たまたま眺めていたInstagramのリール動画で、シーリングスタンプを作っている様子が流れる。粒状だったシーリングワックスが、ろうそくの熱で溶け出して液体になり、台に垂らして丸いスタンプになる。さまざまな形に変化する姿は、まるで魔女が魔法の薬を作っているよう。
「わたしもやってみたい」
衝動を抑えきれず、気がつけばわたしはネットでシーリングスタンプの道具を一式購入してしまったのだ。これもシーリングスタンプの魔法に違いない。それからというものの、わたしは時間を作っては、夜な夜なシーリングスタンプを作るようになった。
わたしのこと
- 年齢:30代
- 性別:女
- 職業:ライター
- ライフスタイル:誰かと同居、インドア派、リモートワーク/コラージュが好き
シーリングスタンプが身近になった
温めたろうを垂らして、スタンプを押す「シーリングスタンプ」。もともとは、手紙や文書を封じるためのアイテムだ。今では作ること自体を楽しんだり、ラッピングやコラージュの素材として使われたりしている。シーリングスタンプを作るためには、道具をそろえなくてはいけないが、専門店や大きな文具店など取り扱っているお店が限られていた。
ところが、ここ数年の間で、シーリングスタンプを取り扱うお店を多く見かけるようになる。文具店やバラエティショップはもちろん、100円ショップでも道具がそろうのだ。コロナ禍のタイミングでおうち時間ができて、シーリングスタンプをはじめた人も増えた。だからこそ、取り扱うお店も増えたのだろう。
わたしもブームに乗って、シーリングスタンプにハマってしまった。とはいえ、準備や時間がそれなりに必要なシーリングスタンプ。日々の仕事や子育てに追われながら作るのは、大変なときもある。それでも作りたくなってしまうのだ。
わたしにとってのシーリングスタンプの魅力3つ
シーリングスタンプを作りながら、わたしにとってのシーリングスタンプの魅力を3つ語らせてほしい。話し終わるころには、シーリングスタンプが完成しているはずだ。
1.シーリングワックスが溶けている様子は癒される
ろうそくをセットしたシーリングワックス炉の上にスプーンを置く。シーリングワックスを一粒ずつスプーンにのせる。しばらく待つと、シーリングワックスがじんわり溶け出してきた。
最初に、シーリングワックスの輪郭がうっすら溶けた姿にワクワク。次に、形をなんとか保っている姿にウキウキ。最後に、完全に溶けた姿にうっとり。短時間で繰り広げられるシーリングワックスの質感の変化に、わたしは心奪われてゆく。
単色で作るのもいいが、さまざまな色のシーリングワックスを使ったときは、色の変化も楽しめる。違う色同士が溶け合いスプーンに納められた様子に、「このままにしようか?それともマーブル状に混ぜる?いや、完全に混ぜてもいい色になりそうな気がする…」と、迷う時間も楽しくなってしまう。
質感や色の変化が大きいシーリングスタンプは、作る過程も癒されるのだ。
2.シーリングスタンプを作ると頭の中がすっきりする
シーリングスタンプを作るときは目が離せない。ろうそくの火や電気炉で、シーリングワックスを高温に熱するので、安全に気を配らなくてはいけないのだ。そのうえ、シーリングワックスを温めすぎると沸騰してしまい、スタンプを押したときに気泡が入りやすくなってしまう。
安全面という理由はもちろん、シーリングワックスが変化する姿は魅力的で、片時も目を離したくない。スプーンからワックスを垂らしたとき、とろりとした質感の美しさに思わず息を止めてしまう。そんなとき、わたしはシーリングスタンプの世界に入り込んでいる。
ひとつの作業に没頭する時間は貴重だ。なにしろ現代の必需品、スマートフォンはながら作業にうってつけのアイテム。ご飯を食べながらスマートフォンでSNSを巡回し、食器を洗いながら音声配信でニュースをチェック。わたしが日常でやりがちな行動である。タイムパフォーマンスは高そうだが、ひとつひとつの作業の満足度は低いようにも思える。
また、わたしは作業をしながらさまざまなことに考えを巡らせがちだ。家族のこと、家事のこと、仕事のこと…同時にやらなきゃいけないことを考えては、頭の中をぐちゃぐちゃに散らかしてしまう。
そんなとき、ひとつの作業に集中せざるを得ないシーリングスタンプ作りは、日常でバラバラになりがちな意識を今ある場所にまとめてくれるのだ。シーリングスタンプ作りに集中した後は、不思議と頭の中もすっきりする。
3.シーリングスタンプ作りは偶然できたものが正解になる
シーリングスタンプ作りは、完成までの過程にたくさんの選択肢がある。シーリングスタンプを押すための印面である、シーリングスタンプヘッドを選び、シーリングワックスの色を選ぶ。使うアイテムの組み合わせによって印象ががらりと変わるのだ。
アレンジを加える、という選択肢もある。シーリングスタンプが冷めてしまう前に、金箔やラメパウダーをのせてアレンジすれば華やかに。シーリングスタンプに金や銀のペンで色をつけることで、高級感のある仕上がりに。シーリングスタンプは、自由な発想で楽しめるのだ。
完成したシーリングスタンプに同じものはふたつとない。器用な方は同じようなシーリングスタンプを作れるが、それでも少しずつシーリングワックスの色合いやスタンプの押し具合が変わってしまうものだ。わたしは、そんな偶然の作品ができるシーリングスタンプに魅力を感じている。
シーリングワックスにスタンプを押す瞬間はドキドキする。シーリングワックスを丸くなるように垂らしたつもりでも、室温や押し具合などさまざまな条件で、ゆがんだ形になるときもある。シーリングスタンプが狙って丸く作れたときはうれしいし、ゆがんだ曲線もかわいらしいとも思う。
できあがりが気に入らないときもあるが、決して間違いではない。シーリングスタンプ作りは偶然できたものが正解になるのだ。それは、仕事やプライベートで常に答えや見習うべき正解を意識しているわたしにとって救いのような気がしてならない。
職種にもよるが、クライアントにとっての正解、エンドユーザーにとっての正解、仕事では、正しい答えを導き出して行動している。それが、仕事のおもしろさでもあるのだろう。プライベートではSNSで、他人の理想的な生活が見えるようになった。
仕事の時間もプライベートの時間も、答えや見習うべき正解と常に隣り合わせであるせいで、たまに息が詰まりそうになる。そんなとき、わたしにとって、自由に作り偶然の仕上がりを楽しむシーリングスタンプは、一種の清涼剤のようなアイテムなのだ。
シーリングスタンプはわたしのリセットボタンだ
シーリングスタンプ作りで、わたしがもっともテンションが上がる瞬間は、スタンプを外すときだ。今まで見えていなかったスタンプの凹凸が顔を出す。毎回違う表情を見せるシーリングスタンプとの出会いは、いつだって新鮮な気持ちにさせてくれる。
スマートフォンの登場で、新しい情報が常に入り、SNSで外部と繋がり続ける生活になった。そのため、オンとオフの時間が曖昧になり、スイッチが入りっぱなしになってしまう。だからこそ、作っている工程に集中できるシーリングスタンプの時間に癒されるのだろう。わたしをリセットしてくれるもののひとつ、それがシーリングスタンプなのだ。