本と音楽、旅と音楽

読書をするときに、よく聴くプレイリストやアルバムがある。読む本に合わせて、聴くジャンルやアーティストを変えることもある。たとえば、「切ない恋愛小説だから、このアーティストのアルバムが合いそう」といったように。

旅をするときにも、音楽は欠かせない。峠道のドライブで。新幹線や飛行機で。目にした景色に寄り添ってくれる曲を探すのは楽しい。選んだ楽曲が旅情をかきたて、その旅をさらに印象深いものにしてくれる。

今回は、読書と旅の時間に、私が選んできた曲たちのことを書きたいと思う。

読書空間を彩る曲たち

切なく、暗い小説が好きだ。おのずと、読書中に聴く曲も「これは切なすぎる」と感じる曲を聴くことが多い。私にとって小説は集中を保ちやすいので、日本語の曲でも読書の障りになることはあまりない。

読書に集中してしまえば、あまり音楽を意識することもないのだが、曲が纏う雰囲気は小説の世界の中にじわりと染み込んで、読書体験を豊かにしてくれる。本を読みながら「なんか物足りないな」と顔を上げると、音楽をかけていなかった、ということは多い。

最近、切ない青春小説を読むときによく聴いているのは、カンザキイオリさんの『不器用な男』というアルバムだ。彼の曲はストーリーが厚く、叫びのような歌詞が胸を打つ。曲の持つ切ない世界観が、青春小説への没入を促してくれる。

書かれていることの意味を解きほぐしながら読み進めなければいけないような、難解な本に挑戦しているときは、日本語の曲だと集中が削がれることがある。その場合、最近はフレンチポップ、つまりフランスのポップスを流している。

最近の人気曲は、暗く切ない調子の曲が多く、テンポは遅すぎないのでクールでもある。フランス語の発音も美しい。Apple Musicでのおすすめプレイリストは、『フレンチヒッツ』『最新ソング:フレンチポップ』など。VittaMaëlleのアルバムもよく聴いている。

「フランス語ですら集中の妨げになる」というときのおすすめは、『読書にどっぷり』というプレイリスト。まさにその名の通りではあるが、エレクトロニックミュージックの心地よい音が空間を満たし、驚くほど読書が捗る。

ごくたまに、読んでいる小説に聴いている曲がバチッとはまることがある。曲調も、歌詞の内容も。私の場合、それは辻村深月さんの小説『子どもたちは夜と遊ぶ』天野月さんの曲『花冠』で起きた。曲を聴くと、小説のさまざまなシーンが切なさを伴って押し寄せる。さながら、テーマソングのようだ。

皆さんも、そんな本と曲の組み合わせをお持ちだろうか?

旅のBGMの選び方

毎年、北海道の広大な大地をドライブする。「大自然の中でどんな曲をかけるか」は重要な選択だ。眼前の風景にマッチした曲を流せば、まるで自分の旅が映画の1シーンのように感じられる。

曇天の日は、あまり迷うこともない。AVAWAVESのアルバムから旅が始まる。Spotifyの『Classical X』というプレイリストで見つけたアーティストだが、まさに映画音楽のようなスケール感、疾走感、やや暗い曲調が曇り空の下のドライブによく合う。

雨の日のドライブでは、もう少し静かな曲を選ぶ。繊細で物悲しいピアノ曲がいい。窓ガラスを叩く雨音が、曲に調和する。最近のお気に入りは、ギリシャ出身のアーティスト、Zinovia Arvanitidiだ。

よく晴れた日には、トロピカルハウスを聴くことが多い。海辺で聴きたくなるような軽やかなサウンドに気分が浮き立ち、どこまでも行ける気がする。プレイリスト『トロピカルハウス ベスト』がおすすめだ。

夕暮れ時の音楽というと、連想するのは野外フェス。10年前から通い続けているフジロックフェスティバルでも、印象に残っているのは日が沈む直前のステージだ。橙色に染まった広い空に、ロックバンドのサウンドが溶けていく。

最近、夕暮れ時によく聴くのは、UKのロックバンドPalaceのアルバムだ。コーチェラ2024に出演しているのを配信で見かけて知ったバンドで、そのローテンポでチルな楽曲には「野外フェスで聴いたら、さぞ心地よいだろうな」と思わされる。陽が落ちて、どことなく寂しさを感じる時間帯によく合う音だ。

夜、夜景が美しいドライブシーンで聴きたくなるのは、『レイトナイト・ドライブ』というプレイリスト。ディープハウスやプログレッシブハウスなど、洗練されたサウンドが詰まっており、再生すると伸びやかな高揚感に包まれる。深夜、首都高から旅が始まるようなときは、大抵これを聴く。夜がいつまでも続いてくれるような、幸福感に満ちたスタートが切れる。

列車で旅をすることは、最近はあまり多くない。ただ、昔よく列車旅で聴いていた曲を流すと、途方もない質量のエモさに押しつぶされそうになる。人それぞれ、忘れられない“旅曲”はあると思うが、私の場合はスピッツの『楓』がそれにあたる。懐かしいメロディを聴きながら、車窓からの風景を眺める時間はいい。

音楽で世界を上塗りする

世界は、視覚情報で満ちている。本を読むときも、旅をするときも。そこに音が加わると、世界はさらに立体的に色づく。聴く音楽を選ぶことは、世界の受け止め方を選ぶことだとも言える。

私は、悲しくて切ないものとして世界を受け止めたい。だから、Apple Musicのライブラリには、そんな曲ばかりが増えていく。自分の世界観を支えてくれる音楽に出会えたときの、嬉しさと言ったらない。

どう本を読むか。どんな旅をするか。音楽は、それをコントロールする術を私たちに与えてくれるのだ。

東樹詩織

食や旅の領域でPR・ブランディングに携わる傍ら、執筆活動を行う。アートと本にのめり込み、「as human footprints」名義でZINE出版を開始。写真と動画の撮影・編集も。最近の関心事は、アジア各国のカルチャー、映画、海外文学、批評、3DCG、AI。キャンプ好きが高じて、東京↔︎信州・上田で2拠点生活中。