あの子を迎えてからわたしの暦が変わった。愛猫家として感じた「あべの 猫ごよみ展」の魅力

「この子、売り物にならないそうなんです」

そう言って、ふわりとその子を抱きかかえていたのは、長年お世話になっている動物病院の先生。
生まれつき心臓に疾患があるからと、ペットショップでは引き取り手がつかない子。まだ生後半年ほどだった。

その子は先生のもとで保護され、ある日、わが家にやってきた。
すでに先住猫がいたわが家で、新しい家族として迎えてからというもの、毎日が少しずつ、やさしく変わっていった。

撮影:おだりょうこ

猫と暮らすことの意味。
そして、出会うという奇跡。

そんな私の“猫との時間”を思い出させてくれるようなイベントが、もうすぐ始まる。
それが、アートイベント「あべの 猫ごよみ展」だ。

猫、アート、そして支援がやさしくつながる展覧会

出典:NPO法人CATS WELCARE

展覧会が開かれるのは、大阪・阿倍野の古民家カフェ「ホーリーハウス」。
ここは、保護猫団体・NPO法人CATS WELCAREが運営するカフェ&保護ねこルームだ。2019年に任意団体として発足したCATS WELCAREは、2023年にNPO法人化。多頭飼育崩壊や高齢者の入院・死去によって行き場を失った猫たち、地域で迫害される野良猫たちの保護・譲渡に取り組み、これまでに300匹以上の命を新しい家庭へとつなげてきたそう。

「保護猫=特別な人だけが関わるもの」という敷居の高さをなくしたい—。

そんな思いから、2025年春、新たなコンセプトの保護ねこ施設としてホーリーハウスが生まれた。今回スタートする「猫ごよみ展」は、作家の個展を月替わりで開催する新しい取り組み。作品の販売収益の一部は、保護猫たちの飼育費に充てられる。

アートを楽しみながら、さりげなく猫たちの暮らしに寄り添える。
それを「特別なこと」と構えすぎずにできるというのが、すごくいいなと思った。

展示を見て、カフェでお茶を飲み、2階の保護ねこルームで甘えん坊たちとふれあう。
“楽しむ”ことがそのまま“支援”になるって、ちょっと理想的じゃない?

記念すべき第1回は、ちかきみさとさんの世界

©ちかきみさと

第1回目を飾る作家は、イラストレーター・ちかきみさとさん。
ふわりとした線と、レトロな色合いで描かれる猫たちは、懐かしくて、あたたかい。公式ページで見た作品の一部だけでも、猫と暮らす人間ならだれもが経験したことのある“あの瞬間”が詰まっているように思えた。

©ちかきみさと

静かなのに、心の中では大きな声で鳴いているような絵たち。
この作品たちを、あの古民家の空間でじっくり眺めたら、私の中の何かがほどけてしまいそうな気がする。

猫、美食、アートがひとつに。五感で楽しむ「猫ごよみ」

出典:NPO法人CATS WELCARE

展示販売が行われるのは、ホーリーハウス1階にある「自然派ごはんのお店〜夏目」。扉を開けると、どこか懐かしくて、静かに癒される空間が広がっている。

和庭園を眺めながら、猫作家の作品をゆっくり鑑賞し、身体にやさしいランチや、名店「しづく」の和菓子を楽しめるなんて…。
これが“展覧会”であることを忘れてしまいそうになる。

出典:NPO法人CATS WELCARE

アートも、猫とのふれあいも、食も、すべてがやわらかくつながっている。そんな空間で過ごす時間そのものが、支援であり、癒しであり、自分を整える手段にもなる。

「観る・触れる・味わう」。
この展覧会には、五感をまるごと満たしてくれる要素が詰まっているのだ。

「売り物にならない」と言われた子が、今はわたしの宝物

撮影:おだりょうこ

うちに来たあの子は、月1回の経過観察は必要だけれど、今のところ順調に育っている。先住猫の寝床を横取りして叱られたり、ニャンズプロレスという名のじゃれあいも日常茶飯事。ごはんの前にはすり寄ってきて、食べたあとにはひとしきり自慢げに喉を鳴らす。

“売り物にならない”とされたその子が、私の世界では、大事な存在になっている。
ときどき、それにふと気づいて、泣きそうになる。
そして思う。
売り物の命より、ずっと価値のあるものを、私は抱きしめてるって。

だからこそ、猫の個性を見つめて、支える場所があることが、何よりうれしい。
そのやさしさを形にしてくれるのが、「あべの 猫ごよみ展」なのだと思う。

猫と暮らすようになって、時間の流れ方が少し変わった。
暮らしのテンポも、季節の感じ方も、猫の呼吸に合わせてゆるやかになる。
「猫ごよみ展」という名前には、そんな“猫と暮らす暦”のようなリズムが込められているのかもしれない。

まだ見ぬ作品と、まだ出会っていない猫たちに会いに

出典:NPO法人CATS WELCARE

展覧会初日となる7月13日(土)には、2階の保護ねこルームにて譲渡会も開催される。
新しい家族との出会いを待つ猫たちにとって、大切な一日。猫たちのまなざしに触れ、「迎える」という選択肢をそっと心に置いてみる。そんなきっかけになる日になるかもしれない。

出典:NPO法人CATS WELCARE

展示作品も楽しみだけれど、会場で待っている保護猫たちにも、きっと何かを感じさせられるのだろう。
見守るだけでもいい。一緒に遊んでみてもいい。ふとした仕草に、だれかの“新しい暦”が始まる瞬間があるはずだから。
私は、そんな瞬間にそっと立ち会いたくて、この展覧会を心待ちにしている。

あべの 猫ごよみ展(第1回)
作家:ちかきみさと
日程:7月13日(日) 〜8月3日(日) ※月曜日定休、7月21日営業、22日休業
※7月13日は「譲渡会」開催日のため、2階保護ねこルームは里親希望の方のみの利用
時間: 11:00 – CLOSE 18:00
住所:大阪市阿倍野区三明町1丁目8-26
最寄駅:河堀口駅徒歩4分/天王寺駅徒歩14分/美章園駅徒歩8分

※予約不要・ワンドリンク制
※作家在店日 7月13日(日)12:00~17:00、8月3日(日) 12:00~18:00

問い合わせ・予約 保護ねこルームCATS WELCARE あべの店
TEL|06-6654-4060
MAIL|cwc@catswelcare.org

会いに行くことで始まる、やさしい時間

出典:NPO法人CATS WELCARE

猫と出会って、猫と暮らして、時間がやわらかくなった。それは、日付や時計では測れない、心の中の“暦”のようなもの。

「猫ごよみ展」は、そんな時間を持っている人にも、まだ持っていない人にも、やさしく開かれる。
もしかすると私は、あの日、あの子に出会ってから、この展覧会のような世界をずっと探していたのかもしれない。

おだりょうこ

猫と旅、音楽と映画で形成されたライター&エディター。旅欲が止まらない旅ジャンキー。雑誌編集、テレビ局勤務を経てフリーランスに。料理は作るの食べるのも得意だったりする。