じんわりご機嫌になれる生活の音

街を歩けば、多くの人がイヤホンをしている。音楽やラジオなど、何かしらの音や情報を取り入れて、気持ちを高めたり整えたりしているのだろう。

私もよく音楽を聴くけれど、時々その音の多さに疲れることがある。そんなときは、ぼーっと耳をすましてみる。いつもの生活のなかから、自分をご機嫌にしてくれる音を探す
そうすると、風の音や鳥の声など自然が織りなす音はもちろん、自分の周りのちょっとした音にも気づくことができる。

動画サイトを開けば、推しの動画も流行りの音楽も、自律神経を整えるとされるヒーリング音楽もすぐに聴けるけれど、生活のなかにも素敵な音がたくさんあるのだと嬉しくなる。

今回は、そういう音の数々に意識を向けてみたい。

初めて見つけた、お気に入りの音

実家がある場所は、山と川ばかりの田舎なので、人や車の音は少ない。風で木々が揺れる音や川の水が流れる音、虫や鳥が鳴く声と、18時に鳴る爆音サイレンが日常の音だった。

小学生の頃は、スマホはもちろん、音楽プレーヤーも持っていなかったので、音楽を聴くのは、歌番組を観るときか親の車に乗ったときくらい。そんななか、自分の意思で選んで聴けるお気に入りの音を見つけた。

それは、ランドセルに教科書を入れるときの音。本棚から必要な教科書を選び取り、1時間目から順に並べて束にして、ランドセルに滑り入れたとき『ストン』と気持ちいい音がする。

明日の自分のためにキチンと支度をしているという、ささやかな誇らしさもあった。
宿題が上手くいかなかった日も苦手な授業がある日も、この音を聴くと、ちょっと頑張ってみるかという気分にさせてくれるのだった。

今も昔も、じんわりご機嫌になれる音

トントン…まな板で食材を切る音

キッチンから聴こえる音はいくつもあるけれど、結局これが一番かもしれない。
トントントン…これからどんな料理が作られるんだろうという期待感。たくさんの美味しいごはんを作ってくれた両親の姿を思い返して、懐かしい気持ちにもなる。

自分で料理をするとき、リズムよく切ることができると、なんだか得意げな気持ちになって、もう1品作ってみようかなどと調子が乗ってくる。

プラスチック製から竹製のまな板に変えたことで、さらに好きな音になった。キュウリやニンジンなど、少し硬さのある食材を切るときの音がなんとも心地よい。

シュワシュワ…コップに注いだ炭酸が弾ける音

仕事中も休みの日も、家にいるときは常温の水を飲むことが多いのだが、時々スッキリしたものが欲しくなる。そういうときこそ、炭酸飲料の出番だ!

容器から直接飲んでもいいけれど、きちんとグラスに注いで、少し眺めてみる。小さい泡がいくつも浮かび上がって、水面でパチパチと跳ねている。耳をすませると、シュワシュワパチパチ…まるで小さな魚が泳ぎ回っているかのような音が聞こえてくる。

目と耳でひと通り楽しんだら、グビッとひと口。弾けるような飲み心地が、さらなる爽快感をもたらしてくれる。ちょっと気分転換したいときにぴったりな、お気に入りの音だ。

バサッ…洗濯物のシワを伸ばす音

基本的に家事は面倒臭いと感じるけれど、洗濯物を干す行為は好きなほうだ。まず洗濯物を干せるということは、天気が良い日ということ。青空の下、洗い立ての衣類を干す時間は、とても健康的に思えて、気分がいい。

干す前には、シワを伸ばすために両手で持ってバサッと振りさばく。その音の潔さとシャンとした様子の衣類を見ることで、さっぱり&スッキリした気持ちになる。また、“家事を頑張っている自分”を具現化してくれる気がして、さらにご機嫌になるのである。

ガコンッ…ポストに物が届いた時の音

家で仕事をしていると、席と立つ用事も少なく、気づけば何時間も座りっぱなしなんてことが常である。パソコンの動作音やエアコンなど、長時間鳴り続けている音はいつしか意識に溶け込んで、聞こえていないも同然になってくる。

そんななか、ポストに物が届いたときのガコンッという音が、イレギュラーに飛び込んできて、パソコンのなかに吸い込まれていた私の意識を、今この場所へと連れ戻してくれる

ポストに投函したときの音や、配達員の人が階段を降りていく足音をもとに、なにが届いたのかを予想する。ネットショッピングをしていれば、買ったものが届いたのではとワクワクしながら、確かめるために席を立つ。
気分の切り替えと椅子から立ち上がるきっかけになってくれる音である。

イヤホンを外して、耳をすませば

子どもの頃から変わらずあり続けてくれる、生活の音。生活様式の変化による多少の違いはあれど、流行り廃りという概念は存在しない。

仕事や勉強の合間でも、ちょっと周りに意識を向けるだけで聴こえてくる。音に気づけたことにも嬉しくなり、その心地よさにじんわりご機嫌になってくる。

あなたをご機嫌にさせる音はなんだろう?椅子に座ったままでもいいし、部屋を歩いてみてもいい。少し散歩に出るのもよさそうだ。ぜひイヤホンを外して、耳をすましてみてほしい。

あなただけの心ときめく音に、出会えますように。

くにさわめい

清流・四万十川のある高知県生まれ。 前職は旅行メディアの編集・ライター。現在はマンガ編集者として働きながら、複業ライターとしても日々奮闘中。好きなジャンルは、フードエッセイと街歩き記事。とにかく外へ出て、おいしいものやきれいな風景、その場所の匂いや音に触れるのが好き。