あえての手紙。10年ぶりに恩師に手紙を書いたことでみえてきたもの

手紙を書くことが好きだ。恩師に書いた手紙がきっかけで、今は友人や親戚に頻繁に手紙を書くようになった。メールやSNSでも充分コミュニケーションがとれるこのご時世に、なぜあえて手紙を書くのか?について、少し考えてみたい。

わたしのこと

  • 年齢:40代
  • 性別:女
  • 職業:会社員(ときどきライター)
  • ライフスタイル:誰かと同居、冬はアウトドア派、出社、夜型、断然手書き派

初めて書いた手紙の記憶

4歳のとき、母から「お友だちに手紙を書いてみよう」と促され、バースデーカードを書いた。それが人生で初めて手紙を書いた記憶だ。

季節感を大切にする母だった。たとえばそれが秋だった場合、白い画用紙を栗の形に切り取り、色を塗る。そして「おたんじょうびおめでとう」と覚えたてのひらがなでメッセージを書く。春の場合、カードの形は梅だったり桜だったりした。

渡した相手は喜んでくれたのだろう。でもそのことは憶えておらず、母と一緒に書いた記憶だけが残っている。

ただ、そのおかげもあって、手紙を書くことは私の日常に溶け込んでいた。小学校の頃はバースデーカードだけではなく、日々の些細な出来事を手紙にして渡していたし、他校の友だちと文通もしていた。

しかし、中学生になると忙しくなり、手紙を書くことから徐々に遠ざかっていった。さらにはメールやSNSの普及でどんどん手紙を書かなくなっていった。

そんな私が今、恩師に手紙を書こうと思った理由

「書く仕事がしたい」という夢を思い出し、ライターになろうと決意した私は、まずライター講座を受講することにした。講座では与えられたテーマについて記事を執筆する課題が出た。講座が進むにつれ「構成はどうすればいいのか?」「この言葉を選んで本当に読者に伝わるのか?」など、考えることが増えてどんどん書けなくなっていった。

そんな書けないスランプに陥ったときに毎回思い出していたのは、小学校の担任の先生のことだった。小学生の6年間、毎日日記を書く宿題が出た。先生はいつも「おもしろかった」「楽しかった」だけではなく「なぜおもしろかったのか?」「あなたがどう思ったのか?」を書きなさいとアドバイスをくれた。今思えば、あなたしか書けないことを書きなさいという意味だったのだろう。

ライター講座が無事終了した翌日、先生にお礼の手紙を書くことにした。

「ライターを目指していること、そのために講座を受けたこと、そして、ことあるごとに先生のこと思い出していました」と書いた。

すぐに返事がきた。久しぶりの先生からの手紙は、私の記憶のままの美しい文字で綴られていた。小学生の私の印象や思い出、そして「地道に根気よく努力できるあなたは、これからライターとして芽を出していくことと思います。応援しています」と書かれていた。

返事をもらえたことはもちろん嬉しかったが、ありがとうの気持ちを伝えることができて、本当に手紙を書いて良かったと思った。

メールやSNSがあるご時世にあえて手紙を書く理由

では、なぜあえて手紙を書くのか?について、メールと手紙の違いなどをふまえつつ、深掘りしたい。

1.ゆっくり時間をかけて書く

おそらく、メールやSNSに入力するより手紙を書く方が、時間がかかる人が多いのではないだろうか。私もそのひとりだ。まず文字がきれいに書けない。最初はいつもより緊張した小さめの文字が並んでいる。

そして「こんにちは。毎日暑い日が続きますが、お元気ですか?」の時候のあいさつの後が続かない。改まって文章を書こうとすると、途端にうまく書けなくなるし、途中で「あれ?◯◯は漢字でどう書くんだっけ?」と立ち止まってしまう。

それでも少しずつ書き進めていくと、だんだん慣れてくる。最初は緊張していた字も、のびやかに大きくなっている。終わった後、かなり集中していた自分に気付き、ストレス解消にもなっていた。

2.相手を特定して書く

まず、相手によって書く内容が変わってくる。同じ旅先から書く手紙でも、その旅で何をしたか?の事実をいくつも並べる場合もあれば、旅の中でいちばんおもしろかった出来事を、なぜおもしろかったか?と深掘りして書く場合もある。相手が何に興味をもってくれそうかを考える時間も楽しい。

