留学カウンセラーとして働くことのおもしろさ

“留学カウンセラー”。
22~26歳の約4年間、私が勤めていた職業だ。

日本ではまだまだ知名度の低い、とある国を専門とした留学エージェントに勤めていた。
ここでの経験はとても思い出深く、今振り返っても「いい時間を過ごしたな」と感じている。

下心からはじまったきっかけ

留学先での風景

私が留学カウンセラーになったきっかけは、正直にいうと“海外出張に行けるかも”という下心だった。
とにかく海外旅行が好きだった私は「仕事で海外に行けたらいいなー」くらいの軽い気持ちで仕事に応募した。

留学カウンセラーという職業を聞いたこともなかったので、何をするかもわからない状態だった。

いざふたを開けてみたら、他人の人生を左右するかもしれない重要な役割であることを知り、不安とプレッシャーを感じていたのを覚えている
大学を卒業したばかりで人間としてまだまだぺーぺーだった私が、他人の人生の相談役になるとは思わなかった。

だからこそお客様ひとりひとりと真剣に向き合い、思い出深い時間を経験できたのだろう。

“人生深掘り系”カウンセリング

ローカルのスポーツチーム

留学カウンセラーはとても素敵な職業である。
人の夢を叶えるお手伝い、人生を豊かにするお手伝いができるからだ。

主な仕事内容は留学の問い合わせをしてきた方に対して、語学学校や滞在先の手配や留学内容のプランニング、現地での生活をサポートをすること。

だが当時勤めていた会社は少し変わっていて、プランニングや手配以前に“カウンセリング”を重視していた。
一般的に留学のカウンセリングといえば「どこの国に行き、どれくらいの期間滞在したいのか」といった希望を聞くこと。

しかし、私たちがやっていたのは少し特殊な“人生深掘り系”カウンセリングだった。
ときにはお客様の人生の“過去、現在、未来”を徹底的に掘り起こすこともあった。

勤め始めの時は「そこまでする必要ある?」と疑問を抱いていたこともある。

このようなカウンセリングをする理由は、お客様に留学に行くことを決心させるためだった。

というのも実は留学の問い合わせをくれる方の内、“留学に行くことを既に決めている”人は約3割のみ。
残り半分以上は「留学に行くことを決めていない(行くことを悩んでいる)」のだ。

その悩みにしっかり向き合うことで、お客様に第一歩を踏み出させるのが私たちの最初の業務だった。

自分自身の勉強の一環として、自分がお客さんになりいくつかの会社の留学カウンセリングを受けたことはあるが、“人生深堀り系”カウンセリングをする会社はひとつもなかった。

カウンセラーとしての使命

私はその頃、年間約120人のお客様をカウンセリングしていた。
16歳~70歳まで幅広い年齢の方とたくさん会話を重ねてきた。

「大学を休学していくか卒業して就職前に行くか悩んでいる」
「留学に行く理由が曖昧な気がして、行ってもいいのか分からない」
「年齢的に留学から帰ってきてから就職できるのか不安」
「留学に行きたいけど、お金がない」
「婚約者が反対しているから悩んでいる」
「自分を変えるために行きたいけど意味があるのか分からない」

お客様の悩みは十人十色で、人それぞれ抱える悩みは年齢や性別によっても大きく異なる。

大げさかもしれないが「もしかしたら私のアドバイスのせいでその人の人生が悪い方向に行くかもしれない」という思いが常にあった。
だからこそ適当なカウンセリングはできないし、営業職ではあったけど自分の成績は後回しにその人にとって本当にいいと思ったアドバイスだけをする。

絶対にマイナスな方向へは行かせないようにするのが私の責任だと感じていた。
(不思議なことに営業成績も自然とついてきたので、上司には怒られずに済んでいた。笑)

幸せを感じる瞬間

カウンセリングは何度も行うし、そのあとは留学に行って帰ってくるまでサポートが続く。
短ければ1ヶ月ほど、1番長かったお客様で約2年。

基本的に長い付き合いになるので、必然的に距離が近くなり愛着が湧いてくる。
そしてお客様だけど、どこか保護者のような気持ちになることもあった。

自分のお客様が大好き

留学生行きつけのピザ屋

自分が担当したお客様の中でも強く記憶に残ってる人がいる。

「英語を学びに留学に行きたいけど行くべきかどうか悩んでいる」と相談があったので、カウンセリングをしていくも「こうするのはどうですか?」というと「でもそれって…」。
「じゃあ、こうしてみては?」「それ意味あるかなー?」こんなやりとりの繰り返し。

“人生深堀り系カウンセリング”の結果、恐らく不安が大きいけど、それを素直に言えない性格であること、「英語を学びたい」というのは建前で、自分自身に変化が欲しいのかな?と分析した。

きっと私が何を言っても何も進まないと思い、
「留学に行きたいと思ったらその時にまた連絡してきてください」とあえてその場で決断を促さず、一度持ち帰っていただくことにした(絶対にまた連絡をくれるだろうと信じていた)。

そして数日後に連絡があり、もう一度カウンセリングを行うことになった。

ジュースを2本持ってきて「この間はすみません」と照れくさそうに笑っていたお客様がかわいらしかったと思ったのを覚えている。
そこから少しずつ心を開いてくださり無事留学が決定した。

私が感動したのは、留学を終えて会社に会いにきてくれたときのお客様の変わりようだった。

はじめて会ったときはあまのじゃくな感じだったのに、とても素直に感情を伝えてくれるようになっていた。
さらに顔つきも変わり、ポジティブなオーラまで感じられた。まるで人が変わったようだった。

話を聞くと、留学生活が本当に楽しかったようで、同じ時期に過ごしていた生徒からもいい刺激を受けたとのこと。
そして「サポートをしてくれてありがとうございました」と伝えてくれた。

まさにこれだった。

留学へ行った選択肢がその人の人生を豊かにできたと実感できたこと。
自分のお客様が幸せそうな姿を見ること。
これこそ私が留学カウンセラーとして一番うれしい瞬間だった。

お客様をサポートしているつもりだけど、お客様からもパワーをもらっていたのは間違いない。

私は自分のお客様が大好きだったのだ。

留学カウンセラーとして伝えてきたこと

私たちが案内していた留学先の景色

留学カウンセラーとして伝えてきたことはたくさんあったけど、
自分のお客様にはよく「やりたいと思ったら、やれる方法を探せばいい。」と伝えていた。
悩みは解決策を探せばいい。挑戦したい気持ちを大事にしてほしかった。

そして、「ただ留学するだけ」では自分は変わらないこと。
留学は自分が変わるきっかけを作るだけで、変わるかどうかは自分の行動力次第であること。

だからこそ、未来(留学後)の自分がどうなっていたいのかを私たちはカウンセリングで深堀りし、そのために何をする必要があるかを一緒に考える。

“Imagination means nothing without doing(行動を伴わない想像力は、何の意味も持たない)”
『チャップリン』のこの名言は、お客様への留学計画書の最後にいつも綴っていた。

南かいり

離島やビーチリゾート系のトラベルコーディネーターとして働きながら、現在はライターとして挑戦中。旅と海を愛し、隙あらばどこかへ飛んで行きます。「日焼けは化粧」が合言葉!