友だちたちと別荘を買った話。

大学生のとき、毎日のように遊んでいた友だち。飲みに行く、一緒に勉強するなどの何かしらの目的があって会うこともあれば、何をするかも決めていないのに、とりあえずどちらかの家に集合して、ただただ駄弁るなんてこともあった。

それにもかかわらず社会人になると、嘘のように会わなくなった。学生時代のように気軽に会える距離に住んでいない、仕事の休みの日が違うなど、さまざまな要因はあったけれど、自然消滅みたいな感じで、数週間に一度だったのが数ヶ月に一度になり、それが数年に一度、ついにはほとんど会わなくなってしまった。仲が悪くなったというわけでもないのに、いまでは連絡をとるのも憚られるようになってしまった。

もちろん、社会人になってからできた新しい友だちもいる。でも、結末はやっぱり同じ。同じ会社にいる、近い距離に住んでいるときは頻繁に会うけれど、どちらかが転職や引っ越しをすると徐々に会う回数は減っていき、最終的には疎遠になってしまった。

いま付き合いのある友だちとも、いつかはそうなってしまうのだろうか。近くに住んでいても、結婚や出産を機になかなか会えなくなったという友だちもいる。このまま歳をとっていき、気軽に会えるような友だちが誰もいなくなったらどうしよう。

そんな漠然とした不安を抱えていたのだが、友だち数人と別荘を購入したことで、少しだけその不安が和らいだ。

ぼくのこと

  • 年齢:30代
  • 性別:男性
  • 職業:ライター、コミュニティマネージャー
  • ライフスタイル:一人暮らし、インドア派、リモートワーク、夜型

友だちからの誘いで別荘購入を検討し出す

「一緒に別荘を買いませんか?」

年下の友だちからそのように連絡をもらって、最初は戸惑った。それまでに一度たりとも家を購入するなんて考えたことがなかったからだ。

「いま何人か誘っていて、最終的には10人ぐらいで購入することになるかと!」

どこにどんな物件を買うかはまだ決まっていない。10人で100万円ぐらいの物件を買えれば、ひとり当たり10万円ぐらいで家が持てる。友だちはそのように考えているようだった。

「誰かが定住しないといけないというわけでもなく、みんなの別荘的な感じで」

100万円でどれくらいの家が購入できるのか、さっぱりわからなかったが、別荘という響きには惹かれた。

「とりあえず物件を探してみましょうか」

そうして別荘購入に興味を持つ友だちたちが5人、10人と集まり出し、みんなで物件を探し始めた。

和歌山県の山沿いにある物件を購入

不動産関係に明るい友だちがいたからか、割と早めに目ぼしい物件は見つかった。和歌山県の山沿いにある古民家。ぼくを含め購入を検討している友だちの多くは、兵庫や京都、大阪に住んでいたので、立地も悪くはなかった。それに写真を観た感じ、外装も内装も比較的綺麗で、大きな改修は必要なさそうだった。

個人的には和歌山県に家を持てるかもしれないということも非常に嬉しかった。大学生活を和歌山県で過ごしており、思い出深い土地だったからだ。一緒に家を買うメンバーにも紹介したいところがたくさんある。まだ購入を決めたわけでもないのに、胸が高鳴るのを感じた。

「一度物件を見に行きましょうか」

ぼくは都合がつかず行くことはできなかったが、何人かのメンバーが実際に物件を見に行っていた。

めっちゃ綺麗。庭もある。自然が多い。車も近くに停められそう。ご近所さんもいい人だった。悪くない、というか、ここがいい。豪華絢爛な別荘ではないけれど、年に数回ここに来て、みんなで遊ぶ分には十分だ。

そんな感想を聞いて、ぼくもその物件を購入することに賛同した。最終的に、ひとりあたり大体約15万円ぐらいで購入できたと思う。

やりたいと思っていたことを少しずつ実現

購入してからはやるべきことがたくさんあった。電気、ガス、水道、Wi-Fiなどの生活インフラの契約はもちろん、家具家電も1から揃えねばならなかった。広い庭には雑草が生い茂っており草刈りをする必要もあったし、家の中を掃除する必要もあった。

