現象…液体が非常に細い管や隙間を、重力の影響を受けずに上昇または下降する現象

ペン先の構造により、インクを一度つければ数行からはがき1枚程度書ける。インクを水で洗い流せばすぐに別の色が使えるため、色遊びやインク試しにも適している。

このように、扱いやすさや機能性も兼ね備えた筆記具だが、プライベートの時間に使う筆記具は、機能性以外の魅力で選んでみたい。

ガラスペンの透き通るその姿、ひんやりとした手触り、インクがゆっくりとにじんでいくさま。まるで五感すべてで“書く”ことを味わわせてくれる。

効率ではなく、感性を大事にしたいと思ったとき。わたしはこのペンを使いたくなる。夏の光とガラスペン。その相性は思っている以上に良い。

夏を一緒に過ごしたくなる、ガラスペンの魅力3つ

夏の光を浴びると、よりいっそう輝きを増すガラスペン。ここでは、その魅力を3つの視点から紹介したい。

夏の日差しに映えるガラスペン

ガラスペンにインクをつけた様子。

ガラスペンの最大の特徴は、やはりその見た目だ透明な軸を光に透かすとキラキラ光り、美しい湖をのぞいているような気分になる。特に、夏の午後の強い日差しを受けたとき、その美しさはひときわ際立つ。

ペン先にインクをまとった瞬間の、宝石をすくったようなきらめき。使うインクによって表情も変わる。書く道具であり、飾っておきたくなる工芸品でもある。そんな唯一無二の筆記具なのだ。

窓辺でガラスペンを握れば、そこにあるのは道具以上の存在。光で書くような感覚すら覚える。

ガラスペンならではの筆記体験

ガラスペンを持っている様子。

見た目の美しさだけでなく、書き味もまた特別。軸までガラスでできたものは、手に取った瞬間にひんやりとした感触が広がる。

そして、紙の上を走らせたときの「シャリシャリ」というわずかな音。そのかすかな音に、夏の涼しさを感じるのはわたしだけではないはずだ。

ガラスペンならではの筆跡も魅力である。ガラスペンは直接インクを含ませて使う筆記具のため、インクの吸い上げ方やペン先の角度で独特の筆跡になる。ガラスペンごとの特性と自分の癖が合わさって、書いた文字に個性が宿る。

ガラスペンが教えてくれる丁寧な時間

ガラスでできた筆記具であるガラスペンは、落下などの衝撃で壊れやすい。そのため、取り扱いには注意が必要。だが、その“面倒さ”が逆に、わたしたちの所作を丁寧にしてくれる。

ペンを使う前に机を整え、インク瓶を選び、ゆっくりとペン先を浸す、この一連の流れは、日常のなかに生まれる静けさだ。ガラスという素材がもつ繊細さは、“書くこと”と向き合う時間を特別なものに変えてくれる。

ガラスペンの夏の活用アイデア5つ

実際に夏の生活の中でどんなふうにガラスペンを使うことができるのだろうか。ここでは5つの具体的な活用アイデアを紹介する。

1. お気に入りの言葉や詩を書き写す

ガラスペンで詩を書いている様子。

“水中花”や“夏の宵”、“手花火”など夏の季語を集めてみる。心に響いた言葉や、短い詩をノートに書き写す。好きな言葉や詩をノートに書き写すことで、言葉の意味をより深く考えるようになる。

完成したページを写真に撮り、SNSでシェアするのもまた楽しみのひとつ。ただし、歌詞や小説など著作権のある一節を書き写して投稿する場合、権利侵害に該当する可能性もある。引用の範囲や出典の明記に気を付けて、基本的には個人の範囲で楽しむことを心がけたい。

2. ひとこと日記をつづる

暑さの厳しい夏は、長文を書く気力がない日もある。そんなときは、1行だけの「ひとこと日記」がおすすめだ。

暑さと忙しさで、日中はあっという間に過ぎ去ってしまうもの。だからこそ、今日の気分や印象的な出来事を短くつづる。紙の上に記録することで、自分の1日がちゃんと存在していたという手応えが残る。

夏の夕暮れ、茜色の光のなかでペンを走らせれば、ほんのひととき安らぎの時間になる。

3. 手書きの暑中見舞いを書く

季節の便りを手紙で送る習慣は、メールやLINEのやりとりが中心の今だからこそ特別感がある。ガラスペンで書いた暑中見舞いは、独特の濃淡がついた線が書け、印象的なメッセージを届けられる。

送る人に合わせてインクを選ぶのも楽しい時間。万年筆やつけペン用のインクは水に弱いので、封筒の宛名書きには油性ペンや油性ボールペンを使うこと。

手間をかけて書いた暑中見舞いは、書いた自分にも送った相手にも良い夏の思い出になるだろう。

4. 涼色インクで遊んでみる

涼やかなカラーインクをいくつかそろえるのも楽しい。ターコイズブルー、ミントグリーン、ラメの入ったペールブルー、見ているだけで涼しくなる色たちだ。

点を打ってみたり、波模様や花のような図形を描いてみたり。ガラスペンのペン先の形状によっては、寝かせるように書けば面も塗れる。水を付けた綿棒でインクを伸ばしてみると、違った色合いが現れる。

自分の感性のままに色と遊ぶ時間。書くことが“涼を感じる遊び”に変わるのだ。

5. 旅のしおりや計画メモを書く

夏といえば旅。帰省や小旅行の予定を書き留めるのにも、ガラスペンを使ってみてほしい。帰省や小旅行の予定を“旅のしおり”に書き残す。訪れる場所や食べたいもの、持ち物などをリストアップ。ガイドブックのように写真を貼ったり、地図を描いたりしても楽しい。

旅行が始まる前に、ガラスペンでゆっくり文字をつづるその瞬間から、旅はもう始まっている。写真や地図に添えた文字が、わくわくと記憶の糸を紡ぎ出す。

ガラスペン初心者へ、夏のはじめの1本を

ガラスペンに興味を抱いたなら、まずは自分が「美しい」と思える一本を選んでみてほしい。お気に入りの帽子やアクセサリーは思わず毎日手に取ってしまうもの。ガラスペンも同じで、「これは素敵」と思えば毎日使いたくなる。

できれば、ガラス工房や文具店などの実店舗で試筆するのが望ましい。ガラスペンには個体差やガラス工房ごとの特徴があるので、実際に手に取って重さや書き味を確かめてほしいのだ。

そのうえで、ペン先の太さを細字や中字など用途に応じて選びたい。日記や手帳の書き込みなど細かい文字なら細字、ラメインクや絵を楽しむなら中字以上がおすすめ。また、特殊なペン先でカリグラフィーを楽しめるガラスペンもある。

「ガラスペンが壊れたら嫌だから」と机にしまい込むのはもったいない。不安な方は、修理対応してくれるガラス工房で購入してほしい。壊れたときにペン先だけ交換できる、分離型を選ぶのも一つの手。

最初の1本が、ガラスペンとの時間を長く楽しめるかどうかを左右する。だからこそ、“自分の好き”を信じて選びたい。

真夏の日差しに涼やかに透ける、ガラスペンで文字をつづて

かき氷がのったフラッペグラスのように、見た目から涼しさをくれるガラスペン。文字を書くたび、心の温度も少し下がる、そんな夏の小さな避暑のような存在である。

日差しの強い季節に、透明な筆記具をひとつ。夏の光に透かすのを楽しみながら、わたしは今日もガラスペンで文字をつづる。

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杉浦百香

ライター。女性向けや企業メディアのSEO・コラム・レビュー記事を執筆。なかでも、日用品を中心としたモノ系記事を多く担当している。左利きの文具好き。