不特定多数を想定して書くのではなく、ひとりの人を思って書くことで、より内容が伝わりやすくなる気がする。

さらには、相手によって文体も異なってくる。先生に書くときは丁寧語で、友だちに書くときはフラットに、そして相手によっては方言が出たりもする。文体に相手との関係性が垣間見えて、書いていても楽しい。

3.手元に残る

手紙は手元に残すことができる。メールやSNSでも保存はできるが、読み返すことは意外と少ないと感じる。

手紙をもらうと、すぐには捨てずにしばらく保管しておく。返事を書くときにもう一度読むし、その後も何度か読み返す。私は今までの人生でもらった手紙は一枚も捨てることなく手元に大切に置いてある。当時の相手の気持ちをもらったと思うと、気軽に捨てることができない。

手紙を書き続けて気付いたおもしろさ

考えながら書くから、思ってもいない方向に話題が進む

手紙は、メールなどに比べて思考を深めながら書けるものだと思う。たとえば、離島を旅したときに書いた手紙を例に挙げてみる。

「空一面に広がる星を見たよ。普段は見えてないだけで、本当はこんなに星が存在してるんだよね」と書いた後に「光の少ない離島は、夜の楽しみ方が変わるね」と続けた。

ほとんどスマホも触らず、テレビも見ず、蛍がぼんやり光るのをただ眺めて、シークワーサーを絞った泡盛を飲む。同じ宿の人と「流れ星が見えるといいですね」と語らう。そんな日々を送ったことを思い出して付け加えた。

私、こんなこと感じていたんだ、と自分でも気付かなかったことに気付くのがおもしろいし、じっくり時間をかけて考えながら書くことができるのも手紙の良さだ。

タイムラグがある

メールは瞬時に届くが、手紙は届くまでに時間がかかる。その分、届いたときは、書いたときとは状況が変わっていることがあるかもしれない。

以前、旅行をしたときに友人に宛てた手紙には「明日はシュノーケリングのツアーに参加します。昨年は見られなかった海亀に出会えたらいいな」と書いた。

翌日、海亀を見ることができたので、手紙が届く頃には、私は実際には海亀に出会えたことになる。書いた時点と、相手に届いた時点では状況が変わっている。

もし、シュノーケリングの後に手紙を書いていたなら「海亀に出会えて、少しの間一緒に泳ぐことができたよ。1年越しの夢がかなったよ」と書いただろう。

次に同じ友人に手紙を出すときには、そのことはきっと忘れているから書かない。今この時しか書けない、出会えない感情がある。文章にも一期一会があるのだと思う

便箋やハガキを選ぶ楽しさ

相手のイメージに合う便箋や封筒を選ぶ時間が本当に楽しい。これこそが手紙を書く醍醐味だと思うくらいだ。

今では100円ショップでもかわいい便箋がたくさんある。もちろん文房具店に行って、色や柄や紙質にこだわった逸品を選んでもいい。

季節感がある便箋や封筒は特別感が増すし、切手がかわいくてもまたテンションが上がる。

旅先のお土産屋でレターセットやハガキが置いてあると思わず購入してしまう。郵便局があればつい立ち寄ってご当地切手がないか探してしまう。

旅先の消印はこれまた特別感が増すし、ハガキをお土産にすることもよくある。かさばらないし、軽いし、お土産には最適だと思っている。

手紙を書く効果

手紙を書くためには、出来事を振り返り、相手に伝えたいことを考え、言語化する必要がある。相手を思いながら書いているが、実際は自分への内省にもつながっている。手紙を書いていると妙に心が落ち着くし、達成感もある。結局は自分のために書いている

手紙は、どの便箋に、どの筆記用具で書くか?にはじまり、書く内容を決め、実際に文字を書き、宛名を書き、封をし、ポストに投函、いう一連の作業が伴う。そのトータルが一種の作品ではないか?とさえ思ったりもする。

手紙がポストに入っているだけで、嬉しくなる。手紙を書いた方ももらった方も、幸せな気分になる。

手をかけた分、思いがより伝わるといいなと願っている。

小雪

晴れた日は「こんな日にスキーしたいな」と思い、雨の日は「これが雪だったらな」と願うスキー愛好家。普段は会社員として働きながら、ライターとしてのパラレルキャリアをスタート。興味ある分野は離島(沖縄メイン)・旅行・グルメ・喫茶店など。