といっても、ぼくが担当したのはごく一部だけだ。多くのことは他のメンバーがいろいろとしてくれた。ひとりで家を購入していたらその全てをやらなければいけなかったのだと思うと、少しゾッとする。

家を購入してから2年が経つが、今では普通に過ごす分には何も問題がないぐらいまでになった。生活インフラはもちろん、必要最低限の家具家電も揃っている。

ただ庭の雑草だけは毎回訪れるたびに手入れが必要で、これが大変。夏場は特に草木の成長の速度がとんでもなく早い。どれだけ刈っても2週間も経てば、ぼーぼーだ。除草剤も撒いたが、それでも生い茂る。自然の力はとんでもないなといつも思わされる。

もちろん楽しいこともたくさんあって、大きいテーブルをDIYをしたり、庭でBBQをしたり。毎回恒例で近所にある川で泳いだりもしている。お隣に住む80歳を超えたご夫婦が仲良くしてくれており、先日家に招かれて夕食をご馳走になったこともあった。それに和歌山県内の観光スポットに足を延ばすときもある。

「和歌山県に家を購入したらやりたい」とみんなで話していたことを、少しずつ実現しているような感じだ。

別荘を購入したことで、旧友と再会

これは家を購入してすぐのことだったのだが、SNSに和歌山県に家を購入したこと、使わなくなった家具家電があれば譲って欲しいことなどを綴り、投稿したことがあった。すると、数年間会うことも、連絡をとることもなかったかつての友人たちからたくさんの連絡をもらうことができた。

大学の先輩、後輩、以前勤めていた会社の同僚。直接会って家具家電を受け取ったりもしたし、SNSのDMで近況を話したりもした。

中には、「ついでに飲みに行こう」と誘ってくれる人もいた。その人は大学の先輩で、卒業以来、というか大学生のときでも飲みに行ったことがなかった。

「なんで誘ってくれたんですか?」

疑問に思っていたことを素直に聞いてみる。

「いや、和歌山に友だちと家買ったって面白そうやなって。実は大学の頃から、飲みに行きたいと思ってたんよ」

思わずニヤけながら、ぼくも飲み行きたいと思ってましたと伝えると、ニヒッと先輩も笑っていた。

もう会うことはないだろうな、と思っていた人たちと別荘を買ったことでつながれたそれだけでも購入してよかったと思っている。

場には、人と人との縁を強くする力がある

何よりも、一緒に購入したメンバーたちと定期的に会えることが嬉しい。家を購入する前から飲み会などで会ってはいたが、東京都や福岡県に引っ越してしまった人もいて、なかなか会えずにいた。けれど、和歌山県の家にみんなで集まろうというときは、連絡取り合うし、都合がつけばわざわざ来てくれることもあって、縁が切れずにいる。

みんなとは、できればこのまま長く付き合い続けていけたらと思っている。きっと和歌山県の家がある間は、大丈夫だ。

じゃあ、もし和歌山県の家を何らかの事情で手放すことになったら、一緒に購入したメンバーたちとの縁も切れてしまうのだろうか。そう思うだけで悲しくなる。

でも場には、人と人との縁を強くする力もきっとある。同じ場で、同じ時間を過ごせば、太く、強い縁が結ばれて、切れることのないものになるのではないか。

だから和歌山県の家を一緒に購入したメンバー、家をきっかけに出会った人たち、再びつながった人たちとの縁もより強くしていけたらいいなと思っている。そうすれば、たとえ場がなくなったとしても、何かしらで付き合い続けていけるはずだ。

そんな希望を持って、和歌山県の家で過ごす日々を楽しめたらと思う。

佐藤純平

ライター&コミュニティマネージャー。答えのないことを、ああでもない、こうでもないと考え続けるのが好き。足の臭さと猫背が悩